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ポール・グリーングラス『この茫漠たる荒野で』世界の真実はここに

1870年、ウィチタ。元南軍大佐キッドは町から町へと移動しながら新聞を読み上げることで生計を立てていた。ある日移動中に壊れた幌馬車とリンチされて殺された黒人男性を発見し、彼が送り届ける予定だったであろう少女ヨハンナと出会う。どこかで観たと思ったらSystem Crasherのベニちゃんである。幼少時にネイティヴアメリカンに誘拐されたドイツ人少女ということで、キッドとは言葉も文化も異なり、それが本作品に"多様性"を与えているのだが、基本的には野生児のような感じでベニちゃんとほぼ同じことをしているのには苦笑してしまった。確かにあんな漫画みたいな唸り声を出せる貴重な人材は見つけにくいだろう。物語は、失った家族の言語としてドイツ語を少々と攫ったキオワ族の言葉を覚えているが英語は全く話せない彼女を英語世界に"順応"させるために、彼女の叔父一家のある土地を目指す話だが、疑似家族の形成過程云々の展開は、互いの言語のやり取りとして可視化するという手垢まみれの手法を繰り返すに終始する。

南北戦争終結直後の南部ということで、偽りの平和の中に分断が明白に存在する。明らかに現代への目配せだろう。回りくどいが、共産主義政権時代の東欧映画のような、ナチスを描きながらソ連を揶揄する映画に近いものを感じる。そんな中で最も露骨なのは閉鎖的な自警団に出会ったキッドが、抑圧的な為政者に対する反乱を煽るシーンだろう。ニュース読みという職業柄、映画に説教臭さが出るのは仕方ないものの、このシーンにはドン引きした。

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・作品データ

原題:News of the World
上映時間:118分
監督:Paul Greengrass
製作:2020年(アメリカ)

・評価:50点

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