エリザ・ヒットマン『愛のように感じた』"大人"への憧れとその暴力性
砂浜で波を眺める少女。振り返ると、彼女の顔は日焼け止めで真っ白になっている。まるで仮面のように彼女の顔に貼り付いており、実際に仮面となって後に反復されるこの象徴的なシーンは、大人に憧れて駆け足で階段を登ろうとするライラの作り出した"顔"であり、同時に彼女を守る唯一の壁でもある。14歳のライラは夏の間、年上の親友キアラと常にべったりくっついているが、彼女の隣りには常に男がいて、ライラはそんなキアラに強い憧れを抱いている。キスをして抱き合って浜辺で遊ぶ二人を観察しながら、キアラと二人でこの前彼女が寝た男の話なんかをしながら、昂ぶった性的好奇心を満たそうと躍起になる。
ライラの興味はキアラの元カレである大学生サミーへ向かう。キアラの世俗的でステレオタイプな描写はそのままサミーにも使われていて(というか想像通りスクールカーストの上の方という感じ)、筋肉質で誰とでも寝る男なのだが、それはライラの理想通りの人物像でもある。そして、彼に見合う女性になりたいという一心で、彼の要望に応えたり、セックスをしたと偽装したり、一緒にポルノを観たりするのだが、それは彼女自身を傷付ける結果しか生まないのだ。それでも、彼女は年下の隣人少年に"恋人"がいることを自慢し、父親にはまるで付き合っている人がいるかのように振る舞っている。映画は彼女の破滅的とも言える十代にありがちな衝動を浮き彫りにし、痛々しいが誰もが通るであろう"通過儀礼"を再現する。
しかし、映画は決定的な瞬間(破裂なり破滅なり)は避けてしまい、暗示的なシーンで中途半端に終結させてしまう。男たちの身勝手で女性蔑視的な行動はお咎めもなく過ぎ去ってしまうのだ。ちょっと甘い。感覚的には『Forever's Gonna Start Tonight』が長編になったような感じだが、正直15分くらいしかない同作の方が短い分面白い。双方ダルデンヌ兄弟の背後霊視点が意識されているが、たまに抜け出すのは興味深い。
・作品データ
原題:It Felt Like Love
上映時間:82分
監督:Eliza Hittman
製作:2013年(アメリカ)
・評価:60点
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