クロエ・ジャオ『兄が教えてくれた歌 (Songs My Brothers Taught Me)』だだっ広い平原と澄み渡る空の狭間で

パインリッジのネイティヴ・アメリカン居住地に暮らす二人の兄妹の物語を初期と後期のテレンス・マリックが融合したみたいな語り口で描くクロエ・ジャオの長編デビュー作。なので引用を遡って、今のマリックが『天国の日々』を撮り直したらこんな感じになるんじゃないかというシーンもチラホラ。本人は『ニュー・ワールド』に多大なる影響を受けたと語っている。居住地から出ていくことを目指す兄と仲の良い兄からの独立を目指す妹の細やかな日常が丁寧に積み上げられる様は、それぞれの挿話に直接的な関係性がないことからも、忘れがたい思い出を並べた日記のようになっていると言えるだろう。そのそれぞれの挿話は若い男女のキャッキャウフフみたいな普遍的なものもあれば(ドロ沼でいちゃつくとこ最高)、亡くなった父親に9人奥さんがいて異母兄弟が25人いるとか、兄が違法に酒を売って上京資金を稼いでいるなどネイティヴ・アメリカンならではの文化や問題を感じるものもあり、紛れもなく知らない世界で今この瞬間も続いているであろう人々の生活を陸続きで体感できることに妙な感動を覚えてしまった。

茶色くて山のない平原の無駄とも思えるほどの広さはハンガリーというよりモンゴルや中央アジアの映画を想起させる。それでもやはり、最初に思い描くのは『天国の日々』のだだっ広い麦畑であって、それを完璧に再現した上で自分のものにしたジョシュア・ジェームズ・リチャーズとクロエ・ジャオのコンビには(超絶今更ながら)注目せざるを得ない。

・作品データ

原題：Songs My Brothers Taught Me
上映時間：98分
監督：Chloé Zhao
製作：2015年(アメリカ)

・評価：80点

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