アノーチャ・スウィーチャーゴーンポン『暗くなるまでには』現実と虚構が混ざり合う神秘的迷宮の彼方
傑作。最新単独作『Come Here』を先に観てしまったので、ほぼ同じ手法を使って時空を超越した作品を作っていたことにまず驚いた。一応主軸となるのは、70年代の学生運動に参加した女性作家(?)と彼女の反省を映画化しようとしている若い女性(以下、監督)の物語だが、それに付随する形で70年代の学生運動や軍による弾圧の様子が俳優たちによって演じられ、更には別の女性二人が作家と監督のやり取りを完璧に再現して演じ直すという迷宮のような構造になっている。そしてそれは『Come Here』と全く同じなのだ。その合間には、これまで登場した女優たちが別の形で再登場する映像が挿入される。同じ女優が別の人物を演じていたり、別の人物が同じ人物を演じていたり、人間識別能力の低い私にはかなりキツイ設定だが、その迷宮のような神秘には心惹かれるものがある。
ふと思い出したのが、先日観たアロンソ・ルイスパラシオス『A Cop Movie』である。メキシコの警察官のドキュメンタリーと見せかけて俳優が実在の刑事の生活を演じていながら、本人が最後にインタビューという形で登場する作品で、現実と虚構を往来した不思議な作品だった。本作品もラストに本物の女性作家っぽい人がインタビューでタマサート大学の学生弾圧事件について語っていて、映画内の現実と虚構の中に我々の現実が混じっていく不思議な感覚に襲われた。『A Cop Movie』の手法は、やはり題材が悪かった気がするな。
作家に映画化する理由を問われた監督が"あなたは生ける歴史、意味と価値のある人生を歩んできた"と言ったのに対して、作家が"私は生ける歴史ではなく辛くも生き延びただけだ"と応えるシーンが印象的だった。多分映画を学生運動云々のものとして要約するなら、ここが一つの答えだと思う。
・作品データ
原題:By the Time It Gets Dark / ดาวคะนอง
上映時間:105分
監督:Anocha Suwichakornpong
製作:2016年(タイ, オランダ, フランス, カタール)
・評価:80点
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