アーロン・カッツ『Cold Weather』マンブルコア的ミステリー
ダグは大学で犯罪科学捜査を学んだシャーロキアンだが、将来に明確なビジョンもないままシカゴからポートランドの実家に帰ってきていた。就労経験がないのか妹ゲイルの事務所にクジラ見に行こうぜ!と押しかけて迷惑を掛けているが、兄妹仲は悪くない。そして、ちゃんと就職してポートランドの法律事務所に新たな仕事口を見つけてやって来た元カノのレイチェルに対してもニヤニヤしながら応対して、家に呼んでデートまでしているあたり未練たらたらといったところか。というわけで、マンブルコア初期の伝説的長編デビュー作『Dance Party USA』(2006)から二作目『Quiet City』(2007)を経て制作されたマンブルコアの立役者アーロン・カッツの長編三作目が本作品である。
製氷工場に勤めることになり、DJのカルロスという友人も得て楽しく過ごしていたが、彼と付き合い始めたレイチェルが突然失踪したことで、犯罪科学捜査専攻のシャーロキアン青年ダグは捜査を開始する。失踪したモーテルの部屋からアマンダ・ブルックという娼婦の名刺を発見し、電話するとレイチェルの部屋の電話に繋がり、隣の部屋を借りてすぐにチェックアウトしたカウボーイ風の男がいたり、数字が書かれた紙切れを発見したりする反面、"ホームズっぽくパイプが欲しい"と言って買いに行って微妙な雰囲気になったり、こじつけみたいな暗号解読をしてみたり(結局合ってはいるんだが)して捜査は停滞と前進を繰り返す。
やがて、捜査とは全く関係のないタイミングでレイチェルが自分から登場し、自分がオンラインの売春組織に所属していて、シカゴからポートランドにたっぷりお金のはいったブリーフケースを運んでいたところ盗まれたから失踪したというのだ。そして、なんのひねりもなく犯人も一瞬で分かってしまう。謎解きには興味がなく、寧ろ中心は張り込み中の兄妹の会話に合ったりする。てか最近友達と遊んでる?、彼氏と別れて半年経った、出会いは?、ネットよダサいでしょ、シカゴでネットで会った娘と結婚したやつ知ってる、マジか。確かにこの兄妹は予想以上にベッタリしているし、冒頭の兄の奇行を察するに、ゲイルとしては兄を少しでも支えたいという気持ちがあるのかもしれない。犯人探しにあたって、ダグが頼るのは常にゲイルだった。両親は基、カルロスやレイチェルの存在すら途中から霞始め、純粋に謎解きとスリルを楽しむ兄妹の姿を掬い取る。
そして、アタッシュケース強奪作戦は成功した。駐車場の屋上でレイチェルの到着を待ちながら、学生時代に作ったミックステープを聴いて、兄妹はあの頃を思い出す。ミステリーや犯罪映画という体裁をとった兄妹の物語であり、久方ぶりの再会を果たした二人は、その繋がりを再認識したのだ。
・作品データ
原題:Cold Weather
上映時間:96分
監督:Aaron Katz
公開:2010年3月13日(アメリカ)
・評価:80点
トリエステ・ケリー・ダンはアーロン・カッツの大学時代の同級生で、本作品にもゲイル役で出演している。彼女が鑑賞のきっかけになったことは一応書いておこう。
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