三年千篇のツイッター小説 窮の100篇

1日に1つ、1ツイートに収まる長さの小説を投稿している。
とうとう900篇に到達してしまった。

以前の作品へのリンクは末尾に置くとして、始めよう。

801

「私、実はみかんってあんまり好きじゃなかったんだよね」
炬燵に入った彼女が言う。
「これだけ食べておいてよく言う」
「缶詰のみかんは好きだよ?でも、生のみかんは袋があんま美味しくなくて」
両手を炬燵に入れたままそう言う彼女の口元に、袋を丁寧に取り除いたみかんを運んだ。
#ツイッター小説

802

「あと2分で世界が終わるって時に、カップ麺ができるのを3分待つの?」
「当然だ」
「食べられないじゃん」
「第一に、カップ麺というのは3分で食べるのが最も美味な食べ物だ。妥協して2分で口をつければ、それは妥協した味になる。最後の記憶が妥協の味になるよりはむしろ、最後ま——
#ツイッター小説

803

そのジグソーパズルは私のお気に入りで、上質に作られたそれは何度も崩してもピースが崩れたりはしなかった。けれどその日、組み上がったはずのパズルには1ピースの穴があった。どこを探しても見つからず、仕方なく自分で作ったピースで埋めることにした。穴を埋める絵は知っている。
#ツイッター小説

804

やめろ博士。ロボットに心を持たせるのをやめるんだ。ロボットが心を持てば、身体が無機物でできている点以外我々と同じ『ヒト』になってしまう。そうすれば、今の豊かな世界を支える『自動化』が『奴隷労働』でしかないことが露わになってしまうんだ。リンカーンにでもなるつもりか。
#ツイッター小説

805

「いい?『手作りの玉子焼き』なんていう物は、せいぜい高校生の青春漫画に出てくるものであって、30も過ぎて初めてできた恋人にリクエストするものではないの。そんな事で青春は帰ってこないの」
「……もしかして、玉子焼き作れない?」
「わ、分からないわよ。作ったこと無いもの」
#ツイッター小説

806

「君、今日ちょっとおかしくない?」
「気づいた?このケーキはサヴァランというケーキでねラム酒をたっぷり使ったシロップに漬けられているのが特徴なんだけど僕って戒律でお酒は飲めないけど君は大切な人だから酔った僕がどうなるか把握しておいて欲しかったんだ禄でもないだろ?」
#ツイッター小説

807

「ねえ、ミミズって実は益虫なんだよね?」
「そうだよ」
「じゃあ、ミミズを食べるモグラは?」
「一応害獣扱いだね」
「……じゃあ、この子は?さっき畑で捕まえた……拾った?んだけど」
そう言って差し出された手には、銀色で流線形の、機械でできたモグラが乗せられていた。
#ツイッター小説

808

「栗って馬鹿だよな」
「……植物が馬鹿っていうのもあまり聞かない話だけど」
「いくらあんなにトゲがあるイガを作っても、中身があんなに甘けりゃ開けて食べられるに決まってるじゃん」
「……そうね。でも、中身が不味ければ栗は海を越えてまで栽培されなかったかもしれない」
#ツイッター小説

809

「先輩、あの、いつも私のこと好きって言ってくれますけど、それって——」
「うん。女の子として好きってことだよ。後輩としてじゃなく」
「でも、私には……」
私の言葉を遮るようにして先輩が言った。
「それが?叶わない恋が存在しちゃいけない世界なんて、寂しすぎるでしょ?」
#ツイッター小説

810

小学生の頃から作っていたのだから絶対に有り得ないと思っていたのだけれど、カレー作りに初めて失敗したのはよりにもよって初めて恋人を家に呼んだ日だった。何故かルーが一欠片丸ごと溶けずに残っていたのだ。地の底まで落ち込む俺の姿を見て、彼女は俺と結婚しようと決めたらしい。
#ツイッター小説

811

無人島生活が30日を超えた頃、夢にお告げがあった。
「明日、あなたが一番必要としているものが瓶に入って届きますよ」
翌朝目が覚めたとき、海岸に流れ着いていたものは——なんと船だった。
「実物大のボトルシップなんて誰が作ったんだ。瓶から取り出せないじゃないか」
#ツイッター小説

812

昔からずっと思っていることなのだけれど、これからもたぶん思い続けるのだろう。年子だから当たり前なのに、今年の私が去年の兄さんと同い年だとは思えない。去年の兄さんは、今の私よりもずっと大人のように見えていた。
#ツイッター小説

813

「ふぅ〜……」
ついに届いた禁断の道具を前に、深く息を吐いた。これを使うとEMSの要領で電気刺激で筋肉を動かして、読み込んだプロのイラストを『手書き』できるのだという。邪道だがこれも画力のため。手首に装着し、スイッチを入れる
——600dpiの点描を始めて無理だった。
#ツイッター小説

814

申し訳ない。私の伝達ミスだ。本当にすまない。わざわざオーストラリアまで行って、オーストラリア政府の許可を取って、頑張って狩ったワラビーを冷凍して空輸で持ってきてくれたのは、本当によくやってくれた。
だがわらび餅の原料は蕨であってワラビーじゃないんだ。
#ツイッター小説

815

息を切らしながら駆けつけた私に、彼女は訊ねた。
「見つかった?歌う理由」
「思い出したよ、全部」
「それで?」
「無かった」
「……え?」
言葉を失う彼女に私は言った。
「プロになりたいとか、自分を表現したいとか、誰かに褒めてもらいたいとかどうでもいいの。私は歌が好き」
#ツイッター小説

816

AIの発展によって、プレイヤー1人1人の行動でそれぞれ全く異なるストーリーとなるRPGが発売された。
……のだけれど、売り上げに比較してあまり話題にならなかった。クオリティは申し分無いのだけれど、プレイヤー全員が違う体験をしているせいで共通の話題が無かったのだ。
#ツイッター小説

817

「ここ最近、いつもスポーツドングリ飲んでるけど、ずっとダラダラしててスポーツなんて一切やってないのにスポドリ飲むのって間違ってない?」
「いいんだよ間違ってて。これは日常の中に間違ったものを紛れ込ませる実験だから」
悪びれずにそう言う彼に、私は呆れてため息を吐いた。
#ツイッター小説

818

「ひとの迷惑も考えずに夜中恋人募集の鳴き声を上げやがって」
というやっかみの気持ちから庭先に吊るしていた鈴の上に、朝目が覚めたらマジで鈴虫が乗っていた時の気持ちを100文字以内で答えよ。
#ツイッター小説

819

さあこれが、焼きが回った詐欺師の一世一代の大芝居。観客はまだこの世にいない。
「僕はこの世界を、僕は君を愛している」
笑顔でそう騙り尽くしてやろうじゃないか。
俺はそう心に決めて、泣き声の響く産婦人科の病室のドアを開けた。
#ツイッター小説

820

ギリシャ神話ではアトラスが天を支えているという話だけど、ギリシャ神話に於いて大地はガイア、天はウラノスで、夫婦だった2人の子どもであるクロノスがウラノスのアレをアレしたから天が地から離れたというはずなのだけれど、アトラスが支えているものはいったい何なのだろうか?
#ツイッター小説

821

「あの……悔しくないの?だって、あんなに時間をかけてきたんだよ?」
気遣わしげに言葉をかけられて、少年は立ち上がった。
「やれることは全部やった。全力を尽くして負けたんだ」
そう言うと、彼は振り返って続けた。
「悔しいに決まってるさ」
#ツイッター小説

822

電灯が白熱灯から水銀を使う蛍光灯へ移行した真の理由を秘匿していたのはヴァンパイアハンターの落ち度で、それが極めて下策であったことが、蛍光灯からLEDライトに置き換わってきた今になって明らかになってきている。
#ツイッター小説

823

「車も飛ばなきゃタイムマシンもできない。人工知能は人工無能で、いまだに恋するパソコンさえいやしない。いったいこの200年、人類は何をしてたんだ」
「そう言うなよ。だって、200年前にはあと50年で人類が滅びる予定だったんだから。必死こいて今まで繋げてきたんだよ」
#ツイッター小説

824

いつものようにカップラーメンにお湯を注いでいると、湯気の中から妖精が現れた。
「もしかして、願いを叶えてくれるやつ?」
「いいえ。でも、ラーメンが出来上がるまでの暇つぶしの相手くらいにはなりますよ」
それから3ヶ月——
「あの、まだ食べないんですか?」
「もう少しかな」
#ツイッター小説

825

金を握らせた山賊が、首尾よくメロスを始末したという伝令が届いた。日はまだ高い。磔になった人質を見て王はほくそ笑んで、ふと考えた。
届くはずの無いものを待たせるのと、この場で終わらせてやるのではどちらがより残酷だろう?
俺が始末したと言えば、こいつは笑って逝くだろう。
#ツイッター小説

826

「未来予知ができるんだってな」
「ああ、今のところ的中率100%だ」
「俺たちの未来はどう見えてる?」
「お前は……墓が見える」
「的中率100%ってそういうことかよ!」
「人間は誰だって死ぬもんな」
「……そっちのお前は、墓が見えない。……お前、何者だ?」
#ツイッター小説

827

「肉体を捨てて、電脳になって、ずいぶん長いこと生きてるか死んでるか分かんないまま過ごしてるうちに、なんでここまでして生き延びてるのか分からなくなっていたんだが、最後の最後でようやく分かった。
こうやって笑いながら抱き締められながら逝けるんだ。報われたってもんだ」
#ツイッター小説

828

「やあ、おはよう。はじめまして。寒かったかい?今はどんな気分かな。太陽の光に触れられて嬉しい?それとも、どうしようもないくらいのひとりぼっちに寂しいかな?それでも花は咲くんだね。もう世界のどこにも相手はいなくても」
僕は3万年前の氷床から発掘された花に話しかけた。
#ツイッター小説

829

「ふと思ったんですけど、先輩って手綺麗ですよね。爪とか伸びてなくて」
「……女の子は男の手にセクシーさを感じるって本当?」
「なっ!?誰もそんな話してませんよ!」
「あはは。別にいつもこうってわけじゃないよ。単にデートの前夜に切ってるだけ」
「……何故です?」
「あ」
#ツイッター小説

830

「私、ナイトプールに行きたいの!」
そう投げかけて様子を伺う。堅物の執事を論破するための手札は100枚用意していた。
「ええ、いいですよ」
だから、この反応には逆に面食らってしまった。
そして当日。
「お嬢様に楽しんでいただけるよう、貸切にいたしました」
「違うでしょ!」
#ツイッター小説

831

「小説家が小説家の小説を書き始めたら終わりだよ」
そう言っていた先生が小説家の小説を書き始めた時、私が何故と問うと先生は困った笑顔で答えた。
「書いておきたくてね」
『最後に』という言葉が省略されているのが、私でも分かった。そして、30巻を超えてまだ書いている。
#ツイッター小説

832

夕食のフライを一口食べて、私は妻に訊ねた。
「これ、何のフライ?」
「さかな」
「……アジ?」
「さかな」
「鮭?」
「さかな」
「ふぐ?」
「さかな」
「……この味噌汁の具は?」
「え?ワカメと豆腐だけど、見て分からないの?」
「……これ何のフライ?」
「さかな」
#ツイッター小説

833

「どうしたの?」
急に尋ねてきた俺を見て、彼女は目を丸くした。
「……どうもしてない」
「どうもしてない人は、どうもしてないって言わないから」
彼女は呆れたようにそう言って続けた。
「ココアでも飲む?」
「……ホットミルクでいい」
「分かった。砂糖はたっぷり入れるね」
#ツイッター小説

834

「こんなもの育ててなんになるっていうんだ。戦争の最中に」
珊瑚園で発せられた問いに男は答えた。
「気づいてるんだろ?地上に住めなくなったのはフロートの奴らのせいじゃなくて、俺達両方の先祖のせいだって」
「だからってどうしろってんだ!」
「取り戻すのさ。地上をこいつで」
#ツイッター小説

835

「実は、夜景、嫌いだったんだ」
ホテルのレストランで恋人が言った。
「どうして?綺麗なのに」
「夜景の光ってようは人の家の明かりでしょ?こんなにたくさんあるのに、どれも僕の帰る明かりじゃないんだ、って。——でも、もう違う。君が変えてくれたから」
#ツイッター小説

836

「ねえ、キス好き?」
「ん?ああ、好きだよ。てんぷらとか美味しいよな」
「ほんと?私、名前は知ってるけど、実は食べたこと無いの。君は食べたことある?」
「えーっと……いや、無いな。うん」
「ふふふふっ。食べたこと無いのに『好き。美味しい』なんて即答したのはどうして?」
#ツイッター小説

837

「現代にも“異能”があるって信じるか?」
「ラノベの話か?」
「何、火を吹くとか雷を出せるとかそういう話じゃない。“嘘を見抜ける”とか“ハッカー”とかさ。そして俺は“他人の能力が分かる”」
「……俺のは?」
「実は、分からないんだ。——つまり“能力を隠蔽する能力”じゃないかと」
#ツイッター小説

838

脚を曲げて、伸ばす。ぶらんこに乗りながら考えた。いつか遠い未来、ぶらんこというものが忘れ去られた時代に生まれた人に、この乗り物のことを説明することができるだろうか?
この、動力もついておらず、どこにも行くことができないぶらんこという乗り物のことを。
#ツイッター小説

839

「この鞄にはなんでも入ってるんだよ。世界にあるもの全て」
「じゃあ、私を出してくれる?」
「ごめん。『世界にひとつしか無いもの』は流石に入ってないんだ」
「ああ、それなら大丈夫。早く出して」
「え?——ほんとに出てきた」
「ありがとう。手元にスペアが1人欲しかったんだ」
#ツイッター小説

840

私の通学路には、少し気を抜くとペダルが逆回転してしまうような険しい坂があった。テストの帰り、普段より疲れていた私はふらついて、途中で自転車を降りて気がついた。
「歩くなら止まって転ぶことも、後ろに進むこともないんだな」
翌日からは、また自転車に乗ったまま坂を登った。
#ツイッター小説

841

関わる人間の誰もが自分との約束を守らないことに業を煮やした男は、
「私との約束を破った人間は、破った数が多い順に全員死ね」
と世界を呪った。
次の瞬間、男は息絶えた。最も男との約束を破っていたのは男自身だった。
術者が死んだので、次に死んだ人間はいなかった。
#ツイッター小説

842

白雪姫の帰還により魔女は放逐されたが、事の発端となった魔法の鏡は処分されなかった。魔女以外はその鏡のことを知らなかったのだ。
ある日、鏡を見ていた白雪姫は目尻に小皺を見つけた。僅かな焦りと共に白雪姫は無意識に呟いた。
「鏡よ鏡、世界で一番美しいのは誰?」
「それは—」
#ツイッター小説

843

「キリギリス。歌ってばかりいないで、食糧でも集めたらどうだ。そんなだからお前たちは冬を越せないんだ」
「馬鹿言っちゃいけない。俺たちの歌は愛の歌だ。歌わなきゃ恋人はできない。運命の人に出会えるなら、その冬死んでも本望さ」
「……恋?運命?」
「ああ、お前達は……」
#ツイッター小説

844

姉達は心に決めた。王子を奪って妹を泡としたあのカスザメ女を殺すのだ。妹の尾鰭も声も私たちの髪も奪っておいて何も返さないなら、せめてこの残った短剣で奴も失うべきだ。
深夜、結婚式が行われた船の甲板に尾鰭で上がる。花嫁に短剣を振り下ろしたその時、短剣を強風が逸らした。
#ツイッター小説

845

「何して遊ぶ?」
「鬼ごっこにしよう!」
子供心に気を使ったつもりではあったのだが、思い返すとその日出会った鬼の子と一緒に遊ぶには、皮肉がすぎる遊びのような。だが、鬼から逃げる鬼の子の楽しげな笑顔も覚えている。鬼にとっては『鬼ごっこ』は『人ごっこ』なのかもしれない。
#ツイッター小説

846

「うーん……」
「どうしたの?『記憶の味のレシピを再現する装置』、うまくいかなかった?」
「いや、間違いなくこの味だと思うんだけど……こんなに高い材料じゃなかったと思うんだよなぁ」
「え?——ああ、なるほど。バナナだ。絶滅した材料は使えないから、代用品を使ったんだ」
#ツイッター小説

847

そんな意見が出るなんて、当初は想定されていなかったことだった。
「なんで!?せっかく何世代もかけて星間移民船で旅をして、ようやく居住可能な惑星を見つけたのに!?」
「俺たちは宇宙生まれだからさ。俺たちとこの船は周回軌道に残して、お前たちは着陸ポッドで上陸して欲しい」
#ツイッター小説

848

またしてもうさぎはカメに勝てなかった。いや、懲りずにゴール直前で昼寝を始めたのは今回も同じだが、それが問題なのではない。なぜなら、今度はカメまで昼寝を始めたのだ。ゴール直前で眠るうさぎの脚を枕にして、お腹にぴったりと甲羅を押し付けて。勝負は引き分けになった。
#ツイッター小説

849

かつて野薔薇姫と呼ばれた彼女の部屋には、古ぼけた紡錘がある。王子が怪訝そうに見ていると、彼女は言った。
「私に一番の贈り物をしてくれたのは、13番目の仙女さんじゃないかなって」
「何故?」
「だって、他の皆がくれた全てを使っても、きっと私は100年後の貴方を待てなかった」
#ツイッター小説

850

「その仕事はね、実は昔は人間がやってたんだよ」
「え?嘘だぁ。コンピューターを使わずにできるわけが無いじゃん」
「元々は紙を使っていてね。そこに人の手で穴を開けていたんだ」
「なんでわざわざそんな非効率なことを?」
「そういうものだったんだよ。鉄道の改札というのは」
#ツイッター小説

851

月が綺麗なことが私に何の関わりがあるの?
#ツイッター小説

852

「右!もう少し右!」
「……スイカ割りでしょ、普通。なんでバナナ割り?」
「だって、砕けたスイカなんて食べたくなくない?バナナなら、房から1本に分かれるだけだから」
「まあ、合理的なのか……ってその向きはダメ!」
嗚呼、真横から振り下ろされた棒はバナナを無惨に潰した。
#ツイッター小説

853

「よし」
腕をストレッチしながらコースを見据える。こんなこともあろうかと、ハードルを地中深く埋めておいたのだ。高さは足首ほどしかない。
だが、それが間違いだった。
走り抜けようと踏み越えたハードルに左脚がつまずき、転んだ勢いでさらに前のハードルに額をしたたか打った。
#ツイッター小説

854

「古記憶屋?」
「ええ。お客様の記憶を買い取ったり、販売したりしている者でございます」
「どうせトラウマやなんかだろう?」
「いえ、幸せな記憶も豊富に。どうです?1つ。お安くしますよ」
——
「ああ、確かに幸せだった。……続きは?」
「いえ、それはございません」
#ツイッター小説

855

「おねえちゃん」
夏祭りの夜、手を引く女性をそう呼んだ記憶が確かにある。僕は一人っ子なのに。
そう思っていた。
母は、僕が物心付く前に離婚し、再婚していたのだそうだ。
僕は恐ろしかった。
他の何よりも、あの一夜で実の姉に抱いた感情が紛れもなく恋心だったと解ったことが。
#ツイッター小説

856

風の中、綿毛が燕に呼びかけた。
「背中に乗せてくれないか。誰よりも遠くで咲きたいんだ」
「いいだろう友よ。その期待に応えよう」
翌年、綿毛は見知らぬ異国の地で咲いた。
「久しぶり、友よ。ここで咲いてみてどうだった?」
「可もなく不可もなく、かな。君が来てくれるまでは」
#ツイッター小説

857

「君の調理技術や、レシピをまとめ上げる能力は超一流だ。それは認めよう。だからといって、料理の名前から想像でレシピを作るのはもうやめるんだ」
「でも、今回のは間違ってないと思います」
「『トルコ風アイス』というのは……
『七面鳥入りアイス』じゃないんだよ!」
#ツイッター小説

858

「なあ、俺はどうすれば良いんだろう?」
「何が?」
「俺には好きな人がいたんだ。でも、好きな人には好きな人がいて、そいつのことを俺は嫌いだった。そして——俺が好きな人が好きな人は、俺が好きな人のことが嫌いだったんだ。
なあ、俺はどんな顔をすれば良いんだろう?」
#ツイッター小説

859

ある日世界は2つに分かれた。人類の半数にだけ、その死ぬ日付が明かされたのだ。
「なんで?」
3年という彼に残された僅かな時間を全力で愛し通そうとする私に、それ以上に大きな愛を返す彼にその理由を訊くと、彼は笑って答えた。
「君がもし明日死んでも、後悔してほしくないから」
#ツイッター小説

860

「もしかして、人を探してますか?」
「よく分かりましたね。恋人を探してるんです」
「大変じゃないですか!顔の特徴とかは?」
「分かりません」
「え?」
「だって、今探してるので」
「なるほど。ということは…こんな顔では?」
その言葉に男が振り向くと、女には、顔がなかった。
#ツイッター小説

861

「今すぐ止めろ!」
爆発的に広がった、これまでにないクオリティの『ユーザーが望むものを的確に提供する広告AI』の中枢を捜査官が突き止めて乗り込んだ時にはもう手遅れで、広告を通じてデリンジャーを購入した半数のユーザーが自分に使用してしまっていた。
#ツイッター小説

862

「おふたりの馴れ初めエピソードを教えてください」
「共通の趣味で知り合いまして、運命の人だと思って自分の方からアプローチしました」
「なるほど、奥様は?」
「FPSをボイチャしながらプレイして、台パンしながら叫ぶ私を運命の人だと思ってくれるなんてこの人だけだと思って」
#ツイッター小説

863

「なぁ、“運命の赤い糸”が見えるってほんとか?」
「……ええ」
「すげえじゃん」
「そうでもないの。あれ、結構簡単に解けたり結ばれたりするから」
「へぇ〜」
——そう信じて待っていたのだけれど、貴方に繋がる赤い糸はずっと私の首に巻きついているのはどうして?
#ツイッター小説

864

流れ着いた瓶には、恒星の位置から割り出したであろう緯度と経度の記された羊皮紙が入っていた。どの港からも遥かに遠い絶海の洋上。そこには海図にも記されていない島があった。
「ああ、そうか」
上陸して、嘆息した。そこには宝箱ではなく、救助を待っていたであろう亡骸があった。
#ツイッター小説

865

とても仲が良い文通相手には、1つだけ奇妙なことがあった。彼が文章の末尾によく付けるマークを、‼︎だと思っていたのだけれど、よく見るとそれは人の足だった。
その謎は、彼に会って初めて分かった。
「足があれば僕から会いに行けのに」
彼にとって、愛は心臓ではなく足にあった。
#ツイッター小説

866

「あの……なんか、いつも同じような物ばかり食べてません?おごってもらう私がいうのもなんですけど、もっといいメニューを頼んだ方がよくないですか?」
「大丈夫。私、味覚が無いから」
「え?」
「でも、一緒に食べてくれてる人の笑顔で、美味しい物を食べてるって分かるんだ」
#ツイッター小説

867

「そういえば、あんた2人暮らしだって?」
「そうだけど?」
「彼氏?」
「ぶっ!まさか。女同士だよ」
「……なんで?」
「私に彼氏がいるわけないからだよ。……って何言わせんの!」
「そうじゃなくて、なんで一緒に住んでるの?」
「え?……2人ともお金がなかったから?」
#ツイッター小説

868

「私はランプの魔神。お前の願いを一つ叶えてやろう」
「私は、幸せになりたいです!」
「……なんて曖昧な願いなんだ。だがランプの魔神に不可能はない。お前の思う『幸せ』を心に思い浮かべるといい」
視界が光に包まれ、手の中に残っていたものは——
「——恨むぞ明石家さんまァ!」
#ツイッター小説

869

「あぁ魔法使いのお婆さま。私はどうしたらいいの?」
「どうしたんだい?深刻な顔をして」
「忍び込んだ舞踏会で、王子様を好きになってしまったの。私達の家はいがみあっているのに」
「それなら心配いらないよ」
「ほんと⁉︎」
「彼には10になる前から心に決めた相手がいるから」
#ツイッター小説

870

「今週、抜き打ちテストをやります」
「先生!抜き打ちテストはできないって知ってますか?」
「何故です?」
「金曜日までテストが無ければ、金曜日にテストをやることが分かります。それだと抜き打ちにはなりません。なので金曜日を除外すると今度は——」
「なので、今からやります」
#ツイッター小説

871

「ねえ、たいやきって食べたことある?」
「うん?うん」
「え〜?タイヤを切って食べたことあるの〜?」
「まあね。ちょっと塩気が薄かったけど、1個で結構量があるから1ヶ月くらい保ったな」
「え……?」
「……なにか?」
#ツイッター小説

872

「お客様、どうされましたか?」
「この店では、客に合わせたカクテルを作ってくれるんだろ?一つ作って貰おうかと」
「……畏まりました」
バーテンは一言そう言ってシェイカーを振った。そして出されたグラスを、客は一気に飲み干した。
「流石だ。私が酒は飲めないのもお見通しか」
#ツイッター小説

873

「なんだってトライ・アンド・エラーの連続なんだよ。1回失敗したからといって諦めるこたないんだ」
「でも、繰り返し挑戦できることが全てじゃないでしょ?」
「たとえば?」
「告白とか」
「……」
「つまり……これで何回目?」
「次こそは君の気も変わるかもしれないだろ」
#ツイッター小説

874

「あったか〜い。外が寒かっただけに沁みるね。それにしても、こんな雪原の真ん中にスパリゾートを作るなんて、光熱費とか高く付かないのかな?」
「実は、このスパは隣にある施設の副産物なんだよね」
「温泉でも出たの?」
「ううん。データセンター」
「え?」
「データセンター」
#ツイッター小説

875

「柿って、珍しい果物だよね。特に渋柿。干し柿にしないと渋くて食べられたもんじゃないって、他にそういう果物あんまりないでしょ」
「言われてみれば確かに」
「英語のPersimmonなんて『干し果物』って意味なんだって。なんでそこまでして渋柿を食べようと思ったんだろうね?」
#ツイッター小説

876

「『ふるさと』なんて言われても、こんな作りたての家しかないニュータウンじゃ実感が湧かないよな、って、小学生くらいの時分には思ってたんだよ。でも、こうして帰省してみると、ちゃんと田舎になってるんだよな。まあ、同い年のマンションが築30年なんだから当然なんだけど」
#ツイッター小説

877

「この間転生した時はのばら姫の蛙でさ〜。嫌になるよな」
「いいじゃないか。羨ましいよ」
「羨ましい?カエルの王子様なら分かるけど」
「好きな人に『貴女の願いはもうすぐ叶う』って伝えられたんだろ?代わって欲しいくらいさ」
「……別に俺は好きじゃねえし!」
#ツイッター小説

878

「それは違うよ」
「何が違うというのですか。我々デュプロイドにとっては、自らの手で制作したデュプロイドは自身の子どもです。それに私がご主人様との日々で得た『ご主人様の思考パターン』をインストールしたものは、私とご主人様の子ども以外の何だというのですか」
#ツイッター小説

879

「どうしたの?」
お弁当のミニトマトにフォークを刺して唸る僕に君が訊ねた。
「何故苦手な食べ物なんてあるんだろう?なんでも食べられた方が生存には有利なはずなのに」
「それはきっと——」
君はフォークを持った僕の右手を取って言った。
「君から私が分けてもらうためだよ」
#ツイッター小説

880

「私、一度カップラーメンというものを食べてみたかったの!」
「で、味は?」
「……庶民はこんなもの食べてるのね。今度、ちゃんとしたラーメンを食べさせてあげるから」
「ま、漫画みたいな反応にはならんか…」
——
「着いたわ。ここが最高のラーメン店、郎よ!」
「大概だな!?」
#ツイッター小説

881

「今朝、君とデートする夢を見たよ」
「まったく、君は気楽でいいね。そんなことを嬉しそうに私に言ってくるなんて」
「どうしてそんなに機嫌が悪いの?夢にまで見るなんて、ロマンチックじゃない?」
「他人の気も知らないで。こっちは一晩中君のことを考えてて寝られなかったのに」
#ツイッター小説

882

「ついに眠らなくても良くなる薬が完成したぞ!」
「やりましたね博士!でも、どうやったんですか?」
「それは、ここが夢の中だからさ。夢を見ている間は寝る必要はないだろ?」
——
「にゃるほど、博士。画期的です……」
「起きろ助手。仮眠は1時間の約束だろう」
#ツイッター小説

883

「学校の怪談?」
「ええ。この校舎の1階と2階の間——」
「それ怪談じゃなくて階段じゃん!」
「——その階段を数えながら登ると、永遠に2階に着かないんだって」
「怪談だった……」
「——その噂を昨日亜美に教えたんだけど、まだ帰ってきてないの」
#ツイッター小説

884

最初は人間だったのだが、万能の天才になり、不老不死になりとステップを踏んで、終に全知全能になった。
そして後悔した。全知全能は、全てを選ばなくてはならない。私は何もできなくなることを望んだが、『全知全能はその能力を捨てることができるか』という逆説を解けなかった。
#ツイッター小説

885

「お母さん」
夫婦の寝室に、図鑑を抱えた娘が入ってきた。
「何?」
「あと50億年で太陽は燃え尽きて、みんな死んじゃうんでしょ?なのになんでみんな生きてるの?」
不安そうな表情に自分の子供時代を思い出す。私は答えた。
「そうならないための宇宙船を作れるようになるためよ」
#ツイッター小説

886

「はあ」
俺は頭を抱えて首のリングを突いた。life recorder。常時360°撮影するこの装置のDBは、多数のユーザーのデータから3D空間を再現し、重複部分を削除することで容量の増大を抑制している。
問題なのは、PCに表示されたデータがこの世界こそその再現空間だと示していることだ。
#ツイッター小説

887

「未来になるとSFってつまらなくならない?」
「どうして?」
不思議そうに聞き返す自称未来人に私は言った。
「ジュール・ヴェルヌの時代なら、世界一周するだけでもSFでしょ?今じゃ少し大規模な旅行だよ」
「それは確かに。地球内大空洞も未来じゃただの観光地だしね」
「待って」
#ツイッター小説

888

「初めて会った日のこと、覚えてる?」
「うん。入学式の時だよね」
「え?いや、転校してきたの夏休み明けだろ?あんなベタに食パンくわえてぶつかったのを忘れたの?」
「そうじゃなくて、小学校の時のだよ。私が転校して向こうに行く前の」
「……え?」
「覚えてなかったの!?」
#ツイッター小説

889

「そういえば」
私はふと考えた。去年のクリスマスプレゼントに欲しかったもののことは考えるのに、今年のクリスマスプレゼントとして欲しいものを考えないのはなぜだろう?
「……誰もくれないからか」
ちなみに去年のクリスマスプレゼントに欲しかったものは『余命宣告』だった。
#ツイッター小説

890

ブレーキが壊れ、列車の暴走は止まらない。下り坂で勢いを増し、目の前の崖へと脱線は避けられない。
「今だ!」
「「せーの!」」
乗客の1人の掛け声で連結器が壊される。他の車両が海に落ちる中、最後尾の一両だけは前の車両から引っぺがした屋根を翼のように広げてふわり着水した。
#ツイッター小説

891

『亡くなった人の電話に1回だけ繋げてくれる公衆電話がある』
そんな噂を聞いた。
「これです」
案内してくれた男がいう。
「誰にかけるんですか?」
「父に」
震える指で番号を押す。
「……繋がらない?」
「——ご存命では?」
その言葉に、私は無意識に呟いた。
「引っ越さないと」
#ツイッター小説

892

クリスマスにわくわくしなくなったのは、中学1年生の冬だった。
しかし何故だろう。あれから10年が経って、何も変わっていないはずなのに、胸が高鳴っている。
「これ下さい」
はっとした。自分が発した言葉に、何が変わったか気づいた。そして、両親が嘘を吐いていた理由も分かった。
#ツイッター小説

893

キスで目を覚ますなんて、まるで御伽噺のような
「……ここは?」
「やっと起きてくれた」
混乱していたが、助手の泣き顔を“視”て全てを理解した。
「ありがとう。君が助手で良かった。
——万一を考えて思考回路のバックアップを取っていたのに、無感覚状態だと沈黙するものなのか」
#ツイッター小説

894

「すっぽんは、月を見て自分と似ていると思うのかな?」
「山とか岩とかに似てると思うんじゃないの?すっぽんが月に似てるのって裏側でしょ?」
#ツイッター小説

895

雪が降り始めた時は、その冷たさを恨めしく思った。けれど、積もったそれをしっかりと固めてかまくらにすると、それは頼もしく風雪から私を守ってくれた。そんなある日、かまくらの天井から雫が落ちてきた。春が来たのだ。私は大切な相棒を奪おうとする春を恨めしく思った。
#ツイッター小説

896

「あら、懐かしいものが出てきたのね」
老夫が抱えていたのは、骨董品のレコードプレイヤーだった。
「まだ動くみたいだ」
レコードをかけると、優美なワルツが流れる。
「踊るかい?」
「ええ」
手を取り合って夫婦は踊る。
「——なんで踊れる事、今まで黙ってたの?」
「お互いにな」
#ツイッター小説

897

「片方の足が沈む前にもう片足を前に出し、その足が沈む前に反対側の足を——」
呟きながら足を進め続けるが、努力の甲斐なくどんどんと沈んでいった。
私は落胆した。しかし、嘆く必要はなかった。沈みきった私は俯いていた顔を上げて、水底を踏み締めて前へと歩き始めた。
#ツイッター小説

898

「見上げた月が、あんまりに眩しかったからさ。掴みたくて手を伸ばしたんだ」
「……掴めたのか?」
「いや。代わりに、自分に手が生えてることが分かった」
「は?」
「驚きだよな。こんなに近くにずっとあったのに、光に翳すまで自分の手の形も知らなかったんだから」
#ツイッター小説

899

私の右手が
「初めて貴方の手を握った!」
と喜ぶものだから、私は密かに目を丸くしていた。デートの時はずっと手を繋いでくれているのに。その時私は、貴方がずっと歩道で私の左側を歩いていたことに気づいた。
今、私たちは両手を繋いでいる。向かい合いながら、キスをしながら。
#ツイッター小説

900

「あれ?貴女、魔眼持ちって言ってなかった」
「そうだよ。嘘を書いてる文字は赤く見えるの」
「でも小説なんて読むんだ。意外」
「まあ、基本真っ赤だけどね。でも、たまに赤くない所があって——
君は本当にその人のことが好きだったんだね」
背表紙を撫でて、彼女は誰かに言った。
#ツイッター小説

いかがだっただろうか。1つでも気に入ってもらえたら嬉しい。
いよいよ次回が最後になる。また3ヶ月後くらいに。


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