【ショートショート#3】つながっていることを忘れない
クリスマス。
いつから、クリスマスは、こんなふうになったのだろうか。
イルミネーションが輝き、その光景をスマホで撮る。
そして、カップル同士が腕組んで歩いて、、、、
「さむっ」
つい、声が出てしまった。
俺にとってクリスマスは、小学校1年生で終わったのかも。
もし、今、これを小学生とか、子どもが読んでいるのであれば、
サッと違うページに進んでほしい。
もし、「私は、大人の階段をのぼる」というんだったら、
このまま読んでいただいても構わない。
小学校1年生の時、俺は頑張ったんだ。
布団に入りながら、一切、寝なかった。
ずっと起きていた。
はっきり覚えている。襖が開いて、
ゆっくりと箱を俺の枕元に置いていったことを。
そして、それが、いわゆる”サンタ”だったことを。
そこから、学校の図書室に行って、
サンタの起源のような本を読んだ記憶がある。
公文式で国語、算数(数学)は、
結構勉強していたのだ。
だから、ある程度、漢字も読める。
そう、読めてしまったのだ。
そんな記憶を片隅に、イルミネーションで騒いでいるカップルたちを
横目に、俺はコートのポケットに手を突っ込んで、
暗いコンクリートを見ながら歩いていた。
そこに、一匹の野良猫が現れた。
「おっ」
黒猫だ。なかなか可愛い顔をしている。
こんな人間の騒ぎに驚いて出てきたのか。
そんなことを思った瞬間だった。
強い風が一気に吹いた。
グッと体を縮こませる。
すごい風だったなぁ、と思いながら、
ちょっと顔を上げると、そこに、
猫耳メイドが立っていた。
「えっ」
いましたっけ。
今日はハロウィンじゃなくて、クリスマスイブ。
おかしくない?
そのメイドさん、少し様子がおかしい。
気品さえ感じる。単なるコスプレではない雰囲気だ。
ロングスカートで、いわゆる格式高い、欧風のメイドさんだ。
で、猫耳だ。
それにしても寒いな。そう思った時だった。
「また、迷い込んできましたか」
猫耳メイドが話しかけてきた。
迷い込む・・・
そう、俺は迷い込んだのだ。
気づいたら、クリスマスのイルミネーションはなく、
月明かりだけだった。
そして、俺は、なぜだか浄水場に立っていた。
「気をつけてください。足を踏み外すと、真っ逆さまです」
「こ、ここは」
「あなたの世界線でいくと、新宿です」
「新宿?」
いや、周り何もないし、水路しかないし。
「今は、明治です」
「め、めいじ?」
明治なんて、チョコレートでしか口にしたことがない。
なんだ、タイムスリップか。
「今、あなたはタイムスリップとか思ったのでしょうが、
正確に言うと、そうではありません」
俺は、その猫耳メイドを睨みつける。
猫耳メイドは、ため息をついて、
「量子学の観点からすると、この世の中は確率でできています。
1番安定しているところを求めて、原子や粒子は動きます。
ですが、あくまで確率です。
不確定要素があり、ちょっとした確率の変化で、
不安定なところが生まれます。
その不安定な部分から、時空の狭間が生まれるわけです。
そこに、あなたが入ってきた」
俺は思った。
これが、俗にいう、ちんぷんかんぷんだ。
「どうですか、明治は?」
そう言われても、何も思わないよ。
でも、今の新宿とは全く違う景色だ。
水路もコンクリートで固められたもの、というものでもない。
人の手が入っているとはいえ、
自然を感じることができる。
都会に住んでいるとわからないが、
新宿にも、こういう時代があったんだ、と思う。
歴史があるんだ。
今ある自分、今ある新宿も、全て昔から繋がっているんだ。
猫耳メイドが、「にゃー」と鳴く。
すると、また風が強く吹く。
俺は、体を縮こませる。
そして、気づいたら、
イルミネーション輝く、新宿に戻っていた。
地面を見ると、黒猫が俺の方を向いている。
「ミャー」と小さく鳴いて、去っていく黒猫。
何だったんだろうか。
イルミネーション輝くクリスマスツリー。
その周りにたくさんのカップルがいる中で、
おじいさんとおばあさん、おそらく夫婦と思われる方もいた。
あの黒猫は、そのご高齢の夫婦の足元に擦り寄っていった。