『本当に休めていますか?』(ショートショート#6)
ここを頑張れば、明日から休める。
そう、思って踏ん張っていた。
横には、レッドブル。
ここ最近、おれの相棒だ。
とりあえず、首も目も凝りながら、
やりきって、駅に向かう。
今日は終電まで十分時間がある。
疲れたし、ゆっくり歩いて帰ろうか。
そう思って、いつもの地下道に入る。
ふと思う。
ちょっと暗い。
どこか電気が切れているのか、節電か。
それとも、疲れすぎて、
ただの勘違いか……
まぁ、たまメンテナンスも入るため、
何かの調整だろうか。
「大丈夫ですか?」
急に後ろから声をかけられる。
私は、驚きながら振り返る。
後ろには、私のハンカチを手にもって、
心配そうな表情のおばさんが立っている。
私は会釈して、ハンカチを受け取る。
そのおばさんは、
「ハンカチもそうですが、
フラフラして歩いてますけど……」
私は深いお辞儀をして、駅に向かう。
すると、隣の通路から、
また、おばさんが出てくる。
「大丈夫ですか?」
なぜだ。
俺よりも後ろにいたはずだ。
なぜ、俺の横から出てきている。
先回りをした?
そんなことはない。
そっくりさん?
私は軽く会釈をして、駅に向かう。
駅につき、改札を通って、電車を待つ。
そこで、またおばさんに言われる。
「大丈夫ですか?」
しつこい。
でも、おせっかいなおばさんだ。
そういえば、そんなおばさんが、
子どもの頃いたなぁと思う。
そのときは、笑顔で楽しく話していたのに、
今では、無表情でうざがっている俺に変わっていた。
その瞬間、悲しくなって、泣けてきた。
おれは、人の思いやりを
感じ取れなくなっているのではないか。
携帯が鳴る。
実家にいる母親からだ。
着信の番号を見ながら、
少し考え、息をゆっくりと吸って、
電話を取る。
「ほい。どうかしたぁ?何かあったん?」