ことばに「人格」をふりかける (会話体験をつくる vol.7)
昔、学校に強烈なキャラの先生がいた。
クラスのお調子者がよく先生のモノマネをしていて、めちゃくちゃおもしろかった。ご本人とモノマネの記憶が混ざるぐらいに。
でも、あれって何をマネしてたんだろう。
会話体験のキャラクター設計
今回は、会話体験のキャラクター設計の話をしたい。
キャラクター。キャラクターってなんだろう?辞書にはこうある。
1. 性格。人格。その人の持ち味。「特異なキャラクターの持ち主」
2. 小説・劇・映画などの登場人物。「キャラクターの設定がうまい」
3. 文字。記号。
出典 小学館『デジタル大辞泉』
「性格。人格。」なるほど。そうだよね。
といっても、私たちは会話体験をつくる話をしているので、問題は登場人物の「ことばに出る人格」だ。
同じメッセージでも、どんな風に話すかは人によって違う。たとえばプロポーズとかも。
私たちは多かれ少なかれ「話し方には人格が出る」と思っているし、それを利用して、話し方から人格を読み取ってもいる。
「何をどの順で言うか」を決めるのがシナリオ設計なら、「どんな風に話すか」を決めること、つまり「話し方のデザイン」がキャラクター設計だ。
話し方の要素
じゃあ、話し方ってなんのこと?
感性デザイン部では大きく3つの要素に分けて考えている。
キャラクター設計で決めること
・キャラクター性の強弱
・口調・口ぐせ
・脱線への対応
キャラクター性の強弱
まずはキャラクター性の強弱。
そもそも、キャラクターはいつも濃くなくてもいい。むしろキャラクター性が弱いほうがいい会話もある。
たとえば、この何の変哲もないスマートスピーカーに天気を尋ねてみよう。
これにほんのちょっとキャラクター性を足すと、こんな感じ。
これぐらいの違いなら、どっちがいいかは好みの問題だろう。
実際、どの程度キャラクター性を出すかはケースバイケースだ。
主に考慮するのはこの二つ。
①体験の目的・タスクの緊急度
一般にキャラクター性を出したほうがカジュアルな印象になりやすいので、それが体験の目的に沿うかどうか。また、緊急度が高いときには個性の表現よりタスク達成を優先したほうがいい。
②体験の頻度
意外と大事なのがこれ。
スマートスピーカーのようにほぼ毎日体験する会話ならば、一回一回は薄味でいい。毎度こってりしたものを食べていては飽きるし、体にも悪い。
口調・口ぐせ
話し方で一番わかりやすいのはこれだろう。
もう一度、先ほどのスマートスピーカーと話してみよう。
あれ?これって、よく見ると……
スマートスピーカーじゃなくて、ひじきかな?
ヒィーッ。
…
まあいいや。
口調・口ぐせはつまり特徴的な語彙のチョイス、とも言える。
特徴的な語彙の典型は、こういう「キャラ語尾」。
他にもいろんなタイプがある。
・特徴的なあいさつ、笑い声、感嘆詞
・人称代名詞(私 /ぼく/ オレ/ 拙者、あなた/ 君/ お前、…)
・方言
・敬語 など
口ぐせは、強い。知っているキャラなら一瞬でイメージを喚起できる。
こんな風に。
どっちでもいいわ!ややこしいから「ごはん」から離れろ!
キャラクター設計が必要な理由
ところで、こんな当たり前っぽいことをどうしてわざわざ設計だなんて言っているんだろう?その理由は2つある。
①一貫性の確保
ひとつめは、キャラのブレを防いで一貫性を保つため。
キャラの話し方がブレると、
なんか信用できない。
トンマナの合っていないWebページが怪しく見えるのと同じで、一貫性のない設計はユーザーを不安にする。他のUIデザイン同様、信頼を得るために一貫性はとても重要だ。
キャラの一貫性を保つために脱線への対応を工夫することもできる。
たとえば、イメージに合わないNGワードを投げかけられたときには答えをはぐらかしたり。
あるいは、特定のワードにだけは反応してみたり。
②体験のクオリティ向上
キャラクター設計が必要なもう一つの理由は、「ユーザーの体感するクオリティにダイレクトに関わるから」だ。
もとより、人間同士の会話の中では、膨大な情報をやりとりしている。文字にならない情報もたくさんある。
私たちは目の前の相手の声のかすれや、顔色や、目線の動きをつぶさに観察している。
たとえテキストだけのやりとりであっても、震えた字からも、インクのにじみからも、既読がつくまでの時間からも、意味を受け取っている。
私たちは言外の意味への感受性がとても高い。キャラクターの語り口に少しでも違和感があると、体験に入り込めない。だから、機械側の会話のUIは繊細に設計する必要がある。
まとめ
以上、会話体験のキャラクター設計を概観してきた。
話が散らかっちゃったけど、要するにこれだけ。
・会話体験のキャラクター設計とは「話し方」の設計のこと
・決めることは3つ:
キャラクター性の強弱 / 口調・口ぐせ / 脱線への対応
・設計の目的は、「一貫性の確保」と「体験のクオリティ向上」
あの時のクラスメイトみたいに、つくったキャラクターがいつかモノマネされたら、設計は大成功だ。
キャラクター設計は体験の仕上がりを決める重要なこと。
と同時に、自分のオモシロを詰め込める、体験設計のオイシイところ。
しみしみのひじきの煮物みたいなこの旨味、伝わったらいいジキな〜♪
ではまた2週間後に!
(文:神田 今日子)
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