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現代人は8〜9割を建物内で過ごすと言われています。その長い時間、一番触れている部分は、実は「床」です。靴履いているでしょ、触っていないでしょ、と思ったあなた。その通りです。(笑)でも床の硬さは靴の上からでも感じていて、これが後で述べますが、疲労感などにも繋がっています。少し話が飛びますが、例えば僕個人が住宅を建てるとして、こだわるべきと考えているポイントは主に3つ、①床の素材、②プランニング(=依頼する建築家)、③リラックススペース(風呂・趣味)と考えています。今回は最もこだわるべき(と考えている)①の「床」の機能を紹介していきます。

床が重要と考える理由は、以下の4点。

重要視する理由の1つは日本人の生活スタイルです。多くの方は欧米式の靴にソファー・ベッドスタイルでなく、靴を脱いでの床上生活の人が多いため、室内を構成する要素である、床・壁・天井の中では、床との接触時間が最も長いため、その床の影響を受けると考えられるからです。床に皮膚(手・足)が触れることで、床材の滑らかさや硬さ、温度・湿度など様々な情報を受け取っており、それらが居心地にも直結しています。端的にまとめると以下の通り。

硬度の低い床材  →歩行衝撃が少ない→疲労感が少ない             蓄熱性の高い床材 →冬季日射を蓄熱→ゆっくりと放熱→室内熱環境向上  調湿性能の高い床材→室内結露の抑制                 耐摩耗性の高い床材→維持費低減                    熱伝導の小さい床材→皮膚からの熱を奪いにくい→ぬくもりを感じる                        

2つ目の理由としては、気候条件(高湿度)です。日本では「高い湿度」が住宅トラブルや健康被害の大敵となっています。主なところでは、高湿度が原因で結露→カビ→建材腐食(住宅トラブル)となることや、結露→カビ→ダニ→アレルギー(健康被害)が発生しています。では、この湿気がどこから来るかご存じでしょうか?

大気中?

答えは地面からが1番、大気中からが2番です。日本の住宅が床を地面から離れているのも、このためです。つまり、何が言いたいかというと、床の最も大切な機能の1つは防湿対策なんです。最近では地下空間が防音や断熱に優れているという理由で積極的に利用される事例が多くみられますが、その場合には基礎下(又は床下)での防湿対策や、床材の上下での通気確保などをきっちり行うことが重要です。

3つ目の理由は、ほこり(掃除)です。掃除の基本順序は高い所から順番に埃を床に落として、最後に床を掃除することであるため、床面の清掃性が重要です。(※因みに病院を設計する場合でも、床面の仕様には特に気を使います。)また、ダスキン調べの情報(https://www.duskin.co.jp/rd/laboratory/feature/dust/02/)によると、床に近い高さの方が埃がたまりやすいとのデータもあるため、小さな子供や常に清潔性が求められる施設では床面の清掃性が求められます。これらを踏まえると、落とした埃が掃除しやすい床面であることが重要です。なお、埃の構成物質は綿埃が大半で、次いで毛髪・食物などです。ハウスダストとも呼ばれていますが、アレル物質となるダニ・カビ・菌のすみかとなっていますので、常在させないことが重要です。

4つ目の理由として、日本人と床の歴史的な関係です。欧米と異なり、裸足の生活スタイルのため、床面に大きな意味を持たせてきた文化・精神性があります。寺院やお城がわかりやすいかもしれませんが、床面のレベルを数センチ上げ下げすることで、そこに座るべき人々のヒエラルキーを表したりしています。例えば、地面<縁側<板の間<円座(藁などで編んだ円形座布団)<畳 の様に表れています。(実際は同じヒエラルキーの中でも奥性や段差を細かく設けている場面もあり、お寺を見るときに気にしてみると、当時の使い方がイメージできるかも。偉い人が奥で高い所に座るイメージでうすね。)ヒエラルキーとは別の視点ですが、「縁側」は寺院や住宅などにおいて、内外をつなぐ中間領域として、日本固有の建築要素として発展してきました。

それらを踏まえて床材・床構成を考え直すと、以下の様な項目を検討したいところ。

床構成:①防湿性、②断熱性、③清掃性の良い床面(ディテール)    床材:①調湿性、②熱伝導率、③蓄熱性、④耐摩耗性(耐久性)、⑤硬度

「日本建築の生命は床にあり」とは、著名な建築史家、藤森さんの言葉です。今回は床の機能面にフォーカスしましたが、上述の「縁側」の様にプランニングの中での役割や意味(コンセプト)を考えていくと、また別の側面も見えてきます。それはまた別の機会に。


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