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年収とウェルビーイングは比例する?


このnoteのテーマである「クリエイティブ・メンタルマネジメント法」は、日々の小さなクリエイティビティ(リトルC)を発揮し、ウェルビーイングを実現することを目標としますが、今回はお金とウェルビーイングの関係について書きたいと思います。

私たちはどれくらいのお金があれば幸せを感じられるのでしょうか。これに関する有名な研究を紹介します。

アメリカの心理学者であり、ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマン博士らは、アメリカ人の所得と幸福感の関係を調査しました(2010年)。その結果、アメリカ人は年収$75,000(仮に、1$=150円で換算すると、日本では、年収1,125万円)までは、所得が高くなるほど幸福感は高まるが、その水準を超えると、それ以上幸福感は高まらない(頭打ちになる)ことが明らかになりました。

一方で、生活満足度は、所得が上がるほど高まる(頭打ちにならない)こと、そして、所得が低いと幸福度も生活満足度も低いということも明らかになりました。ここでいう幸福感とは、日々のポジティブ感情(幸せ、喜び、笑顔)が高く、悲しみや心配、怒りのようなストレスが少ないことを指します。一方で、生活満足度とは、今現在の生活にどれくらい満足しているかを指します。生活満足度は当然、幸福感にも関係するのですが、幸福感は満足だけではなく、様々な要素が影響します。

高所得者は、家や車や旅行、外食などに自由にお金を使うことができるという意味で生活満足度は高いかもしれませんが、それらは、いずれも「馴れ」によって、当たり前のことになってしまいます。幸福感に影響を与えるのは、身近な日常で感じる小さな幸せの積み重ねなのかもしれません。

それに呼応するように、日本のある研究では、生活に満足していないと回答した人のうち、約3割は「それでも幸福」と回答しています。60代に限ってはこの割合が5割近くに達していました。

このような研究結果をみると、ある程度のお金は必要だけど、お金だけでは決してウェルビーイングにはなれない、あるいは、多少お金に苦労しても、ウェルビーイングになることは可能であることが示唆されます。


物質主義(マテリアリズム)はウェルビーイングを下げる


物質主義(マテリアリズム)とは、精神よりも物質的なものを第一とみなす考え方で、お金、モノ、イメージ、地位などを重視する志向を指します。物質主義の捉え方は研究者によって、違いがありますが、ウェルビーイングとの関係においては概ね見解が一致しており、物質主義志向が強い人は、ウェルビーイングが低い傾向があります。

これには様々な理由が考えられます。例えば、物質主義志向が強いと、外面的な欲求ばかりに目が行き、内面的な充実他者とのつながりを軽視するという理由や、物質主義がもたらす過度なモノの所有欲は、自己実現や自律性といった高次元の欲求の充足を妨げるという理由などが挙げられます。

また、物質主義は、本質的には自己中心的な価値観であり、他者との関係性を重んじる集団の価値観との間で、心理的な緊張や葛藤が起こりやすいことも理由として考えられます。つまり、モノの所有にこだわると自分のことばかりに意識が行くため、他人との衝突や対立が生じやすくなるということですね。

現代の日本をはじめとする先進国は、モノがあふれており、高級な物を買い求めれば切りがないという状況です。しかし、そのような外面的な欲求にばかり気を取られていると、人生の本質を見逃してしまうのかもしれませんね。最終的に人生の満足度を高めてくれるのは、内面の充実や他者とのつながりを大事にする姿勢であるということは、多くの研究で示されていますし、ほとんどの人が納得する結論なのではないでしょうか。


ウェルビーイングを高めるお金の使い方とは?


最後に、ウェルビーイングを高めるお金の使い方についての興味深い研究を紹介したいと思います。

カナダのブリティッシュ・コロンビア大学心理学部のエリザベス・ダン博士は、幸福になれるお金の使い方として、以下の8つを挙げています。

1. モノではなく経験を買う

2. 自分ではなく他人の利益のためにお金を使う

3. 少数の大きな喜びではなく多数の小さな喜びにお金を使う

4. 期間の延長や保障にお金を使わない

5. 支払いを先延ばしにしない

6. 買ったものが生活をどう向上させたか振り返る

7. いつまでも買ったものを比較しない

8. 他人の幸福に細心の注意を払う


特に、2の「自分ではなく他人の利益のためにお金を使う」については、著名学術雑誌「Science」に掲載されたエリザベス・ダン博士らの研究で明らかになっています。

この研究では、632人のアメリカ人を対象に、自分のための支出金額と、他人のための支出金額(例えば、贈り物や慈善団体への寄付など)の状況を調査し、それらと幸福感の関係を調べました。その結果、自分のための支出金額が多くても、幸福感には関係しませんでしたが、他人のための支出金額が多い人ほど、幸福感が高いことがわかりました。

他人のためにお金を使うことで他人から感謝されるとともに、自分の幸福感も上がるとなれば、まさに一石二鳥といえますね。

多くのビリオネアが、慈善団体に多額の寄付を行なったり、若者の育成や支援に多大な資金を提供したりすることは、社会貢献はもちろんのこと、自身のウェルビーイングの向上にも大きく寄与していることが窺えますね。

参考文献:

・Kahneman, D., & Deaton, A. (2010). High income improves evaluation of life but not emotional well-being. Proceedings of the national academy of sciences, 107(38), 16489-16493.
・Belk, R. W. (1984). Three scales to measure constructs related to materialism: Reliability, validity, and relationships to measures of happiness. ACR North American Advances. 他
・Dunn, E. W., Aknin, L. B., & Norton, M. I. (2008). Spending money on others promotes happiness. Science, 319(5870), 1687-1688.
・Elisabeth, D., & Michael, N. (2013). Happy Money: The Science of Happier Spending.

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