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なぜ、マルチタスクは仕事の効率を下げるのか?
マルチタスクにメリットはあるか?
マルチタスクとは、複数の作業を同時並行、あるいは、短時間で切り替えながら行うことを指します。例えば、プレゼン資料を作成しながら、合間にメールを返信するなどが典型例ですが、まずは、マルチタスクのメリットを、自分の経験を踏まえ、考えてみたいと思います。
【マルチタスクのメリット】
① 複数のタスクを同時にあるいは連続的にこなすので、仕事を片付けているという安心感につながる、あるいは、周りから「デキる人」と思われ、自信につながる可能性がある。
② 抱えている様々なタスクにひとまず着手することになるので、タスクの全容を把握でき、不測の事態を避けることができる可能性がある。例えば、やってみたらすぐに、とても時間がかかるタスクであることが判明し、時間が全然足りない、といった事態を避けられる。
③ 1つのタスクに集中しすぎて、煮詰まってしまい、作業効率が低下する事態を避けられる可能性がある。(この場合、気分転換に他のタスクを少し挟んで、また元のタスクに戻るといった方法が考えられるが、これをマルチタスクと呼んで良いかはわかりません。)
個人的には、特に②のメリットは結構大きい気がします。つまり、マルチタスクによって、抱えているタスクの全体像がはっきりし、優先順位を間違えなくて済むということです。しかし、各タスクに少しだけ着手して、全容を把握し、所要時間の目処がわかれば、そこからは、1つずつタスクを片付けていく方が良い気がします。なぜなら、人間はそんなにパッパと思考を切り替えられないのではないかと思うからです。
この直感を検証してくれた研究があるので、次に紹介したいと思います。
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マルチタスクで生まれる「注意残余」とは?
私たちはマルチタスクを行っても、そんなにパッパと思考を切り替えられないのではないかという直感を実証したのは、米ニューヨーク大学レナード・N・スターン経営大学院のソフィー・ルロイ博士の研究です。
この研究では、84人の大学生に2つのタスク(1つ目のタスク:単語クイズ、2つ目のタスク:記憶力テスト)に取り組んでもらいました。その際、参加者は、1つ目のタスクを完了できるか否か(1つのグループは、完了できないように操作される)、1つ目のタスクを行う間、時間のプレッシャーがあるか否かで、以下の4つのグループに分けられました。
・第1グループ:1つ目のタスクを完了できる、時間のプレッシャーがある
・第2グループ:1つ目のタスクを完了できる、時間のプレッシャーがない
・第3グループ:1つ目のタスクを完了できない、時間のプレッシャーがない
・第4グループ:1つ目のタスクを完了できない、時間のプレッシャーがない
この研究では、注意残余(Attention Residue)という考え方に着目しています、注意残余とは、前のタスクに対して注意力が残ってしまい、注意資源が分断されてしまうことを指します。この研究で行われた実験では、2つ目のタスク(記憶力テスト)に取り掛かる際に、1つ目のタスク(単語クイズ)に対する注意残余やゴール意識がどれくらい残っているかを測定しました。
これはどのように測定するかというと、1つ目のタスクに関連する単語を含む複数の単語をコンピュータ上でランダムに表示し、その反応時間の早さで注意残余がどれくらいかを測定しました。
分析の結果、前のタスクに対する注意残余やゴール意識が最も少ないのは、第1グループで、他の3グループは有意差がありませんでした。つまり、時間のプレッシャーがある中で、タスクを完了できれば、そのタスクに対する注意残余やゴール意識がなくなり、次のタスクに意識を集中できるが、前のタスクが完了していない、あるは、完了したとしても、時間のプレッシャーが特にない中では、注意残余が邪魔をして、次のタスクに費やす注意資源が減少し、パフォーマンスが低下することがわかりました。この結果は、多くの人にとって、割と納得感があるのではないでしょうか。時間を決めて、1つ1つのタスクをキリよくこなすのが、一番効率が良いということですね。
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「タスクの閉鎖」でアタマを切り替える
では、タスクのキリが悪いけど、別のタスクに切り替えないといけない時に、「注意残余」を断ち切る良い方法はないのでしょうか?分野はちょっと異なりますが、参考になりそうな、英ロンドンビジネススクールの研究者らによる消費者行動の研究を紹介したいと思います。この研究では、「選択の閉鎖(Choice Closure)」と呼ばれる行動の効果を実験で検証しています。
実験では、159人の大学生を対象に、好きなチョコレートを1つ選んでもらい、その選択に対する満足度を回答してもらいました。その際、参加者を以下の4つのグループに分けました。
① 6種類のチョコレートから1つを選び、残りのチョコレートには透明のフタをする。
② 6種類のチョコレートから1つを選び、その後は、何もしない。
③ 24種類のチョコレートから1つを選び、残りのチョコレートには透明のフタをする。
④ 24種類のチョコレートから1つを選び、その後は、何もしない。
4つのグループの満足度を比較分析した結果、6種類から選択した場合は、フタをするか否かで満足度に差はありませんでしたが、24種類から選択した場合は、フタをすると、フタをしないよりも、自分の選択に対する満足度が約16%も高くなることが明らかになりました。
これは、「フタをする」という具体的な行動をすることで、自分の選択が完了したことを脳が認識し、選択しなかった物との比較をやめる効果があり、その結果、自分が選択した物に対する満足度が上がると研究者らは考えており、この行動を「選択の閉鎖(Choice Closure)」と呼んでいます。
この研究は消費者行動の研究ですが、「選択の閉鎖」は、マルチタスクにも応用できる可能性があります。例えば、ノートP Cで仕事をしているとしたら、タスクを切り替える際、そのノートP Cを一度閉じてみましょう。閉じるという行為(いわば、「タスクの閉鎖」)をすることで、目の前のタスクが完了したことを脳が認識し、「注意残余」を断ち切って、アタマを切り替えることができるかもしれません。職場でたまに、ノートPCを勢いよく閉じる人を見かけますが、「タスクの閉鎖」という観点からは、そういった行動も意外と理にかなっているのかもしれません。もちろん、ノートPCを閉じる以外にも、タスクの切り替え時に、席を立ったり、少しの間、眼を閉じたりすることでも「タスクの閉鎖」の効果が得られるかもしれません。
以上をまとめると、マルチタスクには一定のメリットもあるものの、時間のプレッシャーが特にない中では、「注意残余」が邪魔をして、次のタスクに費やす注意資源が減少し、パフォーマンスが低下する可能性があるので、時間を決めて、1つ1つのタスクをキリよくこなすのが、一番効率が良いことが研究でわかりました。それを後押しする方法としては、タスクを切り替える際、ノートP Cを一度閉じるなどして、「タスクの閉鎖」を行い、「注意残余」を断ち切って、アタマを切り替えることが効果的です。
参考文献:
・Why Is It so Hard to Do My Work? The Challenge of Attention Residue when Switching Between Work Tasks
・Gu, Y., Botti, S., & Faro, D. (2013). Turning the page: The impact of choice closure on satisfaction. Journal of Consumer Research, 40(2), 268-283.