「足るを知る」とストレスは減る
どこで満足するか?
スタートアップビジネスでは、足りないものだらけです。人、物、金、情報といった経営資源全てにおいて、不足している状態です。でも、これを全て満たそうとするのは、現実的ではありません。当社の健康アプリ開発を例にとると、アプリで実現したい機能が100あるときに、100を一気に実現するのは、経営資源的にとても難しいことが多いです。その時に、「どこで満足するか?」という観点がとても重要になります。
これは、日常生活においても同じではないでしょうか。例えば、食べ放題のビュッフェに行った時に、あれもこれも食べたいけど、そんなに食べたら、体重が気になるという場合、まさに、「どこで満足するか?」という問題に直面することになりますよね。セール時期の買い物でも同じことが言えると思います。さらには、就職・転職活動などでも、同じことが起きます。「自分にとってベストな会社は本当にこの会社なのか、もっと良い会社が他にあるのではないか?」という葛藤に悩む人も少なくないのではないでしょうか。
中国の春秋戦国時代の思想家、老子の名言の一つに、「足るを知る者は富む」という言葉がありますが、この「足るを知る」ことは、ストレスを低減し、人生の幸福につながることを科学的に示した研究があるので、紹介したいと思います。
マキシマイザー(追求者)とサティスファイサー(満足者)
アメリカの心理学者バリー・シュワルツは、最良のものを求める欲求の個人差による分類を行っており、常に最良の選択を追求する人を「マキシマイザー(maximizer:追求者)」、自分の中の基準が満たされた時点で、選択肢の比較をやめる人を「サティスファイサー(satisficer:満足者)」と呼んでいます。
そして、選択肢が多くて迷う場面では、最良の選択肢を求めるマキシマイザー(追求者)よりも、満足できるものを求めるサティスファイサー(満足者)のほうが、より満足度の高い決定ができることを実験で明らかにしています。さらに、マキシマイザー(追求者)は、すべての選択肢を比較しようとするため、自分より優れているものと常に比較してしまい、後悔も多いことがわかりました。また、完璧主義になりがちで、人生の満足度と負の相関があり、うつ病と正の相関があることもわかりました。
一方、サティスファイサー(満足者)は、自分の中の基準が満たされた時点で、選択肢の比較をやめるため、選択したものに対する満足度が高く、後悔が小さいことが研究で明らかになりました。シュワルツ博士は、「究極を追い求めるのはやめて、大切なニーズが満たされているなら、その選択肢を良しとしなさい」と述べています。まさに、「足るを知る」ことは、余計なストレスの低減、そして、人生の幸福につながることを示した研究といえます。
マキシマイザー(追求者)のキャリア選択
マキシマイザー(追求者)がキャリア選択で最良のキャリアを追求するとどうなるか、興味深い研究があります。アメリカのコロンビア大学ビジネススクールのシーナ・アイエンガー博士は、548人の大学生を対象に、マキシマイザー(追求者)傾向の強さが、就職活動の結果とその受け止め方にどのように影響するかを調査しました。調査では、参加者のマキシマイザー(追求者)傾向を質問紙で測定しました。例えば、こんな質問に回答してもらいました。
こんな場面でも、マキシマイザー(追求者)傾向が現れるのですね。
こうしてマキシマイザー(追求者)傾向を把握した後、実際の就職活動の結果がどうなったかを分析しました。
調査の結果、マキシマイザー(追求者)傾向の強い学生は、マキシマイザー(追求者)傾向の弱い学生、つまり、サティスファイサー(満足者)傾向の学生よりも、20%高い初任給の仕事を得ていました。
しかし、興味深いことに、マキシマイザー(追求者)傾向の強い学生は、せっかく内定をもらった就職先に対しての満足度が低く、後悔などの否定的な感情を経験していました。
マキシマイザー(追求者)は、とにかく理想の仕事を追求するあまり、たくさんの選択肢(現実的なものだけでなく、非現実的なものも)を検討し、それが非現実的に高い期待を生み、機会費用(時間や労力など)を増大させるため、結果への満足度が低くなり、かつ、否定的感情が残ってしまうと研究者らは考察しています。
ある程度、自分が納得のいく結果を得られたら、それに満足するサティスファイサー(満足者)の方が、最終的には高い幸福感を得られるということですね。
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