2024教養生物学1第4週10月24日第1限 ダイナミックな細胞膜

 出席カードに「生命の誕生にウイルスが関わっている」と書いている人がいましたが、ウイルスが「核の誕生」に関わっているのではという説は武村政春さんによるものです。ウイルス自体は生命の誕生よりもかなり遅れて生まれたのではないかと考えられています。また、哺乳類の誕生に繋がる胎盤形成にウイルスが関与していることは先週の講義で少しだけ触れています。

前回の復習

 さて、先週の第3週の大きなテーマは「細胞」についてでした。現在の地球上には、単細胞生物多細胞生物が存在しますが、細菌古細菌の仲間はすべて単細胞生物です。真核生物には単細胞生物と多細胞生物がいます。真核生物の細胞小器官であるミトコンドリアと葉緑体の起源に関しては細胞内共生説が考えられています。ミトコンドリアも葉緑体もどちらも細胞核のゲノムDNAとは別のDNAを持っていることも細胞内共生説をサポートします。
 ミトコンドリアの機能については第6週で詳しく説明します。第7週のテーマが光合成(葉緑体)についてになります。

 真核生物の細胞内にある小器官の起源に関して、「細胞内膜系と核膜は細胞膜の陥入と融合により形成されたのかもしれない」とさらりと書かれています。ER(小胞体)が核様体を取り囲んで核膜になったとしていますが、武村政春さんのウイルスによる細胞核形成説については先週紹介しました。

 下に紹介するのは光合成する緑色をしたウミウシについての記事です。細胞内共生ではありませんが、途上の過程にも見えます。

 その他の奇妙な生き物について(時間の余裕のある人は)下のリンクをどうぞ。

それでは復習に戻って、原核生物の細胞と真核生物の細胞の比較です。

先週は英語版の図で説明しましたが、今週は日本語版の図を示します。

 真核生物では細胞内にさまざまな細胞小器官があり、それぞれが異なる特殊な役割を果たしています。核小体は古くはと呼ばれていましたが、リボソームの合成場所です。

 下の図は真核生物の細胞の模式図ですが①から⑬までが何をイメージして書かれているか分かるでしょうか(答えは図の下にあります)?葉緑体は書かれていないようですので動物細胞をイメージしているようです。機能が書かれていないと④と⑩と⑫が何なのかこれだけでは区別できませんが、答えは後で示します。

 細胞小器官の機能については時間が足りずに前回の講義でもあまりきちんと説明できませんでしたが、その役割について参考書などを用いて自習して理解しておいてください。名前だけ丸暗記しても何の役にも立ちません。答えは下の図の下に示します。

 実際の(肝臓)細胞の電子顕微鏡像は白黒ですので、下のような写真になります。縮尺が図の左下にあります。

 植物細胞には動物細胞には無い、葉緑体、液胞、さらに細胞膜の外側ですが細胞壁がありました。

 細胞骨格について、高校ではミクロフィラメントのことをアクチンフィラメントと習ったと質問した人がいましたが、別の呼び方で同じ物です。

  先週(10月17日)の提出課題は下の第1問でした。未提出の人は忘れずにMoodleの第3週の課題提出のところへ提出してください。

 生命の起源と化学進化説についても学びました。RNAワールド仮説が有力な説ですが、池原健二さんのプロテインワールド仮説についても少しだけ紹介しました。

 前回は、はやぶさ2が持ち帰った砂から小惑星リュウグウに多種のアミノ酸が存在することが分かったことをお知らせしましたが、2021年の5月3日の毎日新聞に隕石から5種類の主要塩基を同一の隕石から同時に検出したとの記事が載りました。

 いつ、どこで、どの様にという生命の起源については未だに解明されていない大きな謎の一つです。
 それでは今週(第4週)の講義に入っていきましょう。

 まずは生体高分子4つのうちで先延ばしにしていた脂質(脂肪)についてからです(他の3種類は何だったか覚えていますか?大丈夫ですか)。

 生体を構成している高分子4種類の内、脂質は化学的な構造によって定義されるというより水に溶けるかどうかで判断される「脂肪酸とアルコール類が結合してできた水に溶けない1群の物質の総称」です。脂肪と呼んだり、と呼んだりしますが、常温で固体のものを脂肪、液体のものを油と分けます。
 下の図のように、グリセロールは3つの炭素に3つの水酸基が結合した分子であり、この3つの水酸基の一部または全部に脂肪酸がエステル結合したものがグリセロ脂質(トリグリセリド)です。脂肪酸以外のグループが結合しているかどうかによってグリセロ脂質はさらに脂肪(中性脂肪)リン脂質に大別されます。

 下に脂肪酸のパルミチン酸リノール酸を示します。途中に二重結合を持つものは不飽和脂肪酸で、二重結合があると折れ曲がりが生じ(整列しにくくなるため)、融点が低くなり(常温で液体となりやくすなり)ます。

 リン脂質(グリセロリン脂質)はグリセロールに2つの脂肪酸が結合し、残りひとつの水酸基にリン酸基を介してさまざまな化合物が結合したものです。2つの脂肪酸が疎水性であるのに対し、リン酸とそれに結合している分子は通常極性が高く、このため、リン脂質は同じ分子内に疎水性の尾部親水性の頭部を持つ、両親媒性物質です。

 コレステロールは3つの炭素6員環に1つの炭素5員環からなる化合物ステロイドに、5員環側に脂肪酸が、反対側の6員環に水酸基がついた構造を持つ脂質です。その構造から(といっても有機化学になじみのない人にとっては想像できませんが)高い疎水性が予想されます。
 コレステロールは原核細胞には存在しないが、すべての真核細胞で見いだされる物質です。

細胞膜について

 ここからがようやく「細胞膜について」になります。はじめに、29分と少し長いのですが、「サイエンスフロンティア21(64)1分子で見る細胞膜の世界 ~国際共同研究「膜機構プロジェクト」の挑戦~」という動画を見てください。

6-1,生体膜の構造はどうなっているか?

 流動モザイクモデルはようやく1972年にシンガーとニコルソンによって提案されたものです。細胞膜の構造が分かるようになってきたのはつい最近のことになります。
 サイエンスフロンティアの動画で見てもらったように細胞膜(生体膜)は非常に流動性が高い性質を持っています。タンパク質が埋め込まれたリン脂質二重層からなります。また、コレステロールや、糖鎖の付加した糖タンパク質、糖脂質なども含まれています。
 下の図は異なった種であるマウスとヒトの細胞を融合させる実験です。細胞膜の表面にあるタンパク質が細胞融合すると速やかに混じり合うことが分かります。

 電子顕微鏡には透過型電子顕微鏡走査型電子顕微鏡の2種類があります。凍結割断法(Freeze-Fracture Technique)による膜タンパク質の観察では走査型電子顕微鏡を用いて、試料の表面を観察し、膜タンパク質が膜を貫通しているのか、細胞の内側、外側に結合した状態なのかを調べたりすることができます。

 下の図はリンパ球の(A)電子顕微鏡写真とその(B)模式図です。細胞膜の外側に糖質層があります。糖はタンパク質に結合した糖タンパク質、あるいは脂質に結合した糖脂質として存在しています。粗面小胞体の中に合成されたタンパク質はゴルジ体を経て糖質が付加されたり、修飾を受けたりして細胞膜へ、あるいは細胞外へ運ばれます。

 ちなみにヒトのABO式血液型を決めているのは糖脂質の糖鎖の先端に結合している糖の違い(に過ぎない)です。

6-2,細胞膜はどのように細胞接着、細胞認識に関わっているか?

 この部分も時間の都合上、この講義では省略しますが、(京都大学の楠見先生の30分弱の1分子計測の動画で見られたように)細胞膜上の構造だけでなく細胞膜の内側の裏打ち構造(アクチン繊維)などが重要な役割を担っています。

 また、上の(B)の模式図のように細胞運動にも関与しています。
長くなりましたので、第1限はここまでにします。

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