2024年度 教養生物学(一般生物学)1 第3週第1限

先週の復習

 先週(第2週)は第1限の「生物学の研究方法」第2限「生物を形作る物質」について学びました。2限目は少し駆け足になってしまいましたが、生体高分子4種類は何だったでしょうか?
 生物学の研究方法の例として、タイロン・ヘインの「除草剤アトラジンと両生類の減少」をあげました。生物学は医学、農学などの一番の基礎として人間社会に深く関わっています。

また、生物の定義細胞説について説明しました。

 現在、地球上にいる生物は共通の起源(祖先)を持つと考えられていますが核を持つ生物(真核生物)核を持たない生物(細菌と古細菌)に分けることができます。古細菌のグループは細菌よりも後から発見され、細菌よりも古い仲間と始めは考えられたため、ARCHAEA と古いを意味する名前が付けられましたが、よく調べてみると真核生物の仲間に近く、本当は「新」細菌と名付けた方が良かったかもしれません。

 生命の起源の場所に関して地球上で考えるならば「海底火山の熱水噴出孔の近くである」とする考えが有力です。
 共通祖先からさまざまな種に分岐して進化してきたと考える「生命の系統樹」です。左端が生命の起源、右端が現在を表しています。地球上に生命が誕生し、最初に細菌古細菌の間で分岐が起こったと考えられています。
その後、古細菌の一部から核を持つ、真核生物が生まれたと考えられています。
 生物個体の体のつくりから単細胞生物、多細胞生物と分ける方法もありますが、多細胞生物は真核生物しかいません。細胞の分化と特異化が多細胞生物の基礎となっています。
 真核生物の細胞小器官であるミトコンドリアと葉緑体の起源(上の図の点線)については今日の2限目の「細胞内共生説」のところで説明します。古くは5つのグループに分けていましたが、現在では3つのグループに分けています。

 核を持つ生物=真核生物はどうして生まれたのか、核の起源はどこにあるかについて、まだ分かっていないことが多いのですが、1969年生まれの武村政春さんが面白い考え方を発表しています。「ウイルスによる細胞核形成説」です。まだ真核生物が生まれる前の時代に、原核生物の細胞中でウイルスが増殖する際に作ったウイルス工場が核の起源となったとする説です。

 また、哺乳類の誕生に関わっても、胎盤を獲得し、卵生から胎生に変化した過程でウイルスが関与したことが分かっています。

【先週第2限目の講義内容について】

 生体を構成する物質の主要元素は炭素、窒素、酸素、水素、リン、硫黄(CNOHPS)の6種類で99%を占め、地球上にありふれた元素です。しかし、分子構成で見ると生物体と無機の世界の間には大きな違いが見られました。また、生物体は水が70%を占め、イオンと微量の低分子を除くと無機の世界では見られない高分子の有機化合物が占めています。タンパク質、核酸、糖類、脂質の4種類です。これら4種の化合物は分子量が大きいため、生体高分子とも呼ばれています。

ほとんどの高分子は縮合によって合成され、加水分解により分解されます。

1,タンパク質について

 ペプチド結合により重合しタンパク質を作るアミノ酸は(側鎖部分の異なる)20種類が使われていて、3文字での短縮表記と1文字での表記方法がありました。この講義を全学解放の一般教育科目として受講しているほとんどの人にとっては1文字略号を覚える必要はありませんが、3文字略号がどのアミノ酸かくらいまではわかるようにしておきましょう。AspとAsn,GluとGlnの違いは?

 アミノ酸の1文字表記については新型コロナウイルスの変異株の表し方の例を挙げました。

タンパク質の3次構造を表す分子モデルには下の図のように(A)空間充填モデル、(B)スティックモデル、(C)リボンモデルなどがあります。

2番目は糖類についてでした。

 モノ、ジ、トリ、テトラ、ペンタ、ヘキサ・・・と化学で1,2,3,4,5,6を習いましたが、糖に関しても同じでした。

 多数の単糖が結合した重合体は多糖と呼ばれ、植物細胞の細胞壁のセルロース、デンプン、グリコーゲンなどがありました。

3番目は核酸についてでした。

 ピリミジン(六員環のみ)とプリン(六員環と五員環からなる)と呼ばれる2種類の塩基に糖が結合したものをヌクレオシド(nucleoside)、さらにリン酸が結合した状態のものをヌクレオチド(nucleotide)と呼びます。糖の部分がリボースなのか、デオキシリボースなのかによって、RNA(Ribo Nucleic Acid) 、DNA(Deoxyribo Nucleic Acid)が決まります。ヌクレオチドは塩基と糖とリン酸の3つの部分からなります。ヌクレオチドが重合して長くなってポリヌクレオチド鎖を作っていきます。

 1953年にワトソンとクリックによって細胞内にあるDNAは相補的二重らせん構造であることが明らかにされました。

 脂質に関しては来週(第4週)の細胞膜のところで詳しく説明します。

 さて、復習が長くなりましたが、今週の講義に入ります。

生命の起源と化学進化説

 対面講義の方でも生命の起源は宇宙から?とする動画を先週、紹介しました。有機物 Organic substance は「生物の体内でつくり出される物質」由来の名前ですが、宇宙の星間物質に多くの「有機物」が存在していることが明らかになっています。宇宙に地球の生命の起源があるのではないかという研究も進められています。2022年の6月には、小惑星リュウグウから日本の探査機「はやぶさ2」が持ち帰った砂にアミノ酸や水が含まれているとの報道がありました。


 「生命の起源と化学進化説について」

 下に示すのはウィキペディアのユーリー・ミラーの実験について書かれたものです。

4分弱の動画を見てください。


 福岡伸一さんは生命の本質は「動的平衡」にあると言っています。

 RNAワールド仮説では、RNAが遺伝情報の担い手であると同時に弱いながらも触媒(酵素)活性も持つことから、「DNA誕生以前の初期の生命界においてはRNAが生命の複製からタンパク質合成を担っていた」とするものです。
 原始細胞形成仮説は、1,(まだ説明していませんが)脂肪酸は親水性の極性頭部と長い疎水性の非極性尾部からできていて、水中で脂質二重層の膜小胞を生じやすい。2,この膜小胞形成時にRNAが取り込まれ保持された状態が原始細胞となる。というものです。リポソーム(Liposome)のような脂質二重膜でできた小胞にRNAが取り込まれて、細胞の祖先となったとする説です。

下に示すのはリポソームの小胞と原核生物、真核生物の電子顕微鏡写真ですが、分かりやすいように着色しています。本来、電子顕微鏡写真で得られる像は白黒です。

【コラム】番外編、タンパク質ワールド仮説

 対面講義では時間があれば説明しますが、ここからは番外編、タンパク質ワールド仮説になります。タンパク質ワールド仮説は日本人の池原健二さんによって提唱されたものですが、普通、教科書には載っていません。
 遺伝暗号(Genetic code)表
についてもまだ説明をしていませんが、遺伝暗号を考える場合はmRNAで考えるため、塩基はT(チミン)の代わりにU(ウラシル)が使われます。

 ユーリー・ミラーの実験でグリシン、アラニン、アスパラギン酸、バリンの、割と簡単な側鎖を持つ4種のアミノ酸は生じました。アミノ酸と遺伝暗号の対応の進化を考えた場合、3文字コードの1文字目がG(グアニン)、3番目がC(シトシン)、2番目は4つの内のどれかが来れば、遺伝暗号表の一番下の段にあるようにこの4種のアミノ酸を指定することができます。最も初期の遺伝暗号はこの4種のアミノ酸だけを指定できたのでは、と考えます。

 いかがでしょうか?タンパク質ワールド仮説はかなり難解ですが、RNAワールド仮説と比べてみると、より説得力を持つような気が私にはしますが、生命の起源に関しては未だに謎のままです。
 皆さんは生命の起源は地球上にあるか、あるいは宇宙からなのかどちらだと考えますか?
 今週の講義の第1限はここまでです。第2限に続きます。

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