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7回逮捕されたマラソンランナー。苦しみの20年。

原 裕美子。

彼女の名前を聞いて「マラソン」を一番に連想する人はどれくらいいるでしょうか。


彼女を追い込んだもの

1982年、栃木県出身。

長距離選手として活躍され、2005年名古屋国際女子マラソン優勝。

2007年には大阪国際女子マラソン優勝。
2大会連続で世界陸上に出場。
北京五輪女子マラソン代表候補。

こんなにも華々しい経歴を持つ彼女が、2017年に窃盗罪で逮捕されるとは、誰が予想できたでしょうか。


彼女は高校時代から厳しい長距離の練習をこなしていました。

そのレベルアップだけのために転校するという、とんでもないストイックさと向上心の持ち主でした。

高校卒業後は京セラに入社。
その頃から異変が起き始めたそうです。

当時まだ10代の女の子。

これまで監督の指導に頼って走り続けてきた彼女は、伸び悩み始めます。

タイムが縮まらない理由が分かりませんでした。

ある合宿の日。監督の隣に席を指定され、「体重を落とすために、おまえはこれとこれは食べるな」と食事を制限されました。

そんな慣れない環境でのストレスや不安を解消する方法として、彼女の身体は「過食嘔吐」を選びました。


この様子から、当時明らかな摂食障害であったことが分かります。


しかし当時は「摂食障害」という言葉が一般的ではなく、スポーツに関わる指導者にでさえ認知が広がっていませんでした。

彼女のような選手は尚更知っているわけがありません。

このような状況を誰も打破することができなかったのは、

①摂食障害の認知度が非常に低かった

②「体重が軽ければ軽いほど長距離は速く走れる」という、概念というか風潮というか、それが陸上界に残存していた時代であった

ことは一因だと思います。

ただ、周りの環境だけが原因だとは言い切れません。

「ストイック・まじめ・完璧主義」

以前の記事でお伝えしたように、こんな人は摂食障害になりやすいです。


原裕美子さんはまさにその典型例でした。

現役引退後も摂食障害と窃盗症(クレプトマニア)に苦しめられ、

39歳の現在も、治療やセルフコントロールを日常的におこなっているそうです。

摂食障害とは


そもそも摂食障害とは、こんな病気です。

摂食障害とは、
神経性食思不振症(拒食症)神経性大食症(過食症)に大きく分けられます

拒食症は、食べることを極端に少なくし、周囲から見るとやせすぎているのに体重が増えることを恐れ、低体重を維持しようとする行動が目立つ病気です。

過食症は、一度に大量に食べてしまい、そのことを非常に後悔し、気持ちが「ゆううつ」になったり、いらいらしたりし、太ることを恐れて吐いたり、下剤を使ったりすることで、食べたものを外に排出する行動が目立つ病気です。

いずれにしても「食事のコントロールが難しい」病気ですが、治療すれば良くなっていく病気です。

(京都府精神保健福祉総合センター)


原裕美子さんは後者でした。

生理は高校生から十数年も止まったままで、子宮の成熟度は中学生並み。

骨は脆くなって、疲労骨折を何度も繰り返しました。

そんな状態でマラソンを走れるでしょうか?

当事者ではない人からすると、もうやめてと止めたくなります。


このように摂食障害は、無月経・骨粗鬆症・疲労骨折・窃盗症などを併発する、れっきとした恐ろしい病気です。


そして一見、食事の問題である摂食障害と窃盗症は関係ないように思えますが、

食事をすることは、空腹状態、つまり枯渇した状態を満たすこと。

物を盗むことも、盗みたいという衝動を満たす行為。

というように、「欲求を満たす」という点では同じ行為なのです。


彼女たちに何ができるか

何年も続く無月経や窃盗症となれば、1分でも早く病院を受診させなければいけません。

わたしたちトレーナーや治療家は、そうなる前に、そうならないようにサポートする役割を持っています。

・食べる量を減らすのではなく、何を食べるかで体重コントロールはできる。

・選手が困った時に頼れるスタッフや環境があること。

・良い結果が出ても、心身の状態や内容が良くなければ意味がない。

こんな認識を持つスタッフが増えたら、選手がもっと良い環境で活躍できるし、引退後も苦しむことなく人生を送れるのにな、と思います。


この記事を読んでくださった方へ。

「どんな人でも、明日、摂食障害になる可能性を持っている」

ということを覚えておいてください。

男性でも発症する可能性があります。

大袈裟っぽいですが、大袈裟ではありません。


そして、勇気を持ってカメラの前に立ち、自分のような人が増えないようにと、罪と苦しみを告白してくださった原裕美子さんに感謝しています。

彼女の著書『私が欲しかったもの』(双葉社)には、とても衝撃的な体験が綴られています。

是非一度、みなさんに読んでいただきたいです。

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