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夜勤/交代勤務による健康影響

夜勤や交代勤務の現状

夜勤や交代勤務は、営業稼働時間が長い企業が導入している勤務形態です。日本では夜勤や交代勤務の労働者の割合は上昇しており、こちらの報告によると2012年時点で全労働者の21%、1200万人が夜勤や交代勤務についていると言われています。

しかし、ヒトというものは朝起床して夜就寝するという生活リズムがあるので、夜勤・交代勤務によりこのリズムが乱されると身体に影響が出ます。代表的なものに、交代勤務睡眠障害(SWD)があります。交代勤務のために睡眠時間帯が頻繁に変化することにより、睡眠をはじめ精神・身体機能の障害がもたらされる症状のことです。

交代勤務には大きく分けて二交代勤務と三交代勤務があり、二交代勤務のほうが労働時間が長く、生活リズムが乱れやすいです。

このように、夜勤・交代勤務は生活リズムを乱しますが、その他にも健康影響が報告されていることはご存知でしょうか。睡眠とリズムは心身の安定に重要であり、その乱れは発がんや心血管脳血管疾患、免疫異常(易感染性)とも関連すると言われています。
2019年には、国際がん研究機関(IARC)のワーキンググループは、「サーカディアンリズム(概日リズム)を乱す交代勤務 shift work」を発がん性リスクが2番目に高いグループ(2A:ヒトに対しておそらく発がん性がある)に認定しました。ただし、関連の強さであるリスク比やオッズ比のことについては述べていないことには注意が必要です。

夜勤・交代勤務による健康影響についてまとめてみました。方法としては、PubMedで検索式
(("shift work schedule"[MeSH Terms] OR ("shift"[All Fields] AND "work"[All Fields] AND "schedule"[All Fields]) OR "shift work schedule"[All Fields] OR ("night"[All Fields] AND "shift"[All Fields] AND "work"[All Fields]) OR "night shift work"[All Fields]) AND ("risk"[MeSH Terms] OR "risk"[All Fields])) AND (y_5[Filter])
で検索すると、夜勤・交代勤務による健康影響で5年以内に報告された研究一覧を得ることができます。

発がん

  1. 乳がんリスク(レビュー)
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28770538/
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33653334/
    日本乳癌学会乳癌診療ガイドラインにも詳しい説明があります
    https://jbcs.xsrv.jp/guidline/2018/index/ekigakuyobo/bq9/

  2. 最近報告されたものではリンパ腫(慢性リンパ性白血病)リスクがあります(症例対照研究)
    https://oem.bmj.com/content/early/2022/01/12/oemed-2021-107845

  3. 前立腺癌のリスク(システマティックレビュー)。しかし、関連がみられないとする研究もあります(症例対照研究)
    https://cebp.aacrjournals.org/content/26/7/985
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31360990/

易感染性

  1. 交代勤務者、特に夜勤者は、職業群にかかわらず、COVID-19の罹患リスクが高い可能性が指摘されています(UKバイオバンクのデータから)
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33686714/

  2. 交代勤務のある医療従事者は呼吸器感染症リスクが高い(コホート研究)
    https://academic.oup.com/aje/article/188/3/509/5210260?login=false

心血管冠動脈疾患

  1. 心房細動・冠動脈疾患リスク(コホート研究)
    https://academic.oup.com/eurheartj/article/42/40/4180/6347324?login=false

  2. 脳梗塞リスク(システマティックレビュー・メタアナリシス)
    https://www.bmj.com/content/345/bmj.e4800

代謝性疾患・糖尿病

  1. メタボリックシンドロームのリスク(メタアナリシス)
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24888416/

  2. 2型糖尿病のリスク(女性の看護師コホート)
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30464025/

メンタルヘルス

  1. うつ状態、不安などのメンタルヘルス不調のリスク(メタアナリシス)
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31536404/

  2. 認知機能低下のリスク(コホート研究)
    https://oem.bmj.com/content/72/4/258

交通事故・インシデント・アクシデント

  1. 交代勤務がある研修医は交通事故のリスクが増す(Webベースのコホート研究)
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15647575/

  2. 夜勤の助産師を対象とした研究では、若い助産師ほど夜勤終わりの頃には投薬ミスがでるという報告もあります(Webベースの横断研究)
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32796648/

  3. 夜勤が連続すると、連続した分インシデント率が上昇します(過去 7 論文を再分析して連続夜勤とインシデントの相対リスクを算出)
    https://academic.oup.com/occmed/article/53/2/95/1519789

夜勤・交代勤務の対策

このように、様々な健康影響が指摘されている夜勤・交代勤務ですが、実際のところ勤務をやめるわけにはいかないケースがほとんどだと思います。三島和夫先生が指摘するように、「夜勤は健康リスクを犠牲にした24時間社会の“必要悪”」というのが現状です。

そのためには、夜勤・交代勤務者の健康確保の対策が欠かせません。最近ではいくつかのガイドラインや指針が出ています。
無料で閲覧できる情報誌「産業保健 21」では交代勤務への対策法が掲載されています(PDF注意)。

https://www.johas.go.jp/Portals/0/data0/sanpo/sanpo21/sarchpdf/98_14-17.pdf

日本看護協会では「看護職の夜勤・交代制勤務に関するガイドライン」を策定しています。

BMJには"Optimising sleep for night shifts"として 夜勤専従シフト(2週間以上の連続した夜勤)を対象とした眠りの攻略法についてまとめられています。交代勤務の労働者とは異なりますが参考になると思います。自治医科大学附属病院さいたま医療センター看護師の上野桃子さんがポスターにしたものが公開されています。

夜勤・交代勤務に従事する場合には、上記のような資料を用いて、配置時に労働衛生教育として実施したほうが良いと思われます。


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