産業医+研究者というキャリアパス

はじめに

初期研修修了後、私は多くの医師とは異なるキャリアパスを選択しました。産業医と精神科医としての臨床経験を積みながら、大学院で産業精神医学や睡眠医学を学び、現在は睡眠医学だけではなく人工知能の研究者としての道も歩んできました。
ちなみに、私は産業医科大学卒ではありません。それでも、このようなキャリアを選んでいることはなかなかレアだと思いますので、この経験を、これから自分の道を模索する医師の皆さんと共有できればと思います。

キャリアの軌跡と主な実績

  • 大学医学部卒業後、初期研修

  • 初期研修修了後、大学院に進学

  • 研究室に所属し、精神科病院での臨床経験+産業医としての経験を積む

  • 博士号取得、社会医学系専門医、労働衛生コンサルタントの資格取得

  • 複数の学会での受賞(日本産業衛生学会若手優秀演題賞など)

  • 日本学術振興会科学研究費助成事業採択

なぜこの道を選んだのか

大きなきっかけは、大学生時代に医療従事者のメンタルヘルスの問題を知ったことが大きいです。当時、具体的な方法は思いつきませんでしたが、何かこの問題に携わりたいと思っていました。その頃に社会医学実習で産業医学実習があり、産業医学、とくに産業精神医学に興味を持ちました。

現代社会において、職場のメンタルヘルスは重要な課題となっています。産業医学(公衆衛生の分野のひとつ)では、治療だけでなく予防的アプローチが不可欠です。精神保健の疫学や産業精神医学、産業心理学は、まだ発展途上の領域であり、新しい知見や方法論が求められています。

私は、精神科医としての臨床経験と、産業医としての予防医学的視点を組み合わせることで、この課題に対して意義のあるアプローチを見出すことができると考えました。私が所属していた研究室は、健康生成論(Salutogenesis)という興味深い理論を研究しており、この領域に活かせると思いました。また、世界的に有名な睡眠研究者のいる研究所とも協力しており、重要な勉強ができると思いました。
この複合的な視点は、産業医と研究活動においても大きな強みとなっています。現在、産業医としてはとくにメンタルヘルス対策を任されており、面談だけではなく、効果的な研修の立案やデータ分析を行っています。研究では大学院時代の研究で4本の筆頭原著論文を出すことができました。現在は科研費をいただき、新しい協力者も得て研究を推進しています。

キャリアパスを選択する際、最も重視したのは「系統的なトレーニングを受けられる環境」です。産業医と精神科医、双方の専門家がいる研究室を選んだことで、実践的な相談や指導を受けることができました。さらに、研究を行う上でのクリニカルクエスチョン・リサーチクエスチョンの設定や、必要な情報の探し方、統計学、データ分析、色々な人との論理的なコミュニケーションの方法なども学ぶことができました。

金銭面を最優先にはしませんでした。もちろん生活をしていく上でお金は重要ですが、産業医+研究者という独自のキャリアをきちんと築けば、結果は後からついてきて生活はなんとかなると考えていました。個人的には、信頼が先で、後からお金がついてくると信じています。

伝えたいこと

近年、医師の新しいキャリアの可能性が広がっています。しかし、どんなに革新的な道を選ぶとしても、「基礎を大切にする」という原則は変わりません。私からの最も重要なアドバイスは、まず教育を受けられる環境に身を置いてほしいということです。

系統的なトレーニングを受けられる医局や研究室に所属することで、常に基礎に立ち返れる環境を確保できます。これは、将来独自の道を切り開く際の大きな強みとなります。私自身、基礎的な教育環境があったからこそ、産業医学と精神医学、睡眠医学を架橋する新しい研究領域に挑戦することができました。

現在の立ち位置と展望

現在、睡眠医科学の研究機関で研究者として、さらに研究を発展させています。産業医+研究者という新しいキャリアモデルを確立しつつあります。
医師のキャリアに「正解」はありません。重要なのは、自分の興味と社会のニーズを見据えながら、着実に基礎の力を築いていくことです。私の経験が、これから自分の道を探す医師の皆さんの参考になれば幸いです。

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