sabaのライブ
sabaのライブ
約2年ぶりに東京へ行ってきた。目的はライブ。sabaというシカゴのラッパーの初来日である。
シカゴのラップ勢力というと、ひとつは殺人件数米トップという不名誉な記録を残したシカゴの現状を表したような、鈍重で緊張感のあるビートに載せるドリル・ミュージック。10年代前半から台頭cheef keefを初めとする一派。そしてその重苦しいイメージから脱却し現状を変えるための運動も精力的に行なっている、chance the rapper率いる「セイブ・マネー」周辺。そしてsabaは後者に属するというわけだ。
彼の仕事はラッパーとしてのそれよりも、プロデューサーとして側面のほうが有名かもしれない。2016年にリリースされたnoname『Telefo
-ne』の楽曲に多く関わったと言えば、その実力がわかるだろう。
彼女の語りかけるような、優しさと知性を備えたフロウ、しかしその根底に流れる哀しみ……それを支えているのがsabaのゆったりしたビートとメロディだ。2年前、僕はすっかりこのアルバムに打たれてしまった。自分にとっての2016ベストアルバムだ。
だからこそ、sabaの初来日のニュースを聞いたときは、ぜひ行きたいと思った。とはいえ、そのときは『Telefone』に関わっていたことくらいしか知らなくて、彼個人の楽曲はほぼ聴いたことがなかった。かろうじて、これも16年の傑作、chanceの『coloring book』収録の「Ang-el」で客演していたのを聴いたくらいだ。
しかし本格的に聴いてみるとハマった。とくに今年リリースされた『CARE FOR ME』は、ライブ行きが決まったということもあり、何回も聴いた。10月頃アップされた「tiny desk conc-ert」でのパフォーマンスも素晴らしかった。
https://m.youtube.com/watch?v=LTzmjU8aOR4
彼の曲は先述したnonameのものに負けず劣らずメロディアスだ。『CARE』ではピアノの生音が多く使われていて、それがメロディをより引き立たせている。
だが、ハマったのはそれだけでなく、その下地にはやはり個人を通して見えてくる状況への哀しみと鬱屈があるからだ。『CARE』収録の「LIFE」は実の従兄弟が何者かに殺害されたことに端を発して作られたという。重厚なコンバスのソロから始まるビートの重苦しさは、どこなドリル・ミュージックをも思い起こさせる、彼の苦しみが見え隠れするものだ。
しかし、アルバム全体を通してかすかに見えてくる希望……chanceのそれが持つハッピーな感じとは違う方向ではあるが、そこにあるのはただの絶望では決してないのである。
* * *
相も変わらずパヤパヤしている渋谷の坂を上がっていくと、会場であるwwwが見えてくる。外の喧騒とは裏腹に会場は静かで、とくに前列のほうはガラガラ。客の大半は後ろの高い段に集まっている。
それを見ておいおい大丈夫かと少し不安になったが、これは杞憂に終わったと言えるだろう。
結論から言えば、素晴らしく盛り上がったライブだった。
開演30分前、sabaのパートナーとしてツアーを共にしてきたDJの本場のプレイで会場はいい具合に温められ、sabaが登場したときには、さらに熱を上げ皆大歓声で迎えた。
『CARE』のアルバムツアーでもある今回のライブ、やはり選曲はほとんどがアルバムからのものだ。
「Busy」「SIREN」「CALLIGRAPHY」など、メロウなバース/コーラスのある曲が立て続けに流れる。その度に合唱が起こる。手を挙げて踊る。もちろん僕もそのうちのひとりだ。そして曲間に挟まれる「Tokyo make some noise」のMC。また起こる歓声。
もっとも会場が盛り上がり、かつ僕としても嬉しかったのは「Angel」をやってくれたことだ。「チャンスになりきって演るぜ」と告げて始まったそのイントロで、誰もが大はしゃぎだった。僕もそうだが、やはり彼の存在を知ったのがこの曲だった人は多いのだろう。
内容はとても満足だったのだけれど、ただひとつ残念だったのは物販がなかったことだ。僕としては「CARE」のロゴキャップを楽しみにしていたのだが、売り切れを心配する以前にまず売られていなかった。
もしかしたら、saba本人含め、あまり大きな反応は期待していなかったのではないだろうか。ライブ自体はアンコール含めて1時間程度。アルバムツアーとはいえ、それ以前の曲はほとんど演っていない。物販がないというのも、普通のことなのだろうか?
とはいえ、フェスなどでお茶を濁すのではなく、ちゃんとツアーに組み込んでくれたのは感謝しなければいえないし、その裏には多くの人の努力があったのだろう。
そして何より、はるばる来てくれた彼らにしっかりとした反応を、声を聞かせることができてよかった。ライブ後半で観客が、ライトを点けたスマホを掲げる場面などは感動的な光景だった。(それはsabaのインスタで見られる)
https://www.instagram.com/p/BrOy81vAKTB/?utm_source=ig_share_sheet&igshid=efyo2ubnfrke
次の来日がいつになるのか、そもそもあるのかわ分からないが、少なくとも希望のもてるライブだったと思う。