職務代行通知書って何? ~関西スーパー事件を題材に②
関西スーパー事件の大阪高裁の決定文を素材として、株主総会での議決権行使をめぐる問題を考察しようというシリーズです(なお、最新の資料版商事法務2022年1月号に、一連の裁判所の決定文が掲載されていました。)。前回の記事は、以下のとおりです。
第2回は、実務上、よく使われるものの、意外と解説が少ない「職務代行通知」について、触れてみようと思います。
職務代行通知=委任状?
関西スーパー事件では、本件株主は、職務代行通知を発行し、実際の総会出席者となるBさんに持たせています。
職務代行通知は、会社法上に規定がある書面ではありません。実務上、頻繁に使われているにもかかわらず、解説も少ないです。試しに、Business Lawyers Libraryさんで検索してみたところ、ヒットした文献は僅かに4件でした。
一般的には、法人株主が、実際に総会に出席する従業員に対して、総会出席及び議決権行使に関する職務上の代理権を授与する書面のことを、職務代行通知(書)と呼んでいます。したがって、法的には、委任状の一種と解されるものです。
何か汎用的な書式がないか探してみたところ、標準的なものと言えそうなものは見当たりませんでした。古い判例タイムズに参考書式があったので、以下、引用してみます(判タ1048号80頁より引用)。要は、委任状の一種ですので、委任状に準じて作成すれば足りるかと思います。
法人株主の出席者は誰か
法人株主といっても、実際に行動するのは自然人ですから、総会に出席して議決権を行使するという場合、自然人である誰かが法人株主の権利を行使する、ということになります。
まず、代表取締役など会社の代表者が直々に出席する場合は、法律上の一般的な代理権に基づいて出席して、議決権を行使するのですから、その代表者に対して権限の委任を改めて行う必要はありません。しかし、代表者は通常忙しいでしょうし(もしかすると、自社の株主総会が同日に開催されているもしれません。)、多くの場合、総務部長や営業部門担当者などが、総会出席者として任命されることになります。
これらの担当者は、内部的には職務権限の範囲として総会に出席する権限を与えられているわけですが、法的には、当然に会社を代表する権利を有するものではありません。そこで、総会の受付側にしてみますと、来場した法人株主の営業部門担当者が、代理権を授与されているかどうか外形上は分からないわけです。そこで、来場した担当者が適法に総会に出席する権限を有することを証する書面として、職務代行通知が使われる、ということになります。
本件の決定文でも、次のくだりがありますが、本件株主のBさんが職務代行通知(及び委任状・議決権行使書の写し)を受付で提出しているのは、以上のような背景があるからですね。
なぜ委任状と呼ばない?
このように、従業員が法人株主の代表者として議決権を行使する場合の代理権限を証する書面を「職務代行通知」と呼ぶわけですが、法的には委任状の一種ですから、なぜ「委任状」と呼ばないのか?、という疑問が湧きます。
この点は、諸説ありそうですが、旬刊商事法務991号(昭和58年11月)の記事(今井宏先生)によると、「議決権行使の代理人の資格が定款により株主に限られていることと関係があるのではないか」とされています。すなわち、この定款の制限に抵触するのを回避するため、委任代理の形式を避け、「代表者の職務の代行」という表現が用いられているのではないか、とのことです(東京地判昭和40年3月16日参照)。ただし、今井先生は、総会出席者は質疑応答や議決権行使を行う権限も有することから、単に法人代表者の手足として職務を代行するにとどまらず、通常の委任による代理権と異ならないのではないか、と指摘されています。
一つ問題があるとすると、会社法310条6項との関係です。代理権を証する書面であれば、総会の日から3か月間は本店に備置する必要があります。条文を読む限り、職務代行通知もこの書面に該当しそうですから、本店に備置しておくことをお勧めしますが、そうだとすると、やはり定款上の代理人資格の制限との関係はどうなのか、という点は問題になりそうです。ここは、場面によって解釈が違うということになるのでしょう。
(その他、委任状勧誘規則との問題もありそうです。委任状勧誘については、以下もご参照ください。)
実務的には、法人株主の場合の内部的代理権の授与を証する書面を「職務代行通知」と慣例的に呼ぶ、という理解で良いかと思います。
現実の受付対応
実際には、職務代行通知の呈示を要求する会社は少数派です(商事法務さんのアンケートで割合が分かりますが、3分の1以下だと思います。)。多数存在する法人株主について、逐一、職務代行通知を求め、受付でその書面の真正性を確認していると、時間がかかり、受付事務が混乱してしまう可能性があるというのが実際上の大きな理由かと思います。
考えてみると、来場したある法人株主の担当者と称する人が、その法人株主宛てに送付した議決権行使書を保有しており、名刺等もあるという状況であれば、当該株主の従業員として社内で適法な授権を受けていると推定することが十分可能ともいえます。そこで、実際には、職務代行通知書の呈示を求めるまでもなく、議決権行使書と名刺の呈示を求め、それで出席を認めていることとしているわけです。
なお、職務代行通知の提出を求める場合においても、その真正性を受付の現場で即座に判断するのは難しいですし、やろうとしても時間がかかりますので、結局、議決権行使書が添えられているか否かで判断されている、というのが実情かと思います。その意味では、むしろ議決権行使書を持っているかどうか、ということが重要視されている、といえるかと思います。
(※追記:前述のとおり、本件株主のBさんが職務代行通知のほかに、委任状・議決権行使書の写しを受付で提出しているのは、以上のような背景があります。)
※職務代行通知関連については、以下の参考記事もご参照ください。
本件株主の対応
ところで、本件の大阪高裁決定の後半には、以下のようなくだりもあります。
本件では、出席者であるBさん自身が代表取締役副社長であるため、もともと会社の一般的な代理権を有するはずです。したがって、本来的には、職務代行通知書が必要な場面ではなかったかもしれません。しかし、念のため、代表取締役社長Aの名義で職務代行通知を作成していたわけですね。
結果論ですが、それが功を奏した、という面がありそうです。
つづく
以上、職務代行通知に関する話題についてまとめてみました。メールでも、Twitterでも、ご意見、ご感想などお寄せいただけますと嬉しく思います。
※ご参考:なお、第1回、第2回で触れた論点については、旬刊商事法務2231号4頁・北村雅史「事前の議決権行使と株主総会への『出席』の意味」に詳しい解説があります。また、東京高裁令和元年10月17日判決(アドバネクス事件)が先例としてあります。こちらは、別の機会に触れようと思っております。
(続く)
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