株主総会での投票 ~関西スーパー事件を題材に③
関西スーパー事件の大阪高裁の決定文を素材として、株主総会での議決権行使をめぐる問題を考察しようというシリーズです(なお、最新の資料版商事法務2022年1月号に一連の裁判所の決定文が掲載されていました)。前回までの記事も、ご参照ください。
今回は、株主総会における投票について、触れてみようと思います。
株主総会における一般的な採決方法(拍手)
株主総会に実際に出席したことがある人であればご存じかと思いますが、一般的な株主総会における採決は、議長が「それでは、本議案に賛成の方は拍手をお願いします」と議場に諮り、議場からパチパチパチ・・・と拍手があった後、議長から「ありがとうございます。本議案は、賛成多数により可決されました」との宣言があり、可決が確認されるという流れで行われています。
(かつては、出席している大勢の社員株主が「異議なし!」と大声で叫び、拍手を促す、という実務があったかと思いますが、今は、かなり控えめに行われている、というところでしょうか。)
このような採決で事足りるのは、実は、総会開会前の段階で、事前の書面による議決権行使や委任状の提出によって賛成多数で議案が可決されることが判明しているから、という事情があります。この点、本件の大阪高裁決定でも、以下のようなくだりがあります。
なお、最高裁判例では、株主総会の決議は(定款に別段の定めがない限り)その議案に対する賛成の議決権数が決議に必要な数に達したことが明白になった時に成立し、必ずしも挙手・起立・投票などの採決の手続をとることを要するものではないともされています(最判昭和42年7月25日)。集計結果が分かりさえすれば良いということですが、とはいえ、結果が分かったことを対外的に明示しないと、いつ結果が分かったのかが曖昧になって混乱もしますので、議長の可決宣言をもって結果が分かったという整理としているものと理解しております。
株主総会における投票
商事法務さんのアンケート結果(旬刊商事法務2280号119頁)によると、拍手の方法と回答した会社が全体の96.7%を占めます。その他、挙手や発声による方法も合わせると、事前に議決権行使結果が判明している会社がほとんどであることが分かります。
一方、賛否が拮抗しており、当日になるまで結果が判明していない、という会社さんも勿論あるわけで、そのような会社では、総会会場において投票が行われることになります。商事法務さんのアンケート結果では、昨年は、書面投票が13社、電子投票が12社あったとのことです。(なお、ハイブリッド型バーチャル株主総会を実施する場合、電子投票にも馴染むので、電子投票を採用する会社が出てくるのではないかという議論が一部にありましたが、必ずしも影響はしていないようです。運営サイドとしては、トラブルがあると対応が大変になりそうですからね。)。
コロナ禍以降の株主総会がどうなるか、という点はさておき、多数の株主が来場する株主総会で、投票の必要が生じた場合には、株主にマークシートを配布して記入してもらい、機械に読み取らせて集計する、という方法をとることが一般的かと思います(私が過去に経験した株主総会での投票の事例では、すべてそうしていました)。各株主によって議決権の個数も違うため、出席株主が多い場合、手作業で数えるのは現実的には困難だからですね。
運営サイドとしては、議場で投票が必要となる事態はできるだけ避けたいところですが、やむなく必要になった場合には、集計の手配をしなくてはいけません。マークシートの準備も含めて、この辺りのノウハウは証券代行さんがお持ちかと思います。
本件の投票時の説明
前置きが少し長くなりましたが、本件事件でも、マークシートへの記入による採決の方法が採用されています。
参考になるのは、「◎本票のご提出がない場合は不行使として集計いたします。」として、棄権ではなく、母数に入れないとしている点かと思います。
総会出席株主は受付時点で出席とカウントされているものの、途中で帰ってしまい、採決に参加しない株主も(少数ながら)いるかもしれません。そのような意図的に投票をしない株主の議決権を「棄権」として扱うと、実際には反対と同じ効果を持ってしまうことになります。
これらの株主の意思は、賛成・反対どちらでもないという場合が多いと考えられますので、不行使として母数に算入しないという扱いも合理的だと思います。
「棄権」というマジックワード
ここで、本件担当者のBさんの誤解が生じます。
原則をおさらいしてみますと、議決権行使の場面における「棄権」とは、議案に対する賛否を明らかにすることを差し控える、ということであり、議決権行使自体は行ったことになりますので、行使された議決権個数の母数に算入されることになります。一方で、議案の可決には、普通決議の場合、出席株主の議決権の過半数の賛成が必要とされています(会社法309条1項)。「棄権」した株主は、出席したにもかかわらず「賛成」はしていないわけですから、結局、「反対」の議決権行使をしたのと同じことになるという理屈です。
一方、日本語の意味を考えてみると、「棄権」とは、議決権を行使すること自体を差し控える、という意味にも理解できます。というより、何も知らなければ、そのように理解するのが普通かもしれません。つまり、「不行使」の意味に理解してしまうわけです。ここは、大変間違えやすいところで、弁護士の中にも、本当に理解しているのかが怪しい人が時々いたりします。
というわけで、本件担当者のBさんは、本来は「不行使」とする意図であったにもかかわらず、「棄権」として議決権を行使してしまった、というのが問題の発端になっているわけですね。
もっとも、Bさんは職務代行通知まで持って株主総会に「出席」してしまったのであり、その認定を前提とするならば、出席した時点で、従前の委任状による議決権行使は撤回されたとみるべきだろうと考えます(もっとも、アドバネクス事件の東京高裁の判示を踏まえると、Bさんにはそのような権限がなく、まだ撤回はされていないのだ、という考え方もあり得るかもしれません。これはこれで、また別の論点ですね。)。したがって、仮に「不行使」にしていたとしても、従前の委任状による議決権行使の効力が当然に復活する、ということでもないと考えます。その意味で、Bさんには、二重の誤解があったと言えそうです。
つづく
以上、あまり見かけないものの、実際に実施するとなると大変な株主総会の投票について少しコメントしてみました。なお、まだまだこの先に、議長が定めた投票ルールと、本件株主の議決権行使の賛否の認定の問題がありまして、そこが本件の核心部分となりますが、そこは別の機会にしようと思います。
メールでも、Twitterでも、ご意見、ご感想などお寄せいただけますと嬉しく思います。
(続く)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?