エトランゼ編集部
今回は三題噺を行いました! 【お題:捻挫・クッション・紅葉】 そろそろ梅雨の季節ですね。 重く暗い日々をささやかに彩るあじさいのようなそんなひとときをみなさまへ。 どうぞ、お好みの飲み物を傍らにお楽しみください。
宇宙飛行の夢を見て/トギナナミ 2020年秋号より
世界には「指定難病」と呼ばれる病気がある。文字通り、現在の医術ではどうにもならない病気。身体が徐々に動かせなくなってしまうパーキンソン病なんかもそれに含まれていたりする。 少年が患っている病気も、この指定難病の一種であった。なんでも、肺が委縮して呼吸がうまくできなくなる病気なのだとか。症状は突然現れ、やれ酸素ボンベだの人工呼吸器だのがんじがらめになったコードを体内にたくさん刺されることもよくあった。そういうわけで、この少年は物心ついた時から、国立針山病院の東棟412号室に
死んだ友達の命日に、毎年造花を贈っている。咲く前に散った命に、首を切られて枯れるのを待つだけの花を添えるのは、気分が悪い。 作り物の花を選ぶ時間が好きだ。その棚には命が一つもないから。無機物だけが咲き誇る風景に安堵する日々が、何よりも楽しくて罪深い。花弁に手を触れても、茎を握りつぶそうとしても、変わらぬ美しさがそこにある。 「お客様、贈り物ですか?」 視界の中に有機物が侵入してくる。嫌だ。反射的に視線を下に向ける。早くここから去りたくて、棚にある造花を数本つかんで声の主
2018年、春の作品発表会。第2弾。 青・ばら・アイドルの3つのテーマ三篇と、 ワイン・人生ゲーム・ギターの3つのテーマ一篇です。 我儘 著:納村紗奈 奇襲 著:さ哉 (無題) 著:ひらまりこ 他者の興醒め 著:文洋 秀 我儘 著:納村紗奈 東京から約2時間。技術の進歩というのは新幹線と同じくらい速い。うとうとしているとあっという間に別の場所に着く。おいていかれるのは嫌だが、急かされるのも気分が悪い。以前友人にそう言
2018年、春の作品発表会。 新しい作家さんたちが加わり、物語もいっそう彩り豊かになりました。 黄昏時・緑茶・横隔膜の3つのテーマから、お話が繰り広げられます。 雑学王と呼ばないで 著:前花しずく 化けの河 著:ハシバマユ 欠片 著:柊 らぎ リズの声 著:りょうCAN おそろい 著:くらげさん。 雑学王と呼ばないで 著:前花しずく「ひっく」 「ん?どした急に」
やってきました、2018年。 今年もよろしくお願いいたします。 さて、2017年秋の作品発表会の第2段です。 ある3つのテーマに沿った物語。どういったテーマなのか、あなたは読み解くことができますか?(答えは最後にあります) 目次 解体 ――― 譲葉 春雨 「はなみず」 ――― 丸永 路文 解体 譲葉 春雨 ぐにっ、ぎっ、とん。と、とん。ぎぎ、とん。 順序関係なくバラバラに。カッターナイフを持ちこんで、消し
2017年秋の作品発表会。3つのテーマに沿って書いた作品を詰めました。 「ラスト・マキナ」―――慢心大魔王 「振り下ろされた鍬」―――またたび浴びたタマ 「ある夜の喫茶店で」―――水菓子 ラスト・マキナ 慢心大魔王 人間とAIの思考能力に違いが無くなってから、早くも二百年が過ぎた。最新型のAIは感情を持ち、人間を理解し、精工な外骨格があれば人間と見分けがつかないほどにまで進化した。 きっと、それがいけなかったのだ
著:久坂 蓮 わたしというにんげんは、ほんとうは、どこにもいない。みんながわたしのことをどう思っていて、なにを感じているか、わたしは知らない。ともすればわたしを、馬鹿みたいなやつだと考えたり、あいつ、嫌いなんだよね、なんて、飲み会で、言われているかもしれない。けれども、わたしは、だれにもほんとうのわたしなんて、見せたことがない。ほんとうのわたしとはなにか、わたしだってわからない。わかるのは、あ、今少し、苦しいとおもいながら笑って、帰ってからひとりでベッドにうつぶせて、泣く
著:久坂 蓮 散歩にいこうよ、アキ。 遥(はる)にそういわれて、秋人は居間のソファのうえでつぶりかけていた眼をあけた。 散歩って、これから。 うん。これから行きたい。 寝椅子に横になった姿勢で、首を反らして壁にかけられた時計に目をやる。もう十一時を過ぎている。寝そべってテレビをみているうちに睡魔がやってきて、ちょうどこのまま眠ってしまおうと思っていたところだった。 明日が、いいなあ、大学もあるし、と秋人がいうと遥はかがんでかれの眼を覗きこみながら、今日
12月初めに行った作品発表会の小説を公開します。 テーマは三大噺「トランプ」「毛糸」「みち(漢字変換自由)」、分量は2000字程度です。 ④「覚めない」 るり紺 ジリリリリリリ 目覚まし時計のなる音が突然耳をつんざいた。ぼんやりとする頭をおこしアラームを止める。はっきりとしない視界は、まだ青色の風景を微かに写している。夢を見ていたのだ。なにか、青い物につつまれたのだけは覚えている。最近引っ越しをしたばかりなので、新しい街並みをながめる夢でも見たのかもしれな
著:高岡はる 柚子吉の三回忌をしようと言ったのは姉の悠で、肌寒さが残る三月の上旬のことだった。 「夕方の四時からにしようと思っているから、それまでには帰ってきてね。」 そもそも三回忌って、一回忌もしたことが無いと言うのに、どういう心境の変化だろうか。柚子吉は、父が拾ってきた犬だ。毛並みはこげ茶でツヤがあり、家の庭になっている柚子の木を、大変気に入っていた。その途端懐かしい気持ちとは反対に、ひどく黒くて暗い感情が胸を覆う。 「俺はやらない」 「だめよ。そんなの」
12月初めに行った作品発表会の小説を公開します。 テーマは三大噺「トランプ」「毛糸」「みち(漢字変換自由)」、分量は2000字程度です。 ①貴方は私の大富豪 カザリ 手元に残ったトランプはスペードの3とジョーカー。こういう時、私はなんとなくジョーカーを手元に残す。いや、なんとなくだと語弊があるかもしれない。ただ自分に抗えないが故にジョーカーを手放すことができないのだ。しかし、これが私にとって少しでも幸せになるための方法。残念ながら今の私にはこうすることしかでき
2016年刊行 『New Drole』掲載の各作品の、冒頭約1000字を公開します! ①『少年のアルゴリズム』 著:霧原礼華 冬が深まりつつある十一月下旬。夕刻を過ぎた頃の街は華やかなイルミネーションによって彩られ、厚着をした人々の群衆によってさらに賑わいをみせていた。私は一時間前に仕事を終え、つい先ほど自宅の最寄駅に着いたところである。しかしホームに降りた途端、すぐに冷えた外気を浴びせられ、ほんの少し身体が震えた。昼間とはかなりの気温の差だ。もう少し厚着すれば良かった
著・亮月冠太朗 絵・市川正晶 金城拳聖(かねしろけんせい)。 最初には、未夕ではなく……竹山でもなく、彼を生き返らせたかった。 最後に言葉を交わしたのが彼だったから。 何より、彼の声を聞きたかったから。 「よかった。生きてたんだな」 生き返った拳聖の第一声。 「死ねばよかったのにな」 そして二言目。歪んだ口元が彼の皮肉を際立たせる。瞳は苛つくほど無邪気に輝き、俺の反応を伺っている。 「本当に拳聖なのか」 「YES。俺は金城拳聖。中二の時
著:高岡 はる 裏庭で採れたふきのとうは、天ぷらにすることに決めた。古びた中華なべを台所の戸棚から取り出すと、お久しぶりです、とでも言うように雄々しく、その姿を主張した。持ち手ははげかけ、中の鉄板部分は、あの新品だった頃のぎらぎらとした銀色の光沢は、なくなってしまったが、年月を経て得た貫禄のようなものが、なべ全体を覆っていた。 ナベは中華ナベが、いっちゃん良いけんのおう。 母はでたらめな方言を使い、ご自慢の中華なべで夕飯によく揚げ物をあげていた。料理は
著:脂腿肉無骨 一本の矢ではすぐに折れてしまうが、三本の矢を束ねればサイダーパンク小説が書ける 「お帰りなさいませ、ご主人様!」 「いつものを、頼む」 「ごめんなさいご主人様。今日はいつもの、無いんです」 「何?」 「ひえっ!? ごめんなさい、怒らないで! 代わりに良いもの、仕入れてますから!」 「ああ、早くした方が良い。急がないとあんたの頭が吹き飛ぶぞ」 「す、すいません!」 「……はぁ」 「ごめんなさいね。あの子まだ培養漕から出たばっかりなのよ」 「