ベトナム・ブンアン2石炭火力発電事業について思う事。
三菱商事などによるベトナムの石炭火力発電所建設計画。企業連合は脱炭素化に対する企業の社会責任と日本・ベトナム両国家の意向の板挟みになっていた所、慶應義塾大学の学生環境活動家に鬼の首を取ったような公開質問状(#石炭火力発電を輸出するって本当ですか)を送られている。数多くの社内調整を経て、回答文書の作成対応を迫られる社員を不憫に思いつつ記す。
まず、大前提として、再生可能エネルギーの低価格化で石炭火力発電が旧時代的なものになっているのは紛れもない事実であり、2020年にベトナム政府も再生可能エネルギーを優先した開発の方向性を示している。
(出典:日経アジア「Vietnam aims doubling use of renewables by 2030 to slash CO2」)
そのように電源開発の潮流が変わりつつある中でも、槍玉に挙げられているブンアン2石炭火力発電事業は、長期的な電力開発計画を基に、意思決定者であるベトナム政府が現在でも計画している事業である。経済成長に伴う電力需要の増加と電源開発の遅れから、電力不足はベトナム社会の深刻な問題となっている。そのような状況下で、2006年から長年の検討が為され、2024年の稼働開始が予定されている本事業の完成を関係者が待ち望んでいる事は想像に難くない。
ベトナム政府は5月7日、2020~2025年の節電強化に関する首相指示20号(20/CT-TTg)を発出し、電力消費量を全体で少なくとも年間2%抑制するよう要請した。ベトナムでは電力不足の懸念が高まる一方、国内での早急な発電量増加を見込めない状況で、政府は節電目標を設けることにより、十分な電力供給を確保したい狙いだ。
(引用:日本貿易振興機構「ビジネス短信 2020年5月15日」)
ベトナム南部では2021年に37億キロワット時(kWh)、2022年に約100億kWhの供給不足が生じ、2023年には約120億kWhが不足するとした。その後の見通しは、2024年に70億kWh、2025年に35億kWhと供給不足が徐々に解消していくとの予測になっている。電力不足が生じる要因について、ベトナム南部で火力発電所の建設が遅延していることが挙げられる。特に2018年から2022年にかけて、発電設備が改定PDP7で掲げられている目標より1万7,000メガワット(MW)以上不足するという。
(引用:日本貿易振興機構「ビジネス短信 2019年07月09日」
学生環境活動家は安易に再生可能エネルギーの導入を提言しているが、電力系統運用などの技術的な課題も含めて、ブンアン2と同規模の1,200MW規模の電源開発は間違いなく長期的な事業となる。2023年に約120億kWhの電力不足が見通される中で、2024年に本発電所が稼働開始する事の意義は大きいのではないだろうか。化石燃料を大いに燃やして豊かになった(今も燃やしている)先進国の若者が、自らの環境問題への理想の為に、明確な代替案を持たずに本事業の白紙化・見直しを望むのであれば、ベトナム国民への配慮に欠けた発言であると言わざるをえない。
ここまでこの運動に対して批判的な意見を述べてきたが、私自信も再生可能エネルギーが主力電源となった脱炭素化社会が早期に訪れる事を望んでいる。環境問題への主義・主張が先行し、ベトナム国民に寄り添っていない活動であると感じた為に、個人的な整理も兼ねて記した。