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【ショートストーリー】ミルクティー

リプトンの、あの青色の紙パックを右手に、左手で頬杖をついている知らない女の人。
ただ、それだけの一瞬。

年末。
授業のない大学、人もまばらな食堂。
昼食をとっていた僕の視線の先にいた女の人の、その時の所作の印象が際立って、目に焼きついた。

驚くべきことに、もう10年以上前の、ほんの小さな記憶だが、色褪せずに、新しい記憶としてあり続けている。

しばらく経ったあと、研究室に後輩が配属されてきた。
彼女は、パソコンの前で作業していた。
僕はデスクに戻ろうと、何気なく彼女を見たとき、時間がとまった。
彼女は、青色の紙パックを片手に頬杖をついていた。

ある師走の寒い夜。
「ミルクティー淹れる?」 
君は立ち上がり、台所へ向う。

2つのマグカップには、なみなみに注がれたミルクティーが入っている。

君はマグカップを両手に、正面に座る僕と他愛のない話をする。

それだけの、ただ一瞬。
何気ない日常。
ここまでの道のりは、ささやかな奇跡の連続だ。
そう。ミルクティーの温かさほどの。



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