
メガヘルス
好きな会社というより、惚れた会社が一社あり、その会社の製品を20年近く愛用している。
(株)日本生物科学(旧社名:バイオテック)という食品会社が製造している加工食品だ。
一般にいうところの栄養補助食品、サプリメントを販売する会社であり、菌糸体や菌酵素を原料とすると謳っているが、実の所、それは自分にとっては結構どうでもいいことで、この会社の作る商品を買い続けている理由は創業者の執行草舟社長の理念に共鳴、共振したからに他ならない。
執行社長の思想・理念はいくつもの著作が刊行されており、詳細はそちらに譲るとするが、一言でいうと「メガヘルス」という言葉に集約されている。
メガヘルスとは執行社長の造語であり、「生命の完全燃焼」であると自分は捉えている。
生命の完全燃焼とは「死」であり、死に向かって真っ直ぐ突き進む哲学がその「メガヘルス」の理念の根源にあるのだ。
20代にこの「メガヘルス」という言葉に出会い、衝撃を受けた。
或る日、知人より、見せてもらったこの会社の発行する社内報のタイトルが「メガヘルス」であったのだ。
そこにはいくつかの論文とともに、草舟哲学ともいえる生命の理念が記されていた。
当時、虎ノ門にあったその社屋を尋ね、定期的に発行されるその社内報を分けてもらうようになったのは、いうまでもない。
もちろん、そこで発売されていた「サンレム」と「メルゲン」と呼ばれる加工食品も購入するようになった。
当時、大学を中退し、フリーターとして家賃2万円のボロアパートに住んでいた自分にとって、家賃とほぼ同額、決して安くはなかった、そのサプリメントをよくぞ購入したものだと今でも思う。
しかも、栄養補助食品であるにも関わらず、成分やカロリーの類は一切記載されておらず、効能や成分もとくに明示されていないのだから。
そして、会社、そこで働く社員たちも皆、あやしさ全開だった。
最初、本社を訪れた際は、新手の宗教団体かと思ったくらいである。
熱心にその効能を説かれもしたが、結局のところ、飲んでみなければ分からないと考えていたので、即購入し、今に至っている。
そして、その効能のほどは現在もなお、はっきりとよく分かっていない。
しかし、不思議なことに20年近く摂り続けているのだ。
このことが一つの効能といえるのかもしれない。
断っておくが、麻薬性や依存性は決してない。
摂るのを忘れる日や旅先に持っていかなった事もあったが、禁断症状が出ることは当然なかった。
購入している理由としては、ただただ、社内報に掲載されていた執行社長の草舟哲学に衝撃を受け、自分の生き方の軸が出来たことに対する恩に報いる為といってよいかもしれない。
草舟哲学は自分にとって、それほどの衝撃だったのだ。
哲学といっても、堅苦しいものではなく、一人の男が自分の人生を生き、考えたことが過去の体験を交え、赤裸々に語られたものだった。
「メガヘルス」と題されたその社内報が発行されると、すぐに本社を訪れ、分けてもらい、ホクホクしながら帰り、むさぼる様に読む姿は、ちょうど小学生時代、週刊少年ジャンプを発売日に駄菓子屋で買って読む姿と重なるようでもあった。
そんな「メガヘルス」も創刊から10年が経ち、一区切りついたということで、廃刊となった。
毎号、楽しみにしていた自分にとっての大人版少年ジャンプはその後、形を変え、講談社やPHP研究所などの名だたる出版社から、書籍という形をとって世に出された。
哲学・思想書のジャンルにおいて、ベストセラーとなったことから、多くの人が知ることにもなった。
少量製造につき、広告・宣伝をうつことをしない方針からも、執行社長の著作程、多くの人には知られてはいないサプリメントだが、この会社の製品を長年にわたって、飲み続けている自分を少し誇らしくも思っている。
それは、健康に長生きするために飲み続けているのではなく、草舟哲学に惚れ、それを体現するため、即ち「よりよく死ぬ為」に飲んでいるからだ。
最近はもう、中年に差し掛かってきた所為か、体のあちこちに綻びが見えはじめ、疲労も抜けにくくなってきた。
通常、その軽減や回復を謳うのが一般に発売されているサプリメントの大半であろう。
しかし、この会社の製品は違うのだ。
何の効用・効果も喧伝せず、成分表示もしないまま、ただ、販売し、商いを成立させているのだ。
かっこいいと言うより他はない。
そして、よく分からないまま、飲み続けている自分もまた、かっこいいと思っている。
周りから見れば、馬鹿に見えて当然であろが、しかし、その馬鹿になるために飲んでいるともいえるのだ。
そういった不合理を愛せるようになった事もこの会社を好きになった理由の一つと言えるのかもしれない。
老いと死を退けたるは死ぬことと見つけて行ず日々の営み
いいなと思ったら応援しよう!
