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日本語人の脳

『日本語人の脳 理性・感性・情動、時間と大地の科学』角田忠信 2016/04 言叢社

本書、角田博士に記された日本人の脳の特殊性に関して発表された論文を主に構成されております。

角田博士は耳鼻科を専攻されていた医学博士であり、難聴者の治療や補聴器の開発に携ったことをきっかけに、言葉やコミュニケーションの研究に入られたとのことでした。

そして、その研究を通じて、日本人の脳のある特性を発見します。

右脳によって認識されると思われていた虫の音や鳥の鳴き声、雨や風などの自然音が、日本人にとって、左脳によって認識されるものであり、また、言語においても、世界中の大半の民族が母音は右脳、子音は左脳で聴き分けているのに対し、日本人は母音も子音も左脳で認知しているというものだったのです。

この脳の特性により、日本人は虫の声や鳥の鳴き声を単なる自然音と処理するのではなく、言語と同様に意味を感じとったり、情緒を味わうことができるというのです。

これは日本語の持つ特性が脳に大きく作用するするそうで、博士の調査の結果、5歳から9歳前後の成長期に日本語を母国として学習した者に現れる特徴で、人種や遺伝とは無関係であることもわかりました。

日本語は世界の言語の中でもかなり、特殊な言語であるようで、子音でなく母音が主体の言語ということが一つあげられます。

これは母音単独でも言葉となり、意味を持つ言葉が日本語には多数あり、また、50音すべてに「る」をつけるとその大半が意味の通る動詞にもなる事などからもあらためてその日本語の特殊性に気づかされます。

また、面白いことに日本人は西洋器楽の発する音は右脳で近くするのに対し、尺八や三味線などの邦楽器に関しては左脳で知覚するとのことでした。

これに対し、外国の方は西洋器楽も邦楽器も共に右脳での知覚だそうです。

本書を通じて、自分の中で長年、考えて続けていた日本文化の根幹なるものが「日本語」にあるという確信は大変、強まり、肚落ちすることができました。

なお、最近、日本の古典音読を通じた子供たちの能力開発メソッドを学び始めたのですが、言語学習を通じての脳機能への影響力を大きさを改めて、実感しております(この角田理論は、大いにそのエビデンスともなりました)

ただ、本書に記された調査と研究のデータの数々ですが、脳科学の研究が盛んとなっている昨今、もう少し、話題となり、評価されてしかるべきではないかとも思った次第です。

他にも角田博士の研究によると、右脳と左脳をつなぐ脳幹の部分には、左右の脳に情報を振り分ける精緻なセンサー機能を有しており、地殻や天行などの地球環境とも同期しているという実験データの記載もあり、非常に興味深くありました。

以前、 同じ脳科学を取り扱った、ローン・フランク著『闇の脳科学 「完全な人間」をつくる』を紹介させていただきましたが、本書、それを上回るショッキングな内容です。

脳科学、言語学、そして、日本文化に興味の尽きない方、ぜひ、一読を!

「閑さや 岩にしみ入る 蝉の声」 松尾芭蕉







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ぴんぱ
人の世に熱あれ、人間(じんかん)に光りあれ。