蒲郡市は「ほこみち」決め打ちでなくてもいいのではないかなという話。【その3】
蒲郡市の「歩行者利便増進道路(ほこみち)制度」の導入を題材に記事を書いてたら予想以上に長くなり、三部作になってしまいました。
今回はいったんの完結編。
余所者がお節介ながら、市の方針について気になることを書いてみます。
これまでの記事はこちら。
蒲郡市の意図を勝手に想像する
前回の記事にて、「歩行者利便増進道路(ほこみち)制度」の導入による効果として、
「①道路の構造(断面構成)が変わる」
「②道路占用がより柔軟になる」
「③占用事業者を公募すると、20年間の道路占用が可能になる」
の3つを紹介しました。
そして、3つ目である「事業者の公募による20年間の占用」の説明の中で、「常設店舗の設置という選択肢も想定」という表現を用いました。
穿った見方かもしれませんが、おそらく蒲郡市は、この「常設店舗の設置」を第一に考えているのではないかと想像しています。
理由は、サウンディング調査のチラシにおける以下の言い回しです。
こう邪推する背景には、行政における文書中心主義・決裁主義があります。
行政が作成する文書の、チラシのような媒体も含めてほとんどは、"決裁"の手続きを経ることで、行政組織(≒首長)の意思として扱われます。
そのため、行政組織内で一字一句の校正が、担当者→係長→課長といった決まったルートで行われます。
この際、表現の統一や助詞のニュアンスといった文法的な確認はもちろん、単語を並列する際の順序についてもチェックが入っていることが推察されます。
そんな承認ルートを辿ったはずのチラシの中で、ほこみちの導入による道路の活用イメージを例示する際に、イベント等による賑やかしではなく、あくまで「店舗設置」が第一に挙げられているのです。
ここに、行政としての関心の順位、強弱を想像することができるのです。
また、今回のサウンディングの背景である「東港地区まちづくりビジョン」の文面からも、同様のことが読み取れます。
ここでは、サウンディングのチラシにあったような「キッチンカー」や「出張本屋さん」という記載はなく、「民間事業者によるオープンカフェ設置」のみの例示なので、やはりここに焦点があるのかな、という推測を支持する要素となります。
最初から常設店舗の設置を志向することのリスク
そうは言っても、おそらく多くの蒲郡市民にとって、「え、アピタの東側の道路にカフェ?」と、唐突な印象を覚えるかもしれません。
確かに、そこに実際に魅力的な店舗が設置されたり、それにより魅力的な空間が創出されたという場合には、「東港地区まちづくりビジョン」の実現、そこに描かれたパースに表現されるような、パブリックライフの創出に大きく近づくことでしょう。
しかし、現実的な視点も必要です。
取り組みを一過性のものではなく、持続可能なものとするためには、その主体が投資を回収できることが大前提となります。
その上で、収益等の"うま味"もしっかりと確保することで、お金がうまく回っていく状態が望ましいでしょう。
その観点から、現時点において、対象地における事業について、成立可能性がどれだけあるでしょうか。
蒲郡市もご多分にもれず車社会で、どれだけ近い距離の移動であっても、自家用車を利用するのが当たり前です。
アピタ蒲郡店へ来る方も、そのほとんどが自家用車によってアクセスする方でしょう。
その場合、3階以上にある立体駐車場と、1・2階の店舗を行き来する程度の移動しか期待することができません。
アピタには敷地外の平置き駐車場もありますが、店舗から見ると平置き駐車場は対象地と反対側にあります。
したがって、対象地域をこれから占用する事業者が提供するコンテンツ、例えばオープンカフェが、アピタ蒲郡店への来店客をターゲットとするにはかなりのハードルがあるように思えます。
また、別のターゲットとして、蒲郡駅を降りた歩行者も考えられるかもしれません。
しかし、蒲郡駅を降りた方が、ふらりと南方向へ歩いていくという行動パターンをとる人が、現在のまちの状況でどれだけのボリュームを占めるでしょうか。
蒲郡駅から歩いて南側へ向かうという行動を促すには、目的地となりうるスポットや、優れた景観の存在が必要となります。
現在、蒲郡駅南側におけるアピタ蒲郡店(自家用車による利用がメインか)以外のスポットとしては、生命の海科学館を含む「みなとオアシスがまごおり」があります。
そこには確かに、海濱館マリンセンターハウスには、「オンディーナ」という、海の眺望も楽しめる素敵なイタリア料理店があります。が、誰もが楽しめるコンテンツはせいぜいここだけ。
「バリアフリーポンツーン「マンボウ」」も珍しい施設のようですが、現状ではあくまで特定の利用者が使う施設にとどまっており、マリンアクティビティを誰もが気軽に楽しめるという状態ではありません。
したがって、蒲郡駅から日常的な歩行者動線ができるような吸引力あるエリアとなるためには、蒲郡駅から南下するルート上あるいはルートの先に、市外からも人が訪れたいと思うような様々なコンテンツの集積強化や、エッジのきいたエリアブランディングを行うことが必要ではないでしょうか。
こうしたコンテンツの強化やブランディングも、「東港地区まちづくり」として取り組まれることが重要でしょう。
このように、現時点においては、アピタ蒲郡店東の道路について、事業者公募による長期占用に絞って検討を進めることは時期尚早に感じます。
この段階の姿勢として望ましいのは、幅広い「まちを育てる人」が活躍するための諸条件を把握する、といった柔軟さや、道路活用の使い手の門戸を拡大するための理解増進を通じた、担い手の育成・発掘ではないでしょうか。
業として飲食・物販を展開する方々に限らず、より緩いスタンスで、この空間を面白がって活用してくれる人、そこにつながるプレイヤーが発掘できることが、まずは望ましいように思います。
逆に懸念しているのは、上記のような事業成立可能性の低さから、今回のサウンディングにて、「オープンカフェを希望する事業者はいない」という調査結果となった場合です。
市がそれを「当該道路には活用の余地がない」と拡大解釈し、事業を停止してしまうことです。
機が熟していないことが判明したならば、エリアのポテンシャル向上につながるためのソフトなまちづくりに、官民連携でチャレンジする方向にマイナーチェンジするのがよいのではないかと思います。
「ほこみち」すら前提としなくてよいのでは
また、「歩行者利便増進道路(ほこみち)制度」を導入すること、その方向性を今から示しておくことも、もっと慎重になるべきではないかとも感じます。
活用するツール、道具を先に決めた上で、民間側のやりたいことを当てはめていくという順番になっているように見えるからです。
また、別の観点からの疑問も。
前回の記事のように、「ほこみち」は確かに民間による道路空間活用の可能性を拡げてくれるツールであることは疑いありません。
しかし、制度の歴史がいささか浅く(2020年〜)、いったい何ができるツールなのかという知見の蓄積が少ない印象があります。
さらに、「ほこみち」以外の従来の制度でも、道路占用の特例制度は用意されています。
例えば中心市街地活性化法に基づくもの、国家戦略特別区域法に基づくもの、都市再生特別措置法に基づくものなどの類似メニューがあり、それぞれ少しずつ使い方が異なります。
特に、都市再生特別措置法に基づくメニュー、例えば都市再生整備計画を活用した道路占用特例や、滞在快適性等向上区域における都市再生推進法人の「占用手続きのワンストップ化」も、蒲郡市がイメージする方向性や対象地域との親和性が高いように感じます。
これらも念頭に置いて良いのではないでしょうか。
「ほこみち」は新設のメニューです。
話題性(全国でまだ数えるほどしかない)や、所管する国土交通省道路局との関わり(所管組織として活用実績が欲しい)などをどうしてもイメージしてしまい、本来は縦割りとは無縁であるべきの基礎自治体におけるノイズを想像してしまいます。
サウンディング調査の感触や、その枠組みの外からも起こってくるであろう民間まちづくりの取り組みを見ながら、適切な行政支援のあり方を柔軟に検討していくべきと考えます。
「まちを育てる人」の出番である
さあ、既に昨年12月28日をもってサウンディング調査の募集は締め切られました。
しかしこれはせいぜい、市とアイデア対話をするための"サウンディング"という一つのチャンネルがなくなっただけにすぎません。
したがって、この道路を幅広い民間プレイヤーが活用していける可能性は、まったく消えていないのです。
タクティカルアーバニズム的なアプローチにより、ゲリラ的にアクションを起こしていくことも有効でしょう。
意見や提案があるならば、個別に市の東港地区開発推進室にアプローチをするという手もあるでしょう。
「東港地区まちづくりビジョン」における「まちを育てる人」の出番は、既に始まっているようです。
これは、"蒲郡市の意図を忖度して代理実行する"ということを意味していません。それは単なる傀儡となってしまいます。
蒲郡市というまちに対してモヤモヤがある方、もっと楽しい、魅力あるまちにしたいと考える方が、自身の超個人的な野望に、「東港地区まちづくり」のスパイスやエッセンスを少しだけ加えてやればよいのではないでしょうか。
僭越ながら私も、トライしてみようと思います。
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