蒲郡市は「ほこみち」決め打ちでなくてもいいのではないかなという話。【その2】
続きの記事です。
ちなみにサウンディング調査への参加は受付は12月28日(火)いっぱいでしたが、どのくらいの事業者さんが申し込みをされたのか気になるところです。
さて今回は、アピタ蒲郡店の東側の道路「市道駅南1号線」を対象とした公共空間活用に向けた動きについて。
特に、
市が導入を検討している「歩行者利便増進道路(ほこみち)制度」とは何なのか
その制度の活用によって、市はどのような将来像を期待しているのか
を考えてみたいと思います。
「ほこみち」では何ができるのか。
「歩行者利便増進道路(ほこみち)制度」は2020年(令和2年)の道路法改正により創設されたばかりの、道路の可能性を拡げるためのツールです。
これまでの道路、少なくとも道路法という法律に基づく道路は基本的に、"車や歩行者を滞りなく流す"という交通機能に強いウェイトが置かれていました。
しかし近年は、道路を活用することによるコミュニティ形成や地域活性化、地域ならではの魅力向上といった新しい効果への期待がクローズアップされ始めるなど、活用する対象・賑わい創出のフィールドとしての道路という価値観が広まったことで、新たに創設されたのが「歩行者利便増進道路(ほこみち)制度」なのです。
(このあたりの背景は意訳です)
国土交通省は、制度創設の背景を以下のように表現しています。
この制度を活用するには、道路管理者(国・都道府県・市町村)が、該当する既存道路を「歩行者利便増進道路」に指定するという手続きが必要となります。
この手続きの詳細は割愛(詳細は国土交通省HP)するとして、これに指定されることで何が変わるのか、何が可能になるのかにフォーカスして見ていきましょう。
ちなみにこの制度については国土交通省が特設ページを持っておりますので、参考に。
①道路の構造(断面構成)が変わる
繰り返すように、道路の機能としてまず第一に「交通処理」があり、これまでの道路空間では交通機能が最重要視されてきました。
したがって道路空間には、車道と歩道、そしてその緩衝としての中央分離帯や緑地帯が位置付けられる程度であり、あくまで交通が中心でした。
商店街のように、実態として賑わい創出やコミュニティ形成の機能を持つ道路があったとしても、道路法に基づく道路である限りは交通が優先であったのです。
そこに今回の「ほこみち」を活用することで、歩道の中に「賑わいを目的とした空間」として、「歩行者の利便増進を図る空間」を位置付けることができるようになりました。
②道路占用がより柔軟になる
①の話は、道路の設計・構造上の話であり、主に断面構成の話でした。
これも道路において画期的な変化なのだと思われますが、一般の住民にとってより身近なのはこちらでしょう。
道路に、テーブル・イスなどの物件を設置したり、イベントを継続的に実施するために必要な道路占用等の手続きが、より使いやすくなるのです。
ここで重要となる、「道路の占用」という概念について簡単に。
交通機能を維持するという公共的な目的から、道路は、道路管理者(国、都道府県、市町村)と交通管理者(警察)によってかなり厳しい形で利用が制約されています。
そこで、道路を交通目的外に利用する際は、道路管理者(国、都道府県、市町村)に対する「道路占用許可申請」(道路法第32条)と、交通管理者(警察)に対する「道路使用許可申請」(道路交通法第77条)が必要とされています。
(道路占用と道路使用は対象となる行為がそれぞれ異なるのですが、ここでは省略します)
これに沿えば、店舗が外看板を出すことや、飲食店が客席を屋外に出すことも、敷地外で行うのであれば、厳密には道路占用と道路使用 の手続きが必要ということになります。
バス停近くに置かれたイスも、手続きがない限りは「違法ベンチ」となるはずです。
そして、こうした占用・使用申請への許可は、決して柔軟とは言えませんでした。
柔軟性を妨げる代表的な理由として、「無余地性の基準」というハードルがあります。
占用したいと考える物件について、道路に置くことがやむを得ないのか。
例えば飲食店の客席。客席であれば、店舗内部に置くことができるのに、さらに道路に置きたいのは、それが本当に必要なのか。やむを得ないのか。
道路の敷地外(=民地)に余地がないのか。置けないのか。
運用の実態として、道路管理者側が柔軟に占用許可に対応するケースがあったとしても、こうした「無余地性の基準」という前提がある限り、決して使いやすいものとは言えませんでした。
しかし、「歩行者利便増進道路(ほこみち)」に指定された道路では、その前提を変えることが可能なのです。
より正確に言えば、「歩行者利便増進道路(ほこみち)」に指定された道路のうち「利便増進誘導区域」に指定された範囲では占用特例が適用され、 「無余地性の基準」にとらわれず、賑わい創出に資する道路占用が可能となります。
これは、民間による道路へのオープンカフェやサイクルポート、デジタルサイネージ等の設置について、よりハードルが下がることを意味します。
官民の適切な連携ができれば、大きな投資やリスク負担が伴うハード整備を前提にせずとも、楽しいまちなかを作り出すことができるのです。
③占用事業者を公募すると、20年間の道路占用が可能になる
これは②と関連します。
占用基準が緩和され、道路上に物件を置くハードルが下がるのですが、占用できる期間(占用期間)は、通常の道路占用であれば5年間が上限とされていました。
イベントなどの単発的な取組に対する道路占用であれば、この期間が問題になることはないのでしょう。
しかし、持続的・日常的な利活用ということを考えた場合に、定期的な催事以外に、事業者による常設店舗の設置という選択肢も想定されます。
ちなみに常設店舗の例として、東京・新宿区にあるモア4番街が紹介されることが多いです。
ほこみち以前からある、別の制度に基づく道路占用特例を活用しています。
事業者にとって、占用できる期間が長いか短いかは死活問題です。
当然に初期投資が必要となりますので、その投資を回収できる期間が必要となり、5年というのはきわめて短いのです。
いろいろな変数が絡むので一概には言えませんが、ごく簡単な構造かつ小規模なカフェでも、新設の場合は10年くらいの投資回収期間を見込むようです。
国土交通省のとある検討委員会の資料で、タリーズコーヒー隅田公園店に関する説明があり、参考になるかと思います。
したがって、占用期間の短さは、事業者参入の障壁となり、ひいては道路活用を拡大したい行政にとってもハードルとなるのです。
今回、「歩行者利便増進道路(ほこみち)」のうち「利便増進誘導区域(特例区域)」に指定された範囲で、占用する事業者を公募することができるようになりました。
そしてここからが重要で、公募の手続きにより選定された事業者は、なんと20年間の占用が可能となります。
20年間の占用期間が担保されていれば、民間事業者にとっても一定規模の投資が許容されるでしょう。
民間の投資規模が増加することは、より魅力的なコンテンツが導入され、道路空間が活性化されるという行政意図にも沿うものです。
もちろん、占用期間の長さを保証するだけで解決するわけではなく、民間事業者の参入判断においては、その場所のポテンシャル、市場性も重要になります。
魅力も何もない空間では集客や収益が見込めず、投資回収も難しいと判断されてしまうでしょう。
また、ハード整備における官民負担割合、例えばインフラ部分、スケルトン部分は行政出費とするなど、事業者側の負担を軽減するような手法も重要となります。
今回のサウンディング調査は、そのための対話という位置付けと思われます。
さて、ほこみちに関する説明でかなり長い内容になってしまいました。
次回の記事を最後とし、蒲郡市におけるほこみちの活用に関して思うことについて書いてみたいと思います。
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