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市民参加で街の魅力を数値化!? オープンデータとスマホで広がる新時代のまち評価

「歩きやすさってどんな要因で決まるの?」「緑があるからって必ずしも快適とは限らないよね」。そんな疑問を抱いたことはありませんか? 今回紹介するのは、オランダ・ユトレヒト大学の研究チームが開発した、市民みんなで街を評価するためのオープンソース・ツールキットです。

この研究では、誰でもスマホひとつでストリートビュー画像を五段階評価でき、そのデータを分析して街の印象をマップ化できるのだとか。私も「住民目線の感覚をこうやって共有化できるんだ!」と目からウロコでした。では、具体的にどんな方法でデータを集め、どんな成果が見えてきたのか、順を追ってご紹介します。



オープンソースで始まる新時代のストリートビュー研究

Mapillaryを選んだ理由

まず、この研究が注目される背景には、「Googleストリートビューなど商用サービスのライセンス制限」があります。研究で大量の画像を取得しようとすると、著作権や利用規約に縛られ、自由度が低いのが実情です。
そこで研究者たちが目をつけたのが、ボランティア撮影の街路写真を蓄積するオープンプラットフォーム「Mapillary」。画像のダウンロードや再利用が比較的容易で、商用サービスほど高画質ではないケースもありますが、しっかり品質をチェックすれば研究のデータソースとして十分に使えるわけです。

主観を定量化する意義

「街の魅力」や「安全性」は、人によって感じ方が異なるものです。これまでの都市計画では、車道の幅や緑地面積など“客観的な数値”が優先されがちでした。しかし、実際に歩いている人が「危ない」「嫌だ」と思うような街なら、それが事実上の住みづらさにつながります。
そこで、リアルにそこを体験する人々の“主観”を大規模に数値化すれば、街づくりのアイデアをより的確に提案できるはず。そんな狙いから、この研究では「感じ方を手軽に集計し、地図に反映する」取り組みを行っています。


大量の画像をどう集め、どう扱う?

画像の自動ダウンロードとふるい分け

論文ではまず、MapillaryのAPI(公式が提供している開発者向けサービス)を使って、対象地域のストリートビュー画像を一括ダウンロードする方法が示されています。数十万~数百万枚という膨大な数の写真を取得し、自動的に以下のステップを踏むそうです。

  1. 画質チェック: ぼやけや暗すぎなどの要因で、使いものにならない画像をはじく

  2. パノラマ画像の分割: 360度カメラで撮られたものは、複数の方向へ切り出して扱いやすくする

  3. 道路が映る画角を中心にトリミング: 公道がしっかり写り、人が移動する空間を把握しやすいよう調整

こうすることで、街の「道路中心」の視点から見える風景を揃えておき、参加者が評価しやすいようにするのです。私からすると、画像の向きや品質をそろえるだけでもすごく手間がかかりそうに思いますが、そこをスクリプトで自動化しているのがポイントですね。

スマホで楽々!評価アプリの仕組み

データを準備したあとは、市民が実際に評価を行うためのウェブアプリを導入します。スマホやPCの画面に1枚ずつ街の写真が出てきて、「歩きやすさ」「緑の豊かさ」「安全性」など、事前に設定した項目ごとに五段階評価で回答するだけ。

1枚あたり数秒で済むので、ちょっとしたスキマ時間に「サクサク」とこなせるデザインです。さらに、ある程度楽しみながら続けられるよう、ゲーム的な要素(アイコンをスワイプする等)も取り入れているそうです。これにより、研究者が直接インタビューに赴くよりも、圧倒的に多くのデータを効率よく収集できます。


実際にわかった市民目線のまち評価

アムステルダムでの大規模実証

研究チームはこの仕組みをオランダ・アムステルダム周辺で運用し、約300人超のボランティアに協力を呼びかけました。その結果、2万件以上もの評価データが集まり、市内のどのエリアが「歩きにくい」「緑が少ない」「安全とは言えない」といった感覚が地図上で可視化されています。
たとえば街の中心部にある公園は「緑の評価が高い」、郊外の工業地帯や高速道路沿いは「歩行環境が悪い」と捉えられている――といった具合で、一般的な統計上のデータともおおむね合致しました。でも、それを市民の主観ベースで裏付けられるのは新しい視点だといえます。

「ここが意外と高評価!」という発見も

面白いのは、思わぬ場所が「意外といい雰囲気」「想像より安全そう」と評価されたり、逆に「見た目は美しくても実は落ち着かない」と感じられたりするケースが見つかったことです。研究者たちも、こうした住民目線のリアルな感覚こそが、街をどう改善するか考える手がかりになると述べています。

私自身、「地図で見ると公園だけど、道路脇で騒音が気になるかも」など、実際に写真を見ないと分からないポイントは多いのではと思いました。まさにデータを見て初めて分かる“感覚面”があるんですね。


活用の可能性と今後の課題

市民参加がもたらす新しいまちづくり

この手法なら、特別な機器を用意せず、誰でも手軽に街のイメージを数値化して共有できます。これを自治体やNPOが取り入れれば、「市民の生の声」を地図に反映した政策検討ができるはず。具体的には、歩道の改修優先度や夜間の照明設置、安全対策の見直しなど、住民の感じ方を重視したまちづくりへ発展しやすいですね。
研究チームも「研究者だけのツールではなく、市民科学(Citizen Science)として広く使ってほしい」と強調しています。もはや専門家だけで地図を作る時代は終わりつつあるのかも……と思うと、ちょっとワクワクしてきます。

デジタル格差への配慮も大切

一方で課題として挙げられるのが、デジタル環境を持たない人の声をどう取り込むかです。スマホやインターネットがない高齢者や福祉の対象者など、重要な当事者の意見が抜け落ちる懸念があります。研究者たちも、紙ベースの調査や対面ワークショップとの併用などの工夫が必要だと指摘しています。
また、そもそもアプリの存在を知らなければ参加できないので、地域のイベントやSNSなどで広報し、幅広い住民がアクセスできる環境づくりが求められます。


まとめと展望

誰でも使えるオープンソース・ツールへ

この研究の大きな成果は、「Mapillaryを活用し、市民の主観的評価を収集・分析するための一連の仕組み」をオープンソースで公開したこと。自由にカスタマイズ可能なので、地元のまちづくり団体や大学、行政も手軽に導入しやすいといいます。
実際に研究者たちは、「他の国や地域でも同じように運用できるはず」と言及。たとえば日本の地方都市や、Googleストリートビューの整備が限定的な地域などでも、このシステムは役に立つかもしれません。

今後の課題と期待

もちろん、まだまだ検討すべき点は残っています。たとえば「五段階評価がざっくりすぎる」という意見や、「夜間の雰囲気は昼間と全然違うんじゃないか」という疑問も出るでしょう。それでも、この研究が示したように、市民の直感や感覚を効率的に集め、地図に落とし込む仕組みは確実に需要があります。
今後、このツールが多くの地域で使われ、ビッグデータと組み合わせた深い分析へと発展する可能性も。街に暮らす人の“本音”を取りこぼさず反映できる日が来ると思うと、都市計画はさらにおもしろく、そして身近なものになるのではないでしょうか。


参考情報・ライセンス表記

  • 論文タイトル:
    A citizen science toolkit to collect human perceptions of urban environments using open street view images

  • 著者名:
    Matthew Danish, S.M. Labib, Britta Ricker, Marco Helbich

  • URL:
    https://doi.org/10.1016/j.compenvurbsys.2024.102207

  • 掲載:
    Computers, Environment and Urban Systems, Volume 116, March 2025, 102207

この論文は CC BY 4.0 ライセンスで公開されています。

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