3つのアンソロジーの男女比
侃侃房『短歌タイムカプセル』の収録歌人名が出ました。
穂村さんと山田さんの対談?で河出書房の『池澤夏樹=個人編集 日本文学全集 第29巻 近現代詩歌』と左右社『桜前線開架前線』の収録歌人の男女比がぜんぜんちがうという会話をどこかで読んで(最近だと思うけどまったく思い出せない※)なんとなくひっかかっていたので分析というほどでもない算数をやってみました。
※発見しました。末尾に付記しました。
(3つのアンソロジーとは)
『短歌タイムカプセル』、『池澤夏樹=個人編集 日本文学全集 第29巻 近現代詩歌』、『桜前線開架前線』です。
本の情報は後述します。
(前提)
それぞれのアンソロジーで方向性がちがうので比較することにそんなに意味はないというのは大前提です。あくまでもざっくりのもので、生年話題に関して検索表示2ページ目くらいまででわからない方は除外しています。
以下、「河出」「桜前線」「タイムカプセル」と略します。
タイムカプセルは収録115名のうち60名が女性。女性は半数超えています。
河出は収録50名中女性6名。桜前線は40名中女性21名。全体でみるとタイムカプセルと桜前線はそんなに差がないように見えます。
(重なっている期間内の比較)
タイムカプセルと河出の収録範囲で生年が重なっている期間は1907-1944年。河出29名中女性6名、タイムカプセル19名中女性4名が収録されている。両方とも女性は2割程度。全体だと半数以上が女性のタイムカプセルですら戦前生れだと女性比率はこの程度となってしまう。
一方、桜前線とタイムカプセルだと収録範囲で生年が重なっているのは1970-1990年。この期間のタイムカプセル収録38名中20名が女性。桜前線収録40名中21名が女性。ここもそんなに男女比に差がない。
河出と桜前線の間の、タイムカプセルにしか入ってない1946-1969年の52名だと34名女性。約65%と他の期間に比して圧倒的のような気がしますね。
(1つのアンソロジーにしか入っていない歌人の比較)
1つのアンソロジーにしか入っていない歌人だけを見てみます(比較の期間は↑と同じ)。
【河出・タイムカプセル期間】
河出のみだと12名中女性2名。
タイムカプセルのみだと2名中女性ゼロ。
【桜前線・タイムカプセル期間】
桜前線のみの16名中女性10名。
タイムカプセルのみだと18名中女性9名。
【河出・タイムカプセル期間】についてはサンプル数が少ないので何とも言えません。重なっている収録歌人が多く、ふたつのアンソロジーはこの期間に関してはかなり近い選択をしているように見えます。
【桜前線・タイムカプセル期間】は、女性比率がけっこうちがいます。分母が小さいので、1人でかなり動く数字ではありますが、独自の部分でこういう結果が出るところにはやはり目がいってしまいます。
全体として、タイムカプセルの女性率は
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河出期2割 → 桜前線期5割
<<
となっており、「徐々に女性が出てきたのかな?」と思ってしまうけど、
>>
河出期2割 → その間6.5割 → 桜前線期5割
<<
というのがここまでハッキリ可視化されると、時代のことなど思いを馳せてしまいます。
当然、女性の評価が残りづらい問題というのも脳裏によぎる訳です。しかし、この3冊のアンソロジーは比較的そういう方面に配慮あると思われる編者かと思います。それぞれ別の視点で編んでいるし、その時々の御事情もあるのだから数字だけで比較するのもよろしくないかと思いますが、この3冊でこういう傾向が出た(厳密には出たように見えただけかもしれませんが)というのはなぜか、とつい考えてしまいます。これだけでは結論は出せませんが。
(とりあげた本の情報)
侃侃房『短歌タイムカプセル』(編 佐藤弓生・東直子・千葉聡)
http://www.kankanbou.com/kankan/?itemid=854
河出書房『池澤夏樹=個人編集 日本文学全集 第29巻 近現代詩歌』(短歌部分の選は穂村弘)
http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309728995/
左右社『桜前線開架前線』(編 山田航)
http://sayusha.com/catalog/books/longseller/p9784865281330c0095
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以下、約1日後の追記
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(「セレクション歌人」シリーズをまぜてみる)
「その間」の比較できそうなアンソロジーってなかったっけ?と考えて邑書林「セレクション歌人」が割とあてはまるような気がしました。こちらは著者生年1950-1975年。1945-1969年だと理想的だったんですが、とりあえずこれを比べてみます。
著者生年1950-1975年は、タイムカプセルだと55名。女性は35名。63%なのだ↑の「その間」と大きくは変わりません。
セレクション歌人だと34名中女性12名。35%。
セレクション歌人とタイムカプセル両方ともに収録されているのが12名。
タイムカプセルのみ収録の43名中女性27名。63%。
セレクション歌人のみ収録の22名中女性4名。18%。
アンソロジーと歌集シリーズだとだいぶ話がちがうんで、あまり比較に適さなかったか?というのが正直な感想です。
(『現代の歌人140』をまぜてみる)
うーん……ということで新書館『現代の歌人140』(以下140)を見てみます。こちらは数が多くて、検索めんどうだなというのがあり、主に生年1945-1969年の部分をみます。
とりあえず全体だと140は140名中女性64名。女性46%。タイムカプセル全体は↑に書いたとおり半分ちょいです。
140の生年1908-1944年の部分の71名のうち女性28名。4割です。
これ、タイムカプセルと河出の重なっている期間とほぼ同じで、両方とも2割なんで、4割という数字はとても多く見えます。
で、生年1945-1969年の部分だとどうでしょうか。
140だと63名中女性35名。55%。
タイムカプセルが52名中女性34名。約65%。
140のみ収録されている歌人だと32名中女性15名。46%。
タイムカプセルのみ収録だと21名中女性14名。約65%。
ここまで比較すると140は、おそらく戦前戦後・性別のバランスをある程度とることを意識して編まれているであろうことが見えてきます。。
河出とタイムカプセルだけ見ると生年戦前だと女性比率が低いのはどうしようもないんじゃないかと思ってしまうけれど、やろうと思えばある程度は女性比率を高めることができるとわかります。アンソロジーのめざす方向と合致するかは別問題ですが。
(とりあげた本の情報)
セレクション歌人シリーズ(プロデュース 谷岡亜紀・藤原龍一郎)
http://youshorinshop.com/
新書館『現代の歌人140』(編 小高賢)
https://www.shinshokan.co.jp/book/978-4-403-25101-6/
(文章の内容をまとめた表)
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以下、約6日後の追記
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冒頭のやつみつけました。
「短歌研究」2017年12月号つまり「2018 短歌年鑑」でした。
会話ではなく穂村さん単体の発言でした。以下引用します。
「2018 短歌年鑑」(「短歌研究」2017年12月号)p.34
>>
戦前生まれで切ったんですけど、自分が選んだ五十人のなかに、女性が十人しかいなかった。つまり二割。だけど、山田航君が選者の『桜前線開架宣言』では、一九七〇年以降の生まれの歌人というくくりなのですが、四十人載ってるうち女性が二十一人なんです。
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