designingが考える「コンテンツの資産化」という可能性
先日、サイトリリースと合わせて、こんなnoteを出しました。
この中で、designingのメディア事業の注力点・提供価値に、コンテンツの「資産化」という表現をしています。
リリースに合わせて語るには少々伝えたいことが多すぎるので、詳細は端的にしたのですが、この「資産化」に関してポジティブな意見をいくつかいただいていたので、裏話的なその背景と、実際に見えてきている事例(すでに出しているもの以外を含めて)をまとめてみようと思います。
「質」を評価できないジレンマ
「資産化」という言葉は、メディアの潮流に変化によって見えてきたものです。
インターネットに住まわれている皆さんはご存じの通り、7〜8年前くらいまでは、Webメディアは「露出量」、正確に言えば広告換算できるような「瞬間風速」を高めることが主戦場のひとつでした。
僕自身、キャリアをニュース中心の媒体からスタートしたことや、比較的広く読まれることを目指したビジネス媒体の編集に関わったこともあり、PV/UUをいかに積み上げるかを優先度高く考え続けた時期もありました。
これに対抗するように、数値を“あえて”重視しない媒体が出てきたのがここ4〜5年ほどかと思います。コンプラ、制作体制、各所のアルゴリズム変更、アドネットワーク依存の広告モデルの限界等等に起因し、「暗にPVを追うのは違う」と声高に語る方も増えました。
僕の関わる仕事も、「思想や考えを齟齬なく伝えられること」や「媒体や関わる企業、個人の全員に利がある」「読者にとって価値ある」など、平たく言えば“品質”を重視するものが増えました。その結果、「届くべき人」「届けられる人」の数が絞られても、です。
扱うテーマ領域を極端に絞った媒体や、特定のキーワードにおいて第一想起を狙うメディア、自社の思想や活動の蓄積を残すためのオウンドメディア、中長期でのブランド価値向上に向けた発信……など。
いずれも目的から考えると「瞬間風速」や「露出量」だけで評価するのは得策ではない。とはいえ、そこにある”品質”という価値を評価するのに適切な軸を見つけられていないものも少なくありませんでした。
評価できないと何が起こるか——そう、閉鎖や運営中止です。
「いい媒体なんだけどね」「意味は間違いなくあるんだけど」「社内での評価は高いんだけど」……そんな枕詞とともに休止した媒体を幾つも目にしました。
もちろん、景気の良い時期や、経営者をはじめ意志決定者が直接手綱を握っているなど、継続しやすいものもあります。ですが、本質的に「評価できない」というのは脆弱すぎる。
こうした、“品質”を評価するために、designingが挑もうとしているのが冒頭言及した「資産化」という切り口です。
資産価値を発揮する軸は多様であるはず
ただ、語弊のないようにいうと「資産化」は「露出量」を無視するものではありません。正確に言うならば、”瞬間風速的な”露出量を重視しない。初速ではなく継続的に読まれ続けていることこそ、価値が高い状態と捉えます。
瞬間風速はテクニカルな側面や、「出してみないと分からない」という博打的側面も少なからずあります(もちろん、この分野で熟達されている方は、この不確実性を下げる高いスキルを持たれています)。ですが、継続的に読まれ続けるには本質的な価値が問われてくる。これは品質とほぼイコールだと僕は考えています。
一応、SEOにような“中長期で数値を積む技術”もあるものの、designingの扱うようなインタビュー記事は、基本的にそれと相性が良くありません。かつ、SEOといっても現在のアルゴリズムで上位に表示されるものは「ちゃんと検索者の課題を解決しているもの」ともいわれており、品質に限りなく近づいてきているとも捉えられます。
読まれ続ける記事は、以下のような要因があることが多いと感じています。
取材対象者本人、およびその周辺の人が、コンテンツを活用している(例:採用・広報等の文脈で参照情報として定期的にシェアしている)
第三者が取材対象に関する情報を探すとき、参照されるものになっている(メディアのリサーチ、求職者が転職先候補の情報を探すときによく参照されている)
こうした記事をdesigningは「資産的価値がある」と捉えています。
先日のnoteでもひとつ事例を挙げましたが、今回はそれ以外で特筆すべき事例をいくつか紹介していきます。
1つ目は、昨年3月に公開したMIMIGURI Co-CEOの取材記事。
合併発表のタイミングに合わせて出した記事で、基本的には時事性が高いトピックが主軸のもの。にも関わらず、初動1カ月よりも以後の方が読まれている記事です。まだ1年ちょっとでこの数値なので、上の事例以上に今後読まれていくと推測できます。
これは同社コーポレートサイト内でリンクが張られていること、合併のプロセスに関する発信をそれ以後も続けていることなど、参照情報として有用だったことが推察されます。(あくまで仮説ですが)言い換えるなら、他己紹介的にちょうど良いのではないかなと。
2つ目は、昨年5月公開のエムスリー古結さんの取材記事。
こちらはCDO就任という一つのタイミングに宣言としてまとめたものです。公開からちょうど1年ほどですが、こちらが興味深いのは、安定的に・・・ではなく、読まれる山があった点です。
これは、おそらく古結さんの他取材記事や登壇が重なったからではないかと推察されます。ちょうど昨年秋前後で、他媒体の取材記事が複数本出たり、界隈では大きめのイベントの登壇やスポンサードをされていたので、それをきっかけに、関心を持った方が訪れる先になった。広報素材として、それなりに役立ったことが伺えます。
3つ目は、昨年11月公開のメルペイ成澤さんの取材記事。
「マネジャーとしての姿勢」を伺ったもので、成澤さんの考え+そのバックグラウンドにあるキャリアを掘らせていただいた記事です。
この記事はまだ公開から半年ちょっとながら、すでに「初動1カ月」を「それ以後」が越えそうな状況にあります。主要因は1月に発表された成澤さんのCPO就任です。
もちろんそのことは知らずにこの企画を組んだのですが、「新しくCPOに就任した人ってどんな人?」という問いを持ったとき、マッチする記事に(意図せず)なったのではないかと思います。
4つ目は、2020年11月公開のSTUDIO DETAILS海部さんの取材記事。
少し前の記事ですが、これは他とは異なる成功例でした。数値面では初動1カ月をそれ以後が上回っているという点では上の事例と同様。定量的にも、シンプルに資産価値がありそうな印象を持てます。
ただ、この記事の最大のパフォーマンスは、GoodpatchによるM&Aのタイミングで大きく読まれたこと。海部さんの記事は少なくない数出ていますが、その中でも特に参照いただけたのではと感じています。これはGoodpatchの皆さんがシェアしてくれたこと、合わせて公開された自社ブログ内でも言及いただいたことが影響しています。
また、個人的に嬉しかったのは、記事内でも触れられているように、Goodpatch土屋さんがSTUDIO DETAILSに興味を持たれたきっかけのひとつが、この記事だったこと。あくまで、“ひとつ”には過ぎないですが、デザイン業界では比較的大きなディールに、少しでも価値提供できたことは媒体としては意味のあったのではないかと感じます。
コンテンツに「広告的」以外の評価軸を
いずれも仮説ベースではありますが、シンプルな「中長期で読まれ続ける」という定量的評価、そして「広報上活用される」「意志決定の参考になる」といった定性的評価の両軸から、コンテンツの資産価値は証明できるようになるのではと感じています。
これは、designingや僕自身としての挑戦でもありますが、「広告換算以外の軸でメディアやコンテンツを評価できないか」というメディアに携わる人間としての問い立てでもあります。
少なくないメディア人が「PV至上主義ではない」と掲げつつも、今もその媒体資料では「読者数」や「PV/UU」といった定量数値/広告換算できる軸で自分達を紹介していたりする。たとえどんなに本質的価値や資産価値を作れる媒体でも、メディアとしての自己紹介は、いまだ広告的価値が主流になっていると感じます。
もちろん、その軸がダメというわけではなく、純粋に広告的価値を積み上げられること自体はとても凄いと思っています。また、スポンサードコンテンツ(≒記事広告)を出稿側のロジックに合わせて説明するのは合理的でもある。ですが、全てのコンテンツを「広告的価値という一軸だけで評価する」のは、少なくとも違う。
designingは、その軸で自分達を捉えることをやめようと考え、こんな発信を続けています。もちろん、そう簡単に「資産価値を作るために出稿したいです」という企業やクライアントが集まってくれる……こともないかもしれません。(本当はそうだと嬉しいんですけどね……)
でも、少なからず反応をしてくれた方がいたように、おそらくこの考え方に共感してくれる人も一定はいるはず。そう信じて、一旦は事業の軸足を据えてみようと思っています。
もし少しでも「資産としてのコンテンツ」に興味を持っていただけたらなら、お話ししたり、壁打ちする機会をいただけると嬉しいです。もちろんお力になれる機会があれば最高ですが、たとえなれずともコンテンツ・デザイン業界に関する視界を共有し合えれば。
是非、以下のAsanaフォーム、または僕のTwitterDMからでも、お気軽にご連絡・ご相談ください🙏
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