Ms.Machine『Ms.Machine』 2020年を切り裂いて先に進むアルバム
KKV Neighborhood #68 Disc Review - 2021.02.16
Ms.Machine『Ms.Machine』
Review by 長谷川文彦
Ms.Machineのファースト・アルバムがリリースされた。昨年リリースの告知が一瞬出たけど、たぶんコロナの影響で延期となっていたのだ。無事リリースされて本当に嬉しい。この一年で失ったものはいろいろあったけど、これだけはちゃんとリリースされて欲しかった。よかった。
リリースは延びたけど、その分特殊だったこの一年を凝縮したようなアルバムになったと思う。コロナ禍の中でもバンドは動きを止めることなく、曲をリリースし、配信のライブを行い、ボーカリストのSAIはソロ作品を発表し、秋にはライブも再開した。その今の時点での集大成がこのアルバムだと思う。
Ms.Machineの音を言い表す時「ポストパンク」という言葉がよく使われる。しっくりくる言葉ではあるけど、なんとなく曖昧で、そもそもポストパンクって一体なんだっけという気がしなくもない。
簡単に言うと「パンクというものになにがしかの影響を受け、それを消化して作られた新しい音」というのが「ポストパンク」だと思う。自分が意識して音楽を聴き始めたのは80年代前半なので正にパンクの直後だったけど、当時はポストパンクという言葉はなく「ニューウェイヴ」という言葉が使われていた。ニューウェイヴというのも相当いい加減な言葉で、ネオサイケ、ゴシック、ダブ、インダストリアルやノイズ、スカやレゲエ、エレクトロポップ、ネオアコースティック、そして簡単な言葉では言い表せない特殊な音まで、相当に幅が広かった。
ひとつ共通していたのは、それ以前の旧式のロックンロールとは無縁の格好良さがあったことだ。ロックンロール特有の暑苦しい美学から自由であり、それとは違う新しい価値観を作ったことがニューウェイヴの功績だと思う。
その価値観を自分たちのものとして消化して受け継いだ音とアティテュードを持ったバンドが今の日本にはたくさんいる。そういうバンドたちをまとめて「ポストパンク」と呼ぶのは無理があるかも知れないけど、相通じる新しい価値観と空気感をはっきりと感じる。そして、それが2020年代における「ニューウェイヴ=新しい波」だと思うのだ。
SOLVENT COBALT、A VIRGIN、ヌケ、BLONDnewHALF、TAWINGS、KAOGANAI(顔がない)、moreru、Klan Aileen、KURUUCREW、NEHANN、酢酸カーミンなど、ベテランから若いバンドまで幅広く、音も様々なバンドたちだけど「パンク以降の格好良さ」を持っているというところは共通していると思う。このシーンは本当におもしろいと思う。その一番手がMs.Machineだ。
アルバムの一曲目は"2020"というタイトル。2020年というこれから先も語り継がれるであろう鬱屈とした一年と、そこから生まれた様々な感情や心の澱のようなものを切り裂いてズタズタにしていくような尖った音。音の持つ異常なくらいの熱量がギリギリと伝わってくる。この曲だけでも凄過ぎる。
以降どの曲も黒光りするような漆黒の空気の冷たい感触があり、でもそれとは相反するようなエネルギーも感じるゴスとは安易に呼べないMs.Machineでしかあり得ない独特な音。この一年ぐらいで発表されてきた曲と新曲で構成されているけど、圧倒的なバンドの世界観を見事に表現したアルバムになっている。期待の遙かに上をいってくれた素晴らしい作品だ。
去年の3月以降、まったくライブに行けなくなった。毎週のようにライブに行く人間としては、この状況では仕方がないと思う反面、やっぱり鬱々とした気持ちでいたのは否めない。
各種の感染予防の徹底を前提とし、入場者数を限定しながらではあるけど秋ぐらいからライブハウスは営業を再開し始めた。そんな中で最初に行ったのが下北沢のLIVE HAUS。4月オープンということもあり、コロナ禍におけるライブハウスの象徴のようになってしまった場所だ。その時、最初に観たのがMs.Machineだった。初めて来たハコなのにやっと帰って来たような感じ、久々に浴びた轟音、それを鳴らすMs.Machine。2020年にようやく感じることができた「希望」を象徴するような瞬間だった。
その希望がこのアルバムには確実に息づいている。2020年を越えて先に進んでいくことが出来るような気にさせてくれるアルバムだ。
CDの購入はこちら:https://msmachine.thebase.in
Bandcamp:https://ms-machine.bandcamp.com/album/ms-machine
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