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twikipedia 『for the rest of your life』 Parannoulからの影響。ブラジリアン・ハイパーポップ・アーティストによる宅録 INDIE EMO by Kent Mizushima (to'morrow records)

KKV Neighborhood #221 Disc Review - 2024.7.9
twikipedia 『for the rest of your life』 by Kent Mizushima (to'morrow records)


twikipedia / for the rest of your life

〈Soundcloud〉から誕生したエモラップやハイパーポップのシーンはパンデミックで家に拘束される時間が増え、DTM人口の増加により一番盛り上がったシーンの一つと言って間違いないだろう。100 gecsとはまた別のアプローチでハイパーポップというジャンルの定義を広げ、TikTokでのバズなども含めて数多くのアーティストがストリーミングを中心に再生数を稼ぎ、名前を広げていった。そういったアーティストが現在成熟していく中で、多くのアーティストがロックやエモといったジャンルにより強くアプローチをはじめ、新しい世代によるバンドを組まないロックの鳴らし方が定着し、様々な作品がここ1〜2年生み出されている。

 今回紹介するブラジルはサンパウロ出身のアーティスト、twikipediaもまた〈Soundcloud〉出身のハイパーポップ・アーティストのひとりで、最新作としてリリースされた4枚目のアルバム『for the rest of your life』は特に僕と同世代のエモやインディーロックが好きな人にはたまらない作品になっているのではないだろうか。

 本作は韓国のシューゲイズ・アーティストとして世界中で話題になったParannoulの『To See The Next Part Of The Dream』から影響を受けて制作された作品で、ド真ん中のシューゲイズではないが確かにスタイルの部分での共通点も多い。でも個人的にはそれ以上に日本のインディーやエモシーンからアメリカのベッドルーム系統のシーン、さらにはポップパンクまでの影響を感じさせる今まで聞いたことはないのに、どこか懐かしい面白い作品だと感じた。

 本当に一部の人にしか伝わらないかもしれないが、アルバムの冒頭を飾る「room for one」を聞いたときに真っ先に思い出したのは10年前の下北沢ERAのシーンだ。PENs+、said、not simple wonders、told、deidなどアメリカのインディーロックやエモ、パンクから影響を受けたバンドが日本らしい独特のメロディーと言葉のリズムで歌っていることが今考えても確かに面白かったのだけど、彼がブラジル人だからなのか、メロディーセンスがアメリカのその手のバンドとは違って本当に面白く、一瞬でアルバムに引き込まれてしまう。

 2曲目に収録されている「Garden」とかも全体の構成やメロディーラインはとにかく懐かしさを感じるのだけど、エモのようなジャンルではこれまでなかったチープな質感が新鮮味を加えているし、「Figure Me Out」ではドライブするコテコテのエレキ・ギターを軸としたサウンドの中にスーパーファミコンとかのゲーム・ミュージックを彷彿させるような音が散りばめられている。最近のインターネットから生まれたナードなソロ・アーティストに共通している点として、全然クールではなくむしろ単品だとダサい音を楽曲の中に馴染ませるのが本当に上手だということだ。全然スタイリッシュではないし、人を感傷的にさせる効果があるとは思えないような音を散りばめ、それが飛び道具としてよく機能している。

「far apart」のような楽曲を聞いても美しい音色だけが鳴っているエモも素敵だが、宅録で少し荒々しさもあるサウンドが妙に感情的に伝わってくるところや、歌声やギター・サウンドがよりリアルな生活や苦悩を表現している点を考えるとベッドルーム✕エモはかなり相性がよいというのが改めてわかるだろう。

 7曲目に収録されている「windchimes」は今作の中で最もシューゲイズ宅録からの影響をダイレクトに感じ取れる楽曲で、それこそParannoulやAsian Glowのような韓国のアーティストから日本でいうとkinoue64のようなアーティストにまで影響を受けたことが瞬時に聞き取れる。

 アルバムの後半にも「paper planes」のようなキラーチューンが収録されており飽きさせない。基本的にメロディーとギターのサウンドで勝負する作品だけど、この曲でも途中でヴォーカルにエフェクトをかけて機械音っぽい声質を作り出すなど、遊び心を忘れないのがやっぱりハイパーポップ上がりのアーティットっぽい。

 昨年来日したHigh Sunnがリリースした最新EP『before story ~ yume no kimi ~』を聞いても同じことを感じたが、今欧米のアーティストに日本や韓国などアジアのアーティストが影響を与え、そこで生まれた新しい欧米の音楽が今までなかったスタイルで新しく誕生しているのではないだろうか。僕はHigh Sunnのツアーを組んでいたからわかるが、彼らは明らかなオタクで、僕たち以上にジャンルとかで何も判断しない。それが面白い作用を生み出している。ブラジルからはPairaというドラムンベースにエモやオルタナの影響をミックスさせた凄まじいデュオも登場しているし、パンデミックが終わり、さらに世界中の音楽が平等に面白くなってきた感じがある。あとはリスナーや業界側の受け取り方次第でさらに面白いことになっていきそうだ。

twikipedia『for the rest of your life』
Release Date:2024.5.10
Label:Independent

Tracklist:
1. room for one
2. garden
3. cardboard boxes
4. learn yourself
5. figure me out
6. far apart
7. windchimes
8. boy
9. paper planes
10. dry your eyes
11. seams
12. anyone but you
13. final feliz

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