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この状況だからこそのハードコアでフィジカルなアルバム Boris『NO』
KKV Neighborhood #36 Disc Review - 2020.08.19
Boris『NO』(Self-released)
review by 長谷川文彦
7月にリリースされたBorisの新しいアルバム『NO』は今のところBandcampのみでのリリースとなっている。これからCDやアナログ盤が出るかは今のところわからない。そのうち出るような気もするのだけど、待ち切れないのでダウンロードした。本来ならモノで持っていたい派ではあるけど、今回は待たなくてよかった。これは本当によいアルバム。
以前Borisはハードロック路線の音をやる時は「BORIS」と表記し、ノイズやアンビエント寄りのエクスペリメンタルな音をやる時は「boris」と表記していた。「大文字BORIS」「小文字boris」と言っていたけど今はその境がぼやけてきて、表記の方も「Boris」に統一されてきているのだと思っている。二つの表記を持っていたことでもわかるように、元々音の振れ幅は大きいバンドで、ストレートなハードロックからアヴァンギャルドなもの、時々やけにポップなものもやったりする。今回のアルバムは以前の言い方だ「BORIS」の方で、いわばハードロック路線ということになる。
しかし、今回は単純に今までのような「ハードロック路線」と言うわけにはいかない。そんなものを飛び越えてもはや「ハードコア」と呼んだ方がいいような音になっていてびっくりしている。限度を超えて激しくて、そしてたまらなくカッコいい。
実は最初勝手に想像していたのは、もっと実験的な音だった。どちらかと言えば「boris」に近い音なのではないかと思っていた。どうしても密になる環境のスタジオでのレコーディングは今は難しいとも聞く。もしオンラインで音を制作するならやっぱり肉体的な音ではなく、それにふさわしい音になるのではないかと思ったのだ。しかも配信のみという形態は、どこまでもネットだけで音を完結させようとしているのではないかと思えた。
しかし、実際にBorisが提示してきた音はそんな想像とはまったく違う完全にハードコアなアルバムだった。ある意味では今までの彼らの音では一番激しい音だと思う。こんなご時世だからこそいかにもステイホームという音ではなく、敢えてフィジカルを極めた音を提示するという彼らの意思を感じることができる。音楽に求めるものは様々だろうが、自分はどうしても音楽に対してフィジカルなものを求めてしまう。Borisであれば、ライブの時のあまりにも大きな音にさらされ着ている服がビリビリと震えるようなあの感じだ。それを求めるのが難しい今の状況だからこそ、Borisはこのアルバムを出したのだと思う。逆説的にステイホームの時代にぴったりなアルバムだと言える。
Borisの音のキーワードは「轟音」だ。常に凄まじい音圧でこちらの三半規管を圧倒してくれる。ロックというものへのセンスも抜群である。そんなバンドがハードコアに走ったらどうなるか。想像してみてもらいたい。そういう音がこのアルバムには詰まっている。
それにしても、これをリアルなライブで体験したらすさまじいだろうな。いつか状況が変わって我々がライブハウスに戻る時にはそれを体験する楽しみがあるという「希望」までセットにしてくれているアルバムだと思う。早くその日が来るように願って止まない。