NEKO CASE & HER BOYFRIENDS『THE VIRGINIAN』(Mint / Bloodshot 1997) review by 堀口知江
KKV Neighborhood #21 Disc Review - 2020.07.01
私にとってはお守りのようなオルタナカントリーの名作
NEKO CASE & HER BOYFRIENDS『THE VIRGINIAN』(Mint / Bloodshot 1997)
review by 堀口知江
高校生で初めてStray Catsを聞いてからずっと、ロカビリーを追い求めてきた私だけれどある時、もっと複雑な人間の感情や繊細さに目を向けた音楽を欲し、そんな時に出逢ったのがNeko Caseだった。
Neko Caseの音楽は色んなものがミックスされていて自由気ままで空想的。そしてゴシック要素も感じられるところにどこかアメリカの闇の部分を感じ、その空気感が向こうでのカントリー(アパラチアンミュージック/マウンテンミュージックなどから来ている)イメージに繋がることも知った。ルーツミュージックを愛している彼女は確かに、オルタナティブカントリーシーンでの歌姫だった。
オルタナティブカントリーは、1990年頃から、元々パンクをやっていたアーティストがカントリーミュージックにアプローチして生まれた、パンクとカントリーが融合したもので、例えばJeff Tweedy(現Wilco)とJay Farrar(現Son Volt)を中心に結成されたUncle Tupeloは、オルタナカントリーの先駆とされているのは有名な話。Neko Caseも、もともとはパンクのシーンでドラムを叩いていた。MAOWという女性3人のガレージパンクバンドではWanda Jacksonの“Mean Mean Man”を歌っていたりのロックンロールガール!そんなところにも私はシンパシーを感じた。
今回紹介する『The Virginian』は、カントリーが大好きだった祖母のためにレコードを作りたいという素朴な想いから製作されたもので、内容はノスタルジックなカントリーを中心にやっているけど、Nekoや演奏するメンバーがほとんどポストパンク世代だったことで自然にそれはオルタナカントリーのサウンドになっていったのだろう。無条件に涙が出てきそうになるまさにカントリーな曲もあれば、いきなりガツンと殴られるようなMAOWのやんちゃさ健在!なタフな曲もある(おばあちゃんはどう思ったのだろう)、そのアンバランス感が大好きだ。
自作曲以外にカバー曲もある。2曲目の“Bowling Green”はEverly Brothersのカバー、10曲目の“Thanks A Lot”はErnest Tubbのカバー、11曲目の“Somebody Led Me Away”はLoretta Lynnのカバー。そして面白いのが9曲目の“Duchess”はScott Walkerのカバー(後のNekoの作品を見ればなるほど納得)、アルバム最後の12曲目“Misfire”はQueenのカバーで、これはカントリー調にアレンジされてまさにオルタナカントリーの音になっていたりと、懐の広さが垣間見える。
カントリーの魅力について、「私にとってはきっと親密さね」と答えたNeko。彼女にとってカントリーは幼い頃から当たり前のように側にあったとても身近なものだったのだろうし、他のオルタナカントリーのアーティストにとっても、きっとそうだったのだろう。
そして調べていけばいくほど、カントリーは黒人のブルースに触発されながら歌われてきた労働者階級の白人にとってのブルースだとも思う。パンクが怒りだとすれば、カントリーは深い悲しみ、一見相反するものだけど実は二つがとても深いところで脈々と繋がっている感情なのではないか?と考えられるところも、オルタナカントリーの魅力かも知れない。
おばあちゃんの為に作ったと言われているこのアルバムには、決して商業主義ではない、本来の音楽のあるべき姿がたくさん詰まっている気がする。どうしようもなく心の支えが欲しい時に必ず手にする、私にとってはお守りのようなアルバム。