決めつけられた未来をここで変える。そんな物語のサウンドトラック　Little Scream『Speed Queen』

KKV Neighborhood #2 Disc Review - 2020.05.05
Little Scream『Speed Queen』（Merge Records / MRG637）
review by うし（number two）

ジョン・ライドンがかつて何かのインタビューでこう答えたのを忘れられずにいる。

「軟弱な曲は好きじゃない」

気付けば僕は軟弱ではないその何かを追いかけ、探してきたのかもしれない。

そしてこれは2019年末に出会ったその一枚。アメリカに生まれカナダ、モントリオールを拠点に活動するLITTLE SCREAMの3rdアルバム『Speed Queen』。その一曲目を飾る“Dear Leader”のミュージックビデオを目にして溢れ出るメッセージとそのパワーに圧倒された。

指導者へ、と語りかけるように始まるこの曲の中には、四季を失いつつある気候や水位の上がる海面、目に見えないものによって築かれつつある冷たく重い壁、無いものとされてきた権利や存在、すべての備品を買い占めてしまう仕組み、殺し合うように傷つけ合う僕らの日常で、今考えるべきことに寄り添い、手掛かりとなる何かを見出すことができるかもしれない。そして動き出すその思考を彼女はピンクのカーネーションで歓迎する。

人間の性（さが）をぶち壊し、繰り返すことが運命づけられているかのようにみえる歴史と、決めつけられた未来をここで変える。そんな物語のサウンドトラック。

そのまだ見ぬ未来の物語を築くのは地位や名声を持つ者たちなんかではなく、君や僕らが歩み出す小さな一歩の連なりであり、その小さな一歩を先導できるのはいつだって自分自身しかいない、頼れる指導者を求めるのではなく僕らがそれぞれの物語を始めよう。

うし（number two）
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