不安の時代の青春『アウェイデイズ』
KKV Neighborhood #47 Movie Review - 2020.10.15
review by 与田太郎
『アウェイデイズ』10/16(金)より新宿シネマカリテほかにてロードショー!以降、全国順次公開!
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https://awaydays-film.com/
この映画は70年代末から80年代初頭にかけてのリバプールを舞台にした”カジュアルズ”と呼ばれたフーリガンを描いていて、サウンド・トラックには当時の状況を反映したポスト・パンク、ニューウェーブの名曲が使われている。そういう意味ではイギリスのユース・カルチャーを描いた『さらば青春の光』『This Is England』『トレインスポッティング』とおなじ系譜の映画だ。ここに『ノーザンソウル』と『ヒューマン・トラッフィック』を加えたら60年代から90年代の終わりまで、それぞれの時代を彩った音楽のムーブメントをひとつの流れとしてみることができる。これに『24アワー・パーティー・ピープル』と日本未公開だが『Spike Island』を加えてもいい。
どの映画にも共通しているのは最後に主人公は傷つき、何かを失う青春時代の終わりを描いているところだろう。最高の瞬間はいつまでも続かず、かならず終わりがくる。けれど人生は続いていく以上登場人物たちは大人にならざるを得ない。そして映画では描かれることはないけれど、熱狂が去ったあともその渦中にいた人たちは一番熱かった瞬間を忘れることなく暮らしている、それこそ今の僕自身がそうだ。自分が全身で飛び込んだムーブメントはその後の思想や生き方にまで影響をあたえる。そういう熱い瞬間はどの世代にもあって、イギリスでは世代ごとにがバトンを渡すように受け継がれている。たとえば『This Is England 90』(This Is Englandの続編としてテレビ・シリーズで86、88、90が作られている)で家庭をつくったロル(主人公ショーンの兄のような存在)の両親の写真が出てくる、そこにはモッズの格好をしたいまの自分とそっくりな60年代の父親が写っている。時代ごとの音楽は違えど、若者のメンタリティーは同じだということがさりげなく表現されている。『ノーザンソウル』で描かれたウィガン・カジノ(70年代にマンチェスター近郊のウィガンにあったクラブで、その後のアシッド・ハウスやイギリスのパーティーの雛形ともなった)のマインドが90年代以降のクラブ・カルチャーの根底にあるように、音楽シーンも前の世代との共通する部分を多く受け継いる。60年代、ビートルズが巻き起こしたバンド・ブームと90年代のマンチェースター・ムーブメントやその後のブリット・ポップの華やかさがよく似ているのも同じことなのである。
『アウェイデイズ』もまた、ポスト・パンクの時期に現れた音楽が時代を表現する上で重要な役割をはたしている。パンクの後の季節70年代の終わり、まさにサッチャー政権の誕生した年79年が舞台となっている。この時期はサッチャー政権の誕生とともにイギリスの産業構造の大きな変化が顕在化、多くの炭鉱などでは労働争議が全国で展開していた。港湾都市として栄えたリバプールも大きな社会の変化に直面していた。音楽も時代に合わせるように、オプティミステックなパンク・サウンドは影を潜め、より内省的でシャープなものに変化している。そしてもう一つの大きなテーマであるフットボールのスタジアムで乱闘を目的とするフーリガンが徐々に社会問題となっていった時期でもある。そのフーリガンの新しい集団がこの映画にでてくる”カジュアルズ”だ。この映画にも数々の乱闘シーンが出てくるが、誇張なしの演出をしているか、もしくは実際よりもかなり手加減した表現なのではないだろうか。相手チームのサポーターとの乱闘の瞬間のアドレナリンの吹き出る感覚とチームであることの結束感は主人公を虜にしてゆく。暴力が大きな意味を持つ表現も『さらば青春の光』『This Is England』『トレインスポッティング』とも共通している。80年代の驚愕するようなフーリガンの実態は『フーリガン戦記』という本に詳細にわたって描かれている、興味のある方はぜひ読んでほしい。このポスト・パンクとフーリガン、長引く不況という背景は要因こそ違うが人種対立や社会格差の拡大に置き換えると現代に通じるものがある。不安の時代に生きる若者の物語はいつの時代もなくなることはない。
最後に『アウェイデイズ』の後日談をしたいと思う。この後80年代に入りさらに勢いを増したフーリガン問題やフットボール・スタジアムの老朽化は80年代に2つの大きな問題を引き起こす、ひとつがヘイゼルの悲劇でありもうひとつがヒルズボロの悲劇だ。どちらにもリバプールというチームが絡んでいるのは偶然ではないだろう。この2つ事件によりイギリスのフットーボール界は大規模な改革を迫れられる、結果それが92年のプレミア・リーグの創設とスタジアムの改善につながり、90年代を通してイギリスのトップ・リーグは世界中にファンを広げることとなる。いっぽう”カジュアルズ”は80年代中旬にリバプールのザ・ファームというバンドがはじめたフットボールとフッションと音楽、パーティーをテーマにしたファンジン『THE END』を生み出す。この『THE END』にインスパイアされて生まれたのがアンディー・ウエザーオールとテリー・ファーレイが中心となってロンドンでスタートした伝説のファンジン『BOY’S OWN』であり、時代の音楽もアシッド・ハウスからインディー・ダンスがうまれ、セカンド・サマー・オブ・ラブと呼ばれた新しい世代の物語がはじまる。来年にはこの時代をテーマにした映画『Creation Stories』がプロデューサーにダニー・ボイル、脚本はアーヴィン・ウェルシュで公開となる。またとびきり大きな次の時代の物語が作られている、その前史として『アウェイデイズ』をみるのはどうだろう。暗く長い夜もいつかは明ける。
与田太郎
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