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Galaxie 500『Uncollected Noise New York ’88 - ‘90』 バンドが孤独の表現を研ぎ澄ませる過程を捉えた貴重なアンソロジー by 管梓(エイプリルブルー)

KKV Neighborhood #231Disc Review - 2024.10.31
Galaxie 500『Uncollected Noise New York ’88 - ‘90』 by 管梓(エイプリルブルー)

 深いリバーブのもやが立ち込めるなか、剥き出しの無防備すぎる歌声が日常の孤独や悲しみを吐露し、その裏でベースが簡素でありながら気品のあるカウンターメロディを添え、ドラムが平熱と高揚を行き来するダイナミクスを演出する……。Galaxie 500の音楽は万人受けこそしないものの、ファンにとってはその繊細さと実直さゆえに心の近くにあるものだろう。僕自身も英国留学時の厳しい冬に代表作『On Fire』を心の支えにしていた過去があり、なかなかに思い入れの深いバンドである。また、ロック史の観点から見てもスロウコアやドリーム・ポップに多大な影響を与えたパイオニア的存在のひとつとして、その評価は年々高まっていく一方に思える。
 そんな彼らの20年ぶりとなるコンピレーションである本作は、バンド自身が選曲した未発表曲や既発曲の別バージョンを含むアウトテイク/レアリティ集で、本人たちの弁によればベストな楽曲やテイクを集めたものではなく、あくまでも自分たちならではのサウンドを確立していく過程を辿るものだという。そしてその言葉通り、たしかにそれぞれのセクションが各アルバムごとの作風の変化を端的に表現している。
 大まかに『Today』期に当たると言えるであろうM1~ M9はスコットランドのアノラック界隈やニュージーランドのダニーデン・サウンド周辺(Galaxie 500のフロントマンDean Warehamはダニーデン・サウンドの隆盛時には既にアメリカに移住しているものの、ニュージーランド出身なのは偶然ではないはずだ)にも通ずるThe Velvet Undergroundチルドレン的な趣きが色濃く、特に冒頭を飾る初出曲「Shout You Down」は意外なほどがちゃがちゃと疾走するアノラック感の強い一曲。のちのYo La Tengoを予見させるような「Crazy」も印象的だ。総じてGalaxie 500ならではの個性はまだ薄いものの衝動感が好ましい。
 続くM10~M17 が『On Fire』期に当たるだろうが、そのなかでもM14を境に録音時期に半年の開きがある。この隔たりが重要で、比較的アップテンポなM10・ M11に対して明らかにバンド全体の平均的なテンポ感がぐっと下がって音の隙間も増え、我々に馴染み深いGalaxie 500像が見えてくるのだ。バンドは『Today』期の没曲について「自分たちはゆっくり演奏しているときのほうが独創的だと感じた」から不採用になったと語っているが、その発見をより一層深めたのがこの辺りの時期なのではないだろうか。セクションを〆るのは代表曲とも言える名曲「Blue Thunder」のサックス入りバージョン。フリーキーなサックスは個人的には蛇足に思えるものの、なんとも言いがたいシュールな情緒があるのもたしかだ。そしてバンドが自己を確立する過程でこうした実験があったのだろうと想像するのも楽しい。
『This Is Our Music』、すなわち「これこそが僕らの音楽だ」というステートメントを題名に冠したアルバムをもって活動を終えた彼らだが、この時期に当たるセクションがM18~M24だろう。『On Fire』でいちど成熟を見たからこそのさらなる試行錯誤や遊び心が伺えるのが興味深く、特にThe RutlesのカバーであるM18「Cheese and Onions」はThe Rutlesからさらに遡ってThe Beatles「A Day In The Life」の間奏のストリングスをサンプリングしたり、チープなシンセ・ストリングスを入れたり、と遊びまくりである。シンセ・ストリングスはメランコリックな美しさを湛えた未発表曲M21「Moonshot」にも登場する。M22「Them」のスライド・ギターやM23「Final Day」のよれたピアノなどもバンドの音楽的ボキャブラリーの拡大を感じさせる。
 バンドの変遷を辿る本コンピレーションを締めくくるのがバンドの原点であるThe Velvet Undergroundの「Here She Comes Now」のカバーなのはなかなか感動的ではないだろうか。ここまでしっかりとストーリーを描くコンピレーションは珍しく、バンド自身の手による選曲というのがひと役買っているのは間違いない。音楽そのものの脆くもの悲しい情緒と記憶から消しがたい強度の両立も相まって、よくできた映画のサウンドトラックのような満足感のある盤になっている。

Damon and Naomi with Kurihara Japan Tour

11月3日 (Sun)
下北沢 CLUB QUE
open 17:30 start 18:00
Live : Damon & Naomi with Kurihara、Pervenche
前売 7,000円 + 1D 当日 7,800円 +1D
前売チケットLivePocketとe+にて販売中
LivePocket:https://t.livepocket.jp/e/que20241103
e+ : https://eplus.jp/sf/detail/4158480001-P0030001

11月5日 (Tue)
新代田FEVER
open 19:00 start 19:30
Live : Damon & Naomi with Kurihara、sugar plant
前売 7,000円 + 1D 当日 7,800円 +1D
前売チケットは以下のURLにて販売中
e+ : https://eplus.jp/sf/detail/4158690001-P0030001


Streaming

Damon & Naomi with Kurihara Japan ライブ配信決定!

Damon & Naomi 5年ぶりの来日公演は長年のコラボレイターである栗原ミチオを加えたトリオ編成でのライブとなります。
またこれまでにもDamon & Naomiの作品に参加しているソプラノ・サックス奏者であるBhob Raineyのゲスト参加が決定!

日本だから実現したこのセットのステージ、11月5日の新代田FEVERのライブを配信いたします。

配信日:11月5日 from 新代田FEVER
19:30~ sugar plant
20:30~ Damon and Naomi with Kurihara

販売期間:2024/10/29 17:00 - 2024/11/12 21:00
アーカイブ視聴期間: 11/12 (火) 23:59まで
配信チケット:2,500円
https://fever.zaiko.io/item/367311

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