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sugar plant『happy 2024 Remaster』制作時の背景について by 与田太郎

KKV Neighborhood #211  Disc Review - 2024.3.1
sugar plant『happy 2024 Remaster』review by 与田太郎

KKV-169D

僕がこの仕事を始めたのが1990年、振り返ればもう34年も続いている。これまでに制作で関わった作品は200から300タイトルぐらいはあるのではないだろうか、我ながらよくもまあここまで続いてきたものだと思う。思い出深い作品は数多くあるが、いちばん意味深いのがこのアルバムだ。それは人生の大きな分岐点で制作されたこと、そしてこのアルバムの制作の期間前後で、音楽が自分にとってどういう意味を持っているのかということにはっきり気が付くことができたからだ。sugar plantは1993年に結成、1995年に1stアルバム『hiding place』でデビューした。共通の知り合いを通じて発売前の音源を聴いた僕はメンバーにリリースのオファーをした、それが1994年の秋ぐらいだろうか。すぐに意気投合した僕たちは行動を共にするようになった。

1995年は僕がレイヴやパーティーに出会った年だった。7月にはじめてのパーティーに行き、衝撃を受けた僕は9月か10月にはもうsugar plantの二人をパーティーに誘っていた。そこから4~5年、ほぼ全ての週末を彼らと一緒にクラブや野外レイヴで過ごすことになった、思い返せば本当に熱い季節だった。踊ること、ダンスがもたらしたのはこれまでの音楽体験を一度無効にして、踊るという感覚から再度音楽を捉え直すということだった。ダンス以前は憧れが音楽に向き合う原動力となっていたが、自分の身体をコントロールして踊ることで音楽の奥行きが広がることになり、ただ好きというだけでなく構造や隠されたメッセージを読み取る解析力が格段に上がった。それまで聴こえてなかった音も聴こえるようになったようなイメージだ。まさに自分の意識の中でパラダイム・シフトが起きていた。この時期ほど音楽に対して強い探究心を持って向き合った時期はない、この時期に自分の音楽観は決定づけられたと言っていい。

週末にパーティーに行き、朝からのアフターアワーズへ、そこから代々木公園でチルアウトという週末のルーティーンのあいだに、僕らはその日のフロアでの発見を話し合った。程なくしてパーティーでプレイされるダンスミュージックだけでは飽き足らなくなり、誰かの家に集まり、あらゆる音楽を聴くようになる。その時に対話できる相手がいたことがどれだけ幸福なことであったか。自分の言葉で考え、音楽の意味を伝え合うのは相手がいればこそだし、会話が新しいアイデアを誘発することもある。sugar plantとは実に濃厚な音楽との時間を共に過ごした仲間なのだ。そんな日々に作られたのが『after after hours』、『trance mellow』そして『happy』だった。

この3タイトルは三部作だった。ダンスという体験で掴んだ感覚をどう自分たちの音楽に落とし込むというテーマで考え尽くした作品だ。なんとなく自分の好きなスタイルで曲を作るのとは違い、自身の体験と感覚に照らしながらの作業だった。その感覚こそが海外のアーティストと共通だったのだと思う。それを証明するかのようにアメリカsugar rplantは話題のニューカマーとして歓迎されていた。しかし日本ではなかなか理解されないというジレンマに悩まされることになった。この時期は僕もsugar plantも青年期の危機を迎えていた。世間の求める価値感と自分が求めている自由との葛藤、気づいてしまった真実と引き返せない生活、全てにおいて危うい状況の中を僕らはスクラムを組んで乗り越えようとしていた。

『happy』の制作の背景で僕たちが何を考え、どのような状況だったかを書いてみた。当時考えたことは今でも変わっていない。僕にとって音楽を聴くことは作り手とのコミュニケーションだ、だから素直な気持ちがダイレクトに伝わってきた時が一番気持ちがいい。むしろ頭で考えたり、別のことが伝わってくると気持ちが冷めてしまう。当然それは僕自身にしかわからないことだが、素晴らしい音楽は誰かに教えたくなるのだ。『happy』に特別なものが宿っているかどうかは聴き手の判断に委ねるしかないが、作り手の一人として大切な思いを丁寧に差し出すことはできたのではないだろうか。
いま海外のサブスクリプション・サービスで『happy』を中心にsugar plantが再発見されている。きっとまだこのアルバムに込められた何かは生きているのではないだろうか。リマスターされた音源は解像度が上がり、より広がりを持った音になっている。ぜひ一度聴いてみてほしい。

sugar plant『happy 2024 Remaster』配信中


KKV-169CA

Now On Sale
sugar plant / happy (2024 Remaster)
KKV-169CA
カセット+DLコード
2,200円税込
収録曲
Side A
1.happy
2.rise
3.butterfly
Side B
1.rainy day
2.stone
3.rise (A Reminiscent Drive Remix)


KKV-170CA

sugar plant / dryfruit (2018 Remaster)
KKV-170CA
カセット+DLコード
2,200円税込
収録曲
Side A
1.a rain desecration
2.simple
3.behaind the ear
4.thunder
5.dryfruit
6.a furrow
Side B
1.ten years
2.august
3.13
4.indigo
5.simple (dub)
6.a furrow (dub)


6年ぶりの新曲、7インチ発売決定!
Bandcampにて試聴可能


4/27QUE

4月27日のライブにて7インチの先行販売決定、詳細は以下の通り。KiliKiliVilla presents Penny Arcade x sugar plant
4月27日(土)
下北沢 QUE
open : 17:30 start : 18:00
出演:Penny Arcade、sugar plant
前売 4,000円+1D 当日4,400+1D
チケット
LivePocket
https://t.livepocket.jp/e/que20240427
e+
https://eplus.jp/sf/detail/4049400001-P0030001
ローソンチケット
https://l-tike.com/order/?gLcode=73358

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