800 cherriesとあの頃(後編)800 cherriesリマスター配信に寄せて by サイトウマサト
KKV Neighborhood #157 Column - 2022.12.19
800 cherriesとあの頃(後編)by Pervence/Clover Records サイトウマサト
あの頃について、忘れてはならないのが輸入盤専門店からのフォローです。チェリーズの地元札幌のレーベルComp@ss!からリリースされた2nd 800 cherriesは名古屋Railで大好評を博して、そこから全国各地の同好の皆さんの耳へ届いたのではなかったか…。もちろんClover Recordsも大変にお世話になりまして、リリースタイトルをいつもお取り扱い頂きました。Railに限らず全国各地、本当に北海道、東北、関東、中部、近畿、中国・四国、九州、沖縄の輸入盤専門店や地域に根差したレコード店で一様に暖かくフォローを頂きました。素性も知れず、メディアでの露出も無い個人レーベルの音源を店頭に並べて頂けたこと、感謝に堪えません。
チェリーズの話題から逸れるのですが。その当時、僕がメンバーとして活動していたのがKactusというバンドです。バンドメンバー募集で知り合ったスギノ君の曲をとても気に入りまして、このバンドの為に未経験のドラムを始めました。今思えば凄い熱量ですが、仕事から帰宅後の23時から毎晩のようにリハスタでの個人練習に入りまして、自宅にはドラム練習パッドを設置。スネアとフットペダルを購入、これでもう後には引けない。Galaxie500、Flaming Lips、Teenage Fanclub、Pavementなどのアルバムを鳴らしながら、見様見真似でただひたすらドラムを叩き続ける日々。数か月後カタチになってきたところでTASCAM製8トラックカセットMTRでバンド録音。直ぐに完成してカセットテープをダビングしてリリース。この当時の音源が最近YouTubeに上がっていまして久々に聴いたところ、これで十分良いじゃないか、という出来具合でした。その後、アメリカ出身の英会話教師、リチャードさんがギターで加入。リチャードさんの地元ロスアンジェルスの友人へバンドの音源を聴かせたところ、新しく始めたレーベルから7インチをリリースしてもらえることに。そのレーベルがSonorama Recordsです。この流れでKactusと並行して活動していたPeatmosも気に入ってくれて同時期に7インチのリリースとなりました。この辺りはまた別の機会があれば。ちょっと先へ急ぎます。
そうこうするうち、Sonorama Recordsのオーナー、ダンさんが来日。日本のインディーバンドのコンピレーションを制作する企画が立ち上がり、この企画に協力する流れとなりました。Clover Recordsからリリースしていたバンド達を紹介したり、その他で活動するバンド達も参加したりと...。1997年8月、無事リリースされたPop Jingu、期待を越える人気作となりまして、全国の大手チェーン店から輸入盤専門店までお取り扱いを頂きました。その後Sonyからオファーを受けまして、日本盤リリースの運びとなりました。時間は飛んで数年前、Pervenche活動本格再開後のイベント(Melodycat)で共演したバンドHarpsのメンバーから学生時代にPop Jinguの大ファンだったというような話を聞き、嬉しい驚きでした。大手流通であったことから年の若い方々の手元にも届いたのかなと思いまして、その節は大変にお世話になりました。さて、チェリーズの話に戻ります。ちょうどこの頃3rdアルバムのレコーディングを始めていたのかな?新作をSony流通でリリースする流れとなりまして、ここからClover Recordsは800cherriesと共にCD時代へ突入することになります。
チェリーズの3rdアルバムが完成し、タイトルもRomanticoと決まり(最初から決まっていたような気も...)1998年11月にSony流通でリリースされました。リリースイベントの開催、札幌からチェリーズの二人も上京。東京の暑い夏に都内を移動してのアー写撮影での疲弊など、思い起こせば無理させたなぁ...と反省することも多々あります。作品はお蔭様で好評を頂きまして、各所で温かく迎えて頂いた記憶が残っています。Romantico収録曲la pa ti taはGalaxy Trainから7インチとしてシングルカットもされました。ほどなくして、USのレーベルMarchからRomanticoのUS版をリリースしたいとのオファーが届きます。CDとアナログ盤をリリースすることになり、Marchは独自のデザインに拘りがあることから日本盤とは別のジャケットデザインに差し替えとなりました。RomanticoのオリジナルClover盤のデザインは我らがマサコ先生。Marchのデザインも素敵ですが、アルバムの内容を的確に表現しているのはClover盤だろうと今でも思っています。March盤のアナログ、最近のDiscogsで驚愕の高値がついていたとの情報もあります。アルバムの内容は、より音響系に寄り沿ったレイヤーを重ねた音作りになりました。シューゲーザー的なノイズレイヤーの曲もありますが、絶対的にシューゲーザーとは一線を画すアレンジとミックス。これは、チェリーズの二人の音への美意識を昇華した結晶でしょう。同時代のシーンへの共感、影響を受けた先人達へのリスペクトは持ちつつ、単に参照することはせずに手探りで自分たちのイメージをカタチにすべく試行錯誤する愉しさ。ここ迄辿り着くと、次はどうするのかな? 突き詰め過ぎると、愉しいだけじゃないこともいろいろ出てくるしね。
翌年、1999年8月にはPiccoloもSony流通でCDをリリース。Advantage Lucy石坂さんにオビのコメントを書いてもらったりと、楽しい思い出です。この前後、幾つかのレーベルコンピへも参加していまして、それらの曲も今回リマスターしてボーナストラックとして配信されています。改めて聴いてみるといろいろなアイディアが実現されていたことが確認できます。しばし、休憩を挟んで、4thアルバムのOpusculaをリリースしたのが2000年9月。今作は、声も楽器として扱ったインストゥルメンタル作品となりました。初めて聴いた時、コロボックル的な妖精のサントラ盤といった印象を持ったことを思い出しました。今回のリマスター盤を聴いて、当時より今の方がしっくりと受け入れられるのではなかろうかと。もしくは、それまでのチェリーズの流れでは無く、全く別のアーチストの作品としてリリースされていたら又別の反応もあったのではなかろうか。それまでの作品では、冬の街の煌めき感があったと思っていまして、それがOpusculaでは、春先の森の音のイメージへ。北の森、雪解けの水たまりに映る流れていく雲、日向を探して飛び回る小さな羽虫たち...。見えない妖精の...。
チェリーズとしての音の探究の旅は、ひとまずここまで。知られているようで、あまり知られていないまま、最後までボンヤリとした存在感もチェリーズらしいな、と思います。
その後、タカハシ君は独自の音楽活動を断続的に続け、2010年代からPervencheの活動に合流、正式メンバーとしてライブとレコーディング、2021年末にGalaxy Trainからリリースした2ndアルバムquite small happinessの制作に際して、その才能を如何なく発揮しています。2022年、KilliKilliVillaからquite small happinessをアナログとCDでリリースした繋がりから、今回の800 cherriesリマスター配信が実現しました。
僕だけでなく、恐らくチェリーズの2人も、あの後長らくチェリーズのことは記憶の底へ沈んだまま放置していたら、いつのまにかYouTubeや配信メディアでの再生回数が累積していた、そんな近況です。マルフジさん、突然の展開にさぞや戸惑ったことでしょうね...。
今回のリマスタリングは中村宗一郎さんにお願いしまして、KiliKilivVlla与田さんにも大変にお世話になりました。
各種配信サービスからお聴き頂けますので、是非皆さまにお愉しみ頂ければと思います。
最後にチェリーズのオリジナルリリースの一覧を記載しまして、おしまいとします。
piccolo(Cass, Fractal 1995, Clover 1996)
800 cherries (CD, Comp@ss! 1996)
dizzy dizzy dizzy (7inch, Clover 1998)
la pa ti ta (7inch, Galaxy Train 1998)
romantico (CD, Clover 1998)
romantico (LP&CD, March 1999)
piccolo(CD, Clover 1999)
opuscula (CD, Clover 2000)
romantico (Cass, FFWD 2000)
Pervenche / Clover Records サイトウマサト
800 cherries 4タイトル2022リマスター配信中