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Killerpass 『あるいていこう』自分のことを歌うパンク・ロック by 長谷川文彦

KKV Neighborhood #190 Disc Review - 2023.10.26
Killerpass 『あるいていこう』 review by 長谷川文彦

KKV-165

パンクも50年近く経つといろいろな流派が出来ている。かなり広範囲にパンクというものを聴いてきたつもりだが、その中で自分が苦手なのが「やさしさパンク」だ。これは自分が勝手に作った造語だけど、自分探しに熱心で人にやさしい一派がパンクの一角にいるのは間違いないと思う。この流派の源流は間違いなくブルーハーツで、ブルーハーツを都合よく自分を慰める道具にした人たちがパンクの中で独自の流れを作ったのだ。これがどうにも苦手なんである。

名前はその前から知っていたけど、自分がKillerpassのことを最初にちゃんと認識したのは2019年だったと思う。その年の4月にGAUZEとthe原爆オナニーズが名古屋で対バンのライブをする時に、出演者の一番下にKillerpassの名前があったのだ。この名古屋のライブには遠征して行くつもりだったので、Killerpassもそこで観ることになるんだろうと思っていた。しかし、どうしても都合が悪くなり、そのライブには行けなくなってしまった。Killerpassのライブも観れなかったけど、その名前はこの時に覚えた。

次にKillerpassの名前を思い出したのは2020年、the原爆オナニーズの映画「JUST ANOTHER」が公開された時だった。この映画のレビューをここKKVneighborhoodに書かせてもらったのだけど、それは合評という形で、そこにKillerpassのボーカルの林氏もレビューを書いていたのだ。
その文章は、映画そのもののことよりたくさんのスペースを使って、前述のGAUZEとthe原爆オナニーズとのライブの時のことが書いてあった。そのライブがどう決まって、その時の林氏の状況がどうだったか、それに向かってどうしたか、そして当日どうだったか。このライブの様子は映画にも出てきて、Killerpassの演奏も少し映る。そこにつなげて書いているんだけど、映画についてのレビューなのに、そこに入るまでがとても長い文章だった。
それを読んで、ああ、この人は自分のことを書く人なんだなと思い、その文章もとても魅力的に感じた。何かを書くということは、自分のことを書くということだ。そうじゃない、という人もたくさんいるけど、自分が何を感じて、どんな行動をしたのかを書かない文章はおもしろくない。林氏の文章は自分のことしか書いていなかった。そこが素晴らしかった。
きっとこの人はKillerpassでも自分のことを歌っているのだろう、そう思った。

Killerpassのアルバム「あるいていこう」を聴かせてもらった。正直に告白すると、このバンドは自分の苦手な「やさしさパンク」なのではないかと少々疑っていたのだ。でもアルバムを聴いたらそんなことはないのがわかった。
思っていた通り、林氏は自分のことだけを歌っていた。それが彼の書く文章と同じで、とてもよかった。しかも、歌っていることにウソがない。人の弱さにつけ込んでくるような、等身大を装って格好ばかりつけているような、うまく同情と共感を引き出して商売にするような、そんな言葉の作り方や目論見はどこにもない。本当に自分のことだけを表現しようとしている。自分がどういう生活をして、そこで何を感じて、どうしたいと思っているのか、そういうことを歌っている。これはきっと自分というものに責任を持っている人にしかできない。それが彼にとってのパンクということなのだろうと思う。
こういう音楽はAIには作れない。情報やテクニックだけの文章や音楽はそのうち生成AIがやってくれるさ。でもこういう音楽は絶対に作れない。

冒頭の「うず」、ギターのイントロから高音の優しい声が歌い出し、でもすぐに音が爆発する。このアルバムの曲はいかにもパンクな曲からもっといろいろな表情を持った曲までバラエティーに富んでいるけど、核になる部分のトーンは一貫しているように感じる。それはきっと林氏だけでなく、バンド全体が「自分たちのことを歌っている」ということなんじゃないかなと思う。

KKV-165

ここにあるのは、生きることとパンクであり続けることを考え、日々の悪戦苦闘を乗り越えようとする青年の姿。答えはないけど、この音楽が嘘のない今の気持ち。
ゲストにYOUR SONG IS GOODのJxJx、ETERNAL ELYSIUM/STUDIO ZENのYukito Okazakiが参加、歌詞を収録したブックレットに中村明珍のイラスト多数掲載、アートワークはHIROSHI from THE GUAYSが担当。

NOW ON SALE
https://store.kilikilivilla.com/v2/product/detail/KKV-165

Killerpass / あるいていこう
KKV-165
CD
2,750円税込

収録曲
1.うず
2.悲しみはとまらない
3.偽善者でかまわない
4.あるいていこう
5.アンダースタンド
6.シューズオブスケルトン
7.Run Fast Die Old
8.いきたい
9.霧の中の悪魔
10.19号線
11.いこうぜ
12.マイアンサー~争いを止めて~
13.プロテクトソング


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