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CLUB Que30周年Jockeys Homecoming!によせて~90年代のDJイベントの思い出~by 与田太郎

KKV Neighborhood #227 Column - 2024.8.16
CLUB Que30周年Jockeys Homecoming!によせて~90年代のDJイベントの思い出~by 与田太郎

9月14日 CLUB Que

今年下北沢CLUB Queは30周年を迎える。僕は1994年のオープンから本当にお世話になった。数々の企画やイベントをやらせてもらったが、その多くがなかなか集客の厳しいものだった。それでもそれぞれの企画には自分なりの意味があったり、後につながる実験的なものだったりと思い出深いものが多かった。そんな企画をやらせてくれたQueには大変感謝している。今年はアニバーサリーイヤーということでいくつかの企画をやらせてもらっている。

その中で9月14日に『Jockeys Homecoming!』というタイトルのDJイベントをやらせてもらうことになった。このイベントはタイトル通り90年代中旬から2000年代前半まで、Queの週末を盛り上げてきたDJイベントをオーガナイズしてきたDJ達がかつてのホームグラウンドであるQueに久しぶりに集まることになる。今回はこのイベントにちなんで90年代のDJイベントの思い出を書いてみようと思う。

90年代のQueの週末はそれこそ毎週のようにUKロックやインディー・ロック中心のDJイベントが行われていた。特にオープンの94年から2000年代前半はブリット・ポップのブームとリンクしたこともありインディーロック系のイベントはとても盛り上がっていた。今でこそ当たり前になったロック系のDJイベントだが、Queがオープンするまでには、そこに至る前史ともいうべきものがあった。

僕が高校を卒業した80年代中旬、洋楽で踊る場所はまだディスコだった。その頃、新宿のツバキハウスが本来のディスコ・ミュージックだけでなくパンクやニューウェーブで盛り上がり、原宿には国内で最初のクラブとしてピテカントロプスがオープンする。このあたりから東京にクラブというカルチャーが生まれたのではないだろうか。僕自身はツバキもピテカンもクラブとして行ったことはないのだが、芝浦インクスティックでやっていたスカのイベントに行ったりしながら少しづつDJイベントに行くようになっていた。そして阿佐ヶ谷にあったリッキーというバーに熱心に通うことでロックで踊る楽しさを知ることになった。そのあたりのことは以前にもここで書いている。

時代の空気が変わり始めたのは1988年の終わりごろだったと思う。1987年のスミスの解散以降停滞するかと思われたイギリスのインディー・シーンに新しい世代が登場し始めた。マンチェスターからストーン・ローゼズの”Elephant Stone"、インスパイラル・カーペッツの"Plane Crush EP"、ハッピー・マンデイズの”Wrote For Luck"など新しい感覚の曲が"マッドチェスター"という言葉が生まれる直前にリリースされた。リリースの時点ではそれほど多く日本には入ってきていなかったし、メディアで紹介されることもなかったはずだ。しかし東京のコアなインディー・ファンは小さな予兆も見逃さなかった。この時点でインディー・マニアはもうイギリスで何かが起こっていることに勘づいていた。

翌1989年はまさに革命の年だったと言える。ストーン・ローゼズとフリッパーズ・ギターのデビュー・アルバムのリリース、ライドの赤RIDE、シャーラタンズの"Indian Rope"そしてプライマル・スクリームの2nd。この時期から下北沢ZOOで行われていたいくつかのロックやニューウェーブ中心のイベントで最新のUKインディーがかかりはじめ、少しづつこれまでとは違うタイプのお客さんが増えていったような気がする。もちろん僕もそういった若者のひとりだった。90年代に入ると吉祥寺のハッスル、麻布のネクストがオープンし、クアトロが主催したクラブ・イベント『Brand New Skip』やRemix誌による『Remix Night』が川崎のクラブ・チッタで行われるなど一気に新しいクラブやクラブ・イベントが花開く。

1989年から1991年の3年間で、それまでごく少数のコアな音楽ファンのための散発的な動きがシーンと呼べるまでに育った。『Love Parade』、『WARSAW NIGHT』、『...from accross the turn table』などのインディー系のイベントが盛り上がり、毎月のように海外のアーティストの来日公演が開催されていた。みんなほんとに熱心に音楽を追いかけていたと思う。大学を卒業したばかりの僕も自分でDJイベントを最初に企画したのがこの時期だった。大学の部室でやっていた小さなパーティーでは満足できなくなり、もっと大きな音で思う存分好きな曲をかけて踊りたかったのだ。1990年に当時雑用として手伝っていた代々木チョコレートシティの週末の深夜を借りて『Some Candy Talk』というDJイベントをやった。レコード店にフライヤーを置いてもらい、イギリスからの来日アーティストの公演後に配り、そんなシンプルなことだけで誰も知らないDJのイベントでもそれなりに形になった。

この3年間はイギリスからもアメリカからも新しいサウンドが多く生み出され、音楽的にちょっとした黄金期だった。それに呼応するように東京でも新しい音楽を求めるオーディエンスが増えていった。それはロックだけでなくヒップホップやテクノ、ハウスにも言えたしハードコアのシーンでも新しい胎動が起きていた。そしていろんな場所でそれぞれのオーディエンスが混ざり合っていたこともよかった。ライブハウスにも新しい感覚のバンドが増え、そこに集まる人たちがクラブ・イベントを始め、またそこでライブとDJがクロスして新しいカルチャーのようなものを作り出していた。

Queがオープンしたのが94年10月、そうオアシスのデビュー・アルバムのリリース直後だった。そこから始まるブリット・ポップの大きなブームはQueの週末にとっては大きな追い風となる。僕自身にとってもオアシスのデビューはひとつの到達点だった。それはクラッシュの怒りと告発、スミスの知性と告白を受けとったストーン・ローゼズの無垢と熱狂が繋げたのオアシスの勝利と歓喜、という一筋の流れだったからだ。もちろん次の世代はその後リバティーンズからアークティック・モンキーズへとバトンが渡されていく様を見ているだろう。僕らはとにかく自分たちが好きな音楽を大きな音で聴いて、踊って、歌いたかった。シンプルに音楽を楽しみたかった。80年代末から90年代初頭にようやくわかったことは、やってみたいならやればいいんだ、ということだった。そうやって、同じように音楽に夢中になっている仲間を見つけていった。

CLUB Queには必要なものが全て揃っていた、当時のライブハウスはほとんどオールナイトのイベントをやっていなかったから、空いている週末の深夜でDJイベントをやれる。ということで自分の企画である『CLUB WONDER RELEASE』や『MADCHESTER NIGHT』をやることになった。同時に自分もよく通っていた吉祥寺のレコード・ショップ WARSZAWAのチームがやっていた『WARSAW NIGHT』にも声をかけた。そんな感じで始まったQueの週末のクラブ・イベントも翌年にはいろんなオーガナイズ・チームが参加し始め、オールナイトのスケジュールも埋まるようになった。中でもDJ ShigeとDJ Yukiがオーガナイズしていた『POP69』は90年代のQueのオールナイトを象徴するようなイベントだった。数回目にして、オープンと同時に階段には長蛇の列ができ、あっという間にフロアはパンパンとなる。DJ ShigeのMC付きのDJで盛り上がり、Queのエントランスに続く階段には前回のイベントの盛り上がっている写真が壁を埋め尽くすように貼られ、入場するときから特別な夜にしようとするオーガナイザーの意思が感じられた。ちょうどオアシス vs ブラーでシーンが盛り上がっていたタイミングということもあり、一晩中異様な熱気に包まれていた。このイベントがある意味初期のQueをリードしたと言ってもいいだろう。

こうして思い出してみると94年からの数年間に僕は実にいろんなことをQueでやらせてもらったんだと実感する。あれから30年経っても、当時夢中になった音楽はいまでも特別なものであることに変わりはない。40代で実生活が大変な時に忘れそうになったこともあるけど、若く多感な時期に夢中になった音楽は自分の中から消すことができない。今回はQueの30周年ということで特別にQueのオールナイトを盛り上げたDJ達に集まってもらう。当時Queに通っていたみんなももう40代から50代を迎えていることだろう。もし子育てや仕事に忙しい日常の中で、自分の好きな音楽を聴くことを忘れていたらぜひ思い出してほしい。あんなに夢中になった音楽は今でも輝いているし、なんなら当時よりもよく聴こえるかもしれない。ただ歌って踊るだけで音楽が自分の心に響いてくる感覚を思い出してもらえたら最高だ。また当時を知らない若い世代が来てくれるのであれば、見て欲しい、ただ好きな曲をかけてるだけで楽しむことができることを。大きなコンサートやフェスに行かなくても音楽を楽しむことはできる、それは誰にでもできることだったりする。

みんな最高だった日々の音楽を忘れたくないのだと思う、でも人は何もしないとどんどん忘れてしまう。楽しいという気持ちすら日常の現実に飲み込まれてしまう。同じ時代に同じ音楽を聴いていた人たちともう一度大きな音で音楽を聴くだけでも何かが取り戻せるかもしれない。イギリスにはクローン・ローゼズ(The Clone Roses)というストーン・ローゼズのカバー・バンドがいることを知っているだろうか?ただのカバー・バンドだけどイギリス国内をツアーしている、そういう楽しみ方でもいいんだと思う。そしてもう一つ、Shiiine On Weekenderというフェスの去年のラインナップを見て欲しい。

ちなみに今年はこちら。

正直に言うと、僕はこんなフェスが成立するイギリスがとても羨ましい。でも9月14日にはCLUB QueのDJイベントが生み出したスーパー・カバー・バンド、下北スミスも出演する。

QUE 30th Anniversary presents 『Jockeys Homecoming!』
9月14日 下北沢CLUB Que
open / star 16:30

前売¥3,000/当日¥3,300 (+ドリンク別¥600)
※20代割引 ¥2,000[1D別]
※ジャスト30割引 ¥1,500[1D別](今年ちょうど30歳の方は年齢のわかる身分証を提示してください)
DJs :
SUGIURUMN (INDIE 500)
片平 実 (Getting Better)
村 圭史 (FREAK AFFAIR)
DJ SHIGE (POP69)
KINK (INDIE 500, LONDON LOVES!)
YODATARO (CLUB WRR, MADCHESTER NIGHT)

Live : 下北スミス
UK / US Indie, MADCHESTER, Indie Dance, Brit Pop, 90's UK Dance,New Wave and many more…
チケット情報
Que店頭 [16:00~21:00]
LivePocket 
イープラス 


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