見出し画像

THE EARTH EARTH『THE EARTH EARTH』聴けば聴くほどハマっていく背徳的な心地よさ。THE EARTH EARTH、9年ぶりの最新作

KKV Neighborhood #123 Disc Review - 2022.2.28
THE EARTH EARTH『THE EARTH EARTH』
review by 黒田隆憲

supercarを生んだ青森にて結成され、現在もそこを拠点に活動する4人組THE EARTH EARTH。まとまった音源としては、前作『pop confusion』から実に9年ぶりとなる彼らの最新アルバム『THE EARTH EARTH』が、KiliKiliVillaレーベルよりリリースされる。

THE EARTH EARTHは2010年、全ての楽曲を手がける大嶋耕介(G, Vo)と原田綾子(D)がもともとやっていたバンドに、ファッキン野村(B)と小川香織(G, Vo)が加入する形で誕生した。結成したその日にライヴを決めるなど、大嶋いわく「とにかく勢いで始まった」バンドだが、そのステージは想像以上にノイジー&パンキッシュで、今から10年ほど前に彼らのステージを見たときは、オーディエンスを煽りながらガシガシとベースを弾く野村の姿が印象的だった。

「前にやっていたのは邦楽よりのポップなバンドでした。でも自分の中で、“もっとロックでパンキッシュなものがやりたい!”という気持ちがあって。それでパンクが好きな小川や野村を誘ったんです」

以前、筆者が大嶋にメールインタビューをした際、結成の経緯についてこのように振り返ってくれたことがある。実際、初期の彼らのサウンドは、いわゆる「シューゲイザー」ではなく70年代パンクやハードコア、もしくはダイナソーJr.〜ソニック・ユースなどUSオルタナティブロックからの影響を強く感じるもの。そこに大嶋がしばしばフェイバリットに挙げるビートルズ譲りのポップセンス、サイケデリアを散りばめることによって、他のシューゲイズバンドとは一線を画す音像を構築しているのだ。

「ギターサウンドで影響を受けたのは、やはりケヴィン・シールズ(マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン)でしょうか。シューゲイザーというジャンルへの興味はさほどないのですが、ケヴィンのサウンドは本当に不思議で、どうしても再現してみたいと思ってずっと研究していましたね」

その「研究成果」をてらいなく反映させたのが、2011年にリリースされた6曲入りミニ・アルバム『Matador Is Dead』だ。ロケットシップや日本のCattleなど良質なギターポップ・バンドを数多く輩出している米国シアトルのインディー・レーベル、Jigsaw Recordsからリリースされた本作には、機関銃のように連打されるドラムに導かれてスタートする冒頭のタイトル曲から、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインへのオマージュ全開。男女の掛け合いヴォーカルや歪みまくったギターが脳天を直撃する。

中でも切ない女性ヴォーカルをフィーチャーした“Teresa”は、コードセンスやギターサウンド、メロディの乗せ方など限りなくケヴィン・シールズに近いが大嶋にしか生み出し得ない名曲で、興奮した筆者は当時「『Isn't Anything』期のマイ・ブラッディ・ヴァレンタインが、まるで現代にタイムスリップしてきたようなサウンド」などと、彼らのことを評した記憶がある。

その後、『Matador Is Dead』の路線をさらに推し進めたファースト・アルバム『dead matador's funeral』を2012年に、狂おしいほど哀愁漂う「empty boy」を筆頭にJ-Pop的なメロディセンスも開花させたセカンド『pop confusion』を翌2013年にリリース。数年の活動休止期間を経て新メンバーのシラトリ(B)、ミホコ・ラモーン(G, Vo)を迎えて制作されたのが本作『THE EARTH EARTH』である。

一聴して分かるのは、これまでのパンキッシュかつハードコアなサウンドとはかなり趣を異にする作品であるということ。冒頭曲「horize」は、フィードバックノイズやファズギターの刻みが鳴り響いてはいるものの、全体的には深くトレモロのかかったエレピのコードバッキングと、ハーモナイザーと思しきエフェクト処理されたボーカルを基調としたサイケソング。雄弁に動き回るベースラインとスペイシーなシンセサウンドが印象的な「soon,in the second」や「drapes」あたりは、テーム・インパラの頭脳ケヴィン・パーカーがプロデュースしたメロディーズ・エコー・チェンバーあたりに通じるものがある。休符を活かしたベースライン、メジャー7thコードをフィーチャーしたワウギターの響きが、バート・バカラックに触発されたケヴィン・シールズによる「new you」(2013年『m b v』)にも似た「you will see」など、全体的にプログレッシヴかつサイケデリックな楽曲が目立つ。

「今回のアルバムの内容は、エレカシでいうと5、スピッツでいうと空の飛び方、オアシスでいうとビーヒアナウ、かなと」
https://twitter.com/shimakotee/status/1494825698665455616

本作について大嶋は、Twitterにこのようなコメントをしている。確かに、まるで初期衝動をそのまま封じ込めたような、荒々しくも研ぎ澄まされた緊張感溢れるこれまでのアルバムに比べると、2018年ごろから少しずつ製作されたという本作は、1曲1曲にじっくりと取り組み曲構成やハーモニー、音の響きまで精密にデザインされた重厚な仕上がりで、これを大嶋がオアシスの『Be Here Now』(1997年)に喩えるのも腑に落ちる。

とはいえ、グライドギターが唸りを上げる「peel slowly & see」や「cider」、パッパラ〜コーラスが軽快な「for the same」、これまた『Isn't Anything』期のマイブラを想起させる「just like you」などTHE EARTH EARTH節も健在。いずれにせよスピードやコカインのような即効性はないが、聴けば聴くほどズブズブとハマっていくヘロインのような、背徳的な心地よさが本作にはある。

なお、本作にはボーナストラックとしてSUGIURAMUN、与田太郎(KiliKiliVilla)によるリミックスも収録。それぞれの角度からTHE EARTH EARTHの魅力を引き出しており必聴だ。

画像1

4月20日発売
THE EARTH EARTH / THE EARTH EARTH

予約受付中
https://store.kilikilivilla.com/v2/product/detail/KKV-135

KKV-135
2,750円税込

収録曲
1. horize
2. peel slowly & see
3. cider
4. for the same
5. just like you
6. smoke
7. soon, in the second
8. you will see
9. drapes
10. she don’t
11. magic touch
12. peel slowly & see (SUGIURUMN Remix)
13. drapes (YODATARO Remix)

すべてのマイブラ・ファン必聴!!
90’sシューゲイザー、ドリーム・ポップ、チルウェーヴ、1990年代以降世界中を侵食した甘美なノイズとインディー・ポップの融合というアイデアがついに日本でも結実。My Bloody Valentineという神話にインスパイアされたフィードバック・サウンドが生み出した最新の結晶。粒子のように歪んだギターと深く滲むウィスパー・ヴォイスで作られた最新のインディー・クラシック、すべてのマイブラ・ファン必聴!
ボーナス・トラックには90’sインディー・ダンス世代のオリジネイター、SUGIURUMNとYODATAROによるダンス・リミックスを収録。


いいなと思ったら応援しよう!