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Romy『Mid Air』受け継がれるパーティーのメッセージ by 与田太郎

KKV Neighborhood #185 Disc Review - 2023.9.22
Romy『Mid Air』review by 与田太郎

Mid Air

2020年にロミーの最初のソロ・シングル"Lifetime"がリリースされた時、90’sスタイルのビートとレイヴィーなヴィジュアルからソロアルバムは必ずダンス・アルバムになるだろうと思った。何よりも"Lifetime"の歌詞がそれを物語っていたからだ。パーティーにハマった人なら誰でも最高のパーティーで一度は思ったことがある言葉がそのまま歌詞になっている。"人生で一度"というのは最高のパーティーに出会うことの難しさではなく、最高の瞬間に今じぶんが感じているこの感覚、この瞬間は二度と繰り返すことができないと自分の意識がはっきりと認識することがある、ということなのだ。思考が澄み渡り、目の前の景色が光の加減でゆっくりと移ろう、そこに音楽が鳴り響く。それがクラブなら、多くのダンサーが自分と同じように感じているとはっきりわかる時、言葉にならない感覚が意識の中に広がる、その瞬間は二度と繰り返すことはない。

その感覚を追い求めて週末ごとにパーティーに繰り出し、音楽や風景、フロアの熱気や友人との会話、愛する人の踊る姿や表情、そういったものからまた新しいメッセージを受け取り、自分の中で言葉にならなかった感情や思考が少しづつ形になってくる。ロミーが"Lifetime"の後にリリースしたシングル、"Lights Out"、"Strong"、”Enjoy Your Life"はどれも見事にそれを物語っている。どの曲もとてもシンプルだがパーティー・ピープルにとってはシンプルだけどリアルな彼女の歌声が、それぞれのメッセージを感じた瞬間のことを思い出させてくれるはずだ。

そんなことを考えながらフジロックで来日したロミーにインタビューをすることができた。

彼女がソロアルバムを作る上で参照にしたのが90年代後半から2000年あたりまでのトランスやハウスだったことは驚きだったが、あの時代のエネルギーを知っているパーティー・ピープルの一人としては納得できることだった。あの無軌道でパワフルなビートとエモーションをまた必要としているオーディエンスがいるのだ。それは彼女の周囲のクィア・コミュニティーであり、LGBTQという状況に悩む全ての人に向けられている。

アルバムのリリースにあたりロミーは世界中のメディアでインタビュー受けている。彼女は全ての記事ではっきりと自身のメッセージの意味を解説している。LGBTQの人たちにとってパーティーがシェルターであり本来の自分自身に戻れる場所であるということ、それは世界中のクラブやパーティーのルーツである伝説のパーティー、『パラダイス・ガラージ』から始まっている。

『パラダイス・ガラージ』はラリー・レヴァンというDJが主催したニューヨークのパーティーだ。70年代後半から80年代中旬にかけてのアメリカで黒人でゲイとして生きることは想像を絶する厳しさがあっただろう、『パラダイス・ガラージ』そういう思いを抱えたオーディエンスが全てを忘れて熱狂したクラブである。そこでこそ日々の差別や葛藤に苦しめられた人々が自分自身で入られた場所だった。ディスコ、ファンク、ゴスペル、生まれたばかりのハウスやテクノ、あらゆるダンス・ミュージックを縦横無尽にミックスしたラリー・レヴァンのテクニックはターンテーブルのジミー・ヘンドリックスとも言われた。このパーティーから発せられたメッセージはその後世界中に受け継がれた。それが30年以上たったいまでも声高に言われるのは差別や偏見も同じように消えていないということでもある。このアルバムは今も悩み苦しむ若いクィア達を励まし、これからも差別してや偏見に立ち向かうという静かな決意表明なのだ。

ロミーがこのアルバムで繰り返し伝えていることは、例えば90年代後半のイビサでも2000年代前半の東京でも同じように感じることができた。だからといって僕は過去を懐かしんでいるのではい、この曲は彼女なりにいまのスタイルとサウンドでいまの感覚を伝えようとしている。時代が変わっても、人が考えたり感じたりすることには大きな違いはないということなのだと思う。僕は彼女のシングルが出るたびにどんな曲が下敷きになっているのかを考えて、いろんなダンス・ミュージックを聴き比べるのがとても楽しかった。なかでもアルバムの1曲目に収録されている"Love Her"を聴いた時、真っ先に思い浮かんだのはトレシー・ソーンが歌ったマッシヴ・アタックの"Protection"だった。どちらの曲も人を愛することの切なさや儚さが美しい歌声で歌われている。きっと今20代のあなたが40代となった20年後、その時代の最新のダンス・ミュージックを聴いてロミーの"Love Her"と同じことを歌っていると感じる曲に出会うだろう。

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