Psychoheads『Pistol Star』 これはもう新しいスタイルのパンクロックとしか言いようがないでしょ
KKV Neighborhood #146 Disc Review - 2022.08.31
Psychoheads『Pistol Star』 review by 長谷川文彦
最近歩きながら一番よく聴いているのはこのアルバムだ。自然と歩くスピートが上がり、足取りが軽やかになっていく。そういうアルバムだ。
Psychoheadsというバンドのことを知ったのは2020年の最初の頃だったと思う。知ったのはMs.Machineのメンバーが推していたことがきっかけで、ちょうど2月にMs.Machineとの対バンのライブがあったから観に行きたかったのだけど、その日はいくつか観たいライブがあって悩みに悩んだ末にあきらめた。ライブハウス通いをしていると時々こういうことがあって辛い。
しかしその直後の2020年3月から、いわゆるコロナ禍になってライブそのものがなくなった。ライブハウスの住人にとって本当の辛さはそこからが本番だった。行きたいライブのバッティングは起きなくなった。ライブそのものがなくなったからだ。
そんな中で一度出会いかけたPsychoheadsというバンドを見失ってしまった。配信でのシングルのリリースなどもありバンドの活動が止まっていたわけではなかったはずだけど、バンドの動きはよくわからなくなってしまい、なんと言ってもライブを観ることができなかったのが歯がゆかった。
そんな状況だったけど、ずっとPsychoheadsのことは心のどこかに引っかかり続けていた。
そして突然、告知もなくこの7月にアルバムが配信でリリースされてびっくりした。彼らの動きにまったく追いついていなかった。なんというか見失ったものがいきなり目の前に現れた感じだった。
でもこのサプライズな動きがいかにもバンドのスピード感そのものという感じでよい。リリース・パーティーも同時に発表され、こちらも追いつけなくて行くことができなかった。これからはこちらも同じスピード感で動いていかないと置いて行かれてしまうことになりそうだ。
アルバムは想像以上に勢いに溢れた性急さと高揚感のある音になっていてとてもカッコいい。一曲目の「Start」のギターのイントロが鳴り響くところからドラムのカウントが入った瞬間、いきなり温度が上がる。過剰にエフェクトで歪んでいるギターと低音を支える重厚なベースと独特のスピード感の核となるドラム、そして耳に残る艶のあるボーカル。完璧なガレージサイケ/ガレージバンクだ。だらしなく音の垂れ流すサイケデリックではなく、ガッチリとまとまった短い曲を連発するロックンロール。この感じはもうパンクとしか言いようがない。
シングル「Lost Everything」ではどちらかと言えばヴェルヴェット・アンダーグラウンドを連想させるようなルックスとダークでディープな音だったけど、このアルバムは力強い肯定感に満ちたアッパーな音になっている。コロナ禍の終わりが見え始め、また新しく時代が進みそうな今に響くのはこちらの音がふさわしい。
こういうスタイルのバンドは今まで飽きるほど聴いてきたはずなのに、彼らの音はとても新鮮に響く。今この音を新鮮に鳴らすことはベテランのバンドには絶対にできない。もうここには新しいスタイルと価値観が生まれている。それは本当に素敵なことだ。
このアルバムでは今までの音源ではあまり聞き取れなかった日本語の歌詞がかなり聞き取れる。ボーカルにもエフェクトがかかってしまってよくわからないところもあるけど、聞こえる歌詞の断片が音にシンクロするような力を持っている。最後の曲「Ride!」の”気分爽快の未来でいたいから”(と聞こえるのだけど違っていたらすみません)というフレーズは「希望」にしか聞こえないし、その希望は彼らの新しいスタイルそのものじゃないかと感じる。