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Borisインタビュー後編

KKV Neighborhood #112 Interview - 2021.12.14
Interview、構成 by 恒遠聖文

―長くやってるとバンドは走り続けられない事情が出てきたりもしますよね。だけどBorisはずっと止まらず走ってる。

ATSUO「ライブが出来ない時期もあったんですけど、その間は制作期間にするとか、その時に出来ることをしてましたね」

与田 「その歩みを止めないというのが凄いことです」

ATSUO「今もそういう時期ですしね。コロナ禍ではっきりわかったのが自分は気質が絵描きなんです」

―あぁ!なるほど。

ATSUO「メンバーも全員美大で昔から絵を描くことが大好きなので。日々絵を描いて何かが起こっていかないといられない体質」

―それすごくわかりやすい言い方です。Borisの創作活動や制作がどうやって行われているのかが非常に気になるのですが、例えば曲が溜まってアルバムにするとか、アルバムコンセプトありきで曲を作っていくとか、ライヴでやる曲が優先とか、いろんな形があると思いますが。

ATSUO「ここ10年ぐらいはステージから見える風景ありきですね。ライブの流れの中で「こういうことが起こる曲」なんだとイメージしながら。楽曲自体とライブの中での役割、どういうことが起きるのかという要素が二つ三つ同時にイメージされていないと形になっていかない。だからシンプルに曲の善し悪しという判断だけで作るということはないです。どんな風景に辿り着く曲なのか?というところが重要」

―それも絵描きならでは発想のような気がしますね。アルバムを作る時は、さっきおっしゃった要素があわさった核になる曲が数曲できたら、それを取り巻く曲で埋めていくような感じですか?

ATSUO「最初はWATAかTAKESHIどちらかとセッションして、それを編集していく感じです。そこに肉付けしながら曲になっていって。でもその時点ではどのアルバムに入れるかはわかってなくて。曲がいくつか完成に近づいていくと曲同士の関連性も見えてきて、どういうアルバムに向かうかも見えてくる。でも、アルバムが完成するとその反動で新しいアルバムのアイデアが出てきたり」

―なるほど、ではアルバムは日ごろから描きためてる作品をテーマで集めて発表する“個展”みたいな。

ATSUO「そう!個展。やっぱり基本が絵描きなんです」

―そこが多くのバンドと決定的に違うスタンスなのかもしれません。自身でレコーディングやってるのもそこに繋がってくるんでしょうか。

ATSUO「普通バンドマンはバンドがやりたくて楽器や音楽をやってると思うんですよ。リハーサルやって、レコーディングスタジオ押さえてアルバムを集中して作る……みたいな。僕らも最初の頃はレコーディングスタジオで作ってたんですけど、エンジニアと意思疎通がうまくいかなかったりノリが合わなかったり。レコーディングのノウハウもミュージシャンにそれほどシェアされてない時代ですからね」

―そうですよね。

ATSUO「昔から宅録はずっとしていたんですが、プロツールスが個人で買えるようになったり、持ち運びも可能になって、セルフレコーディングでもクオリティを上げる方法を試しながらやってきました。自分達だけで録音していれば失敗しても恥ずかしくないし、気持ち的にも楽じゃないですか。ストレスが多いことはやりたくないんです(笑)。自分達のアトリエで制作をしているような感じで楽に作りたい、好きに作りたい。ラフに描いて、それがいい場合もある」

―たしかにアートワークにしろマーチャンダイジングにせよ、プロモーションすらも全部自ら好きにやって楽しんでやってるのがわかります。バンドの運営や対バンの選び方までそれを徹底しているのが凄いなぁ。

ATSUO「あ、そうだ。これ25周年の時に作ったこれまでのアー写を集めたポストカードなんです」

―最初のアー写からですか。 わぁーどれもカッコイイですねえ。

ATSUO「アー写もポージングや構図のラフを描いてカメラマンに指示出しして撮ってもらってます」

―アー写にもいちいちこだわってきたから、こういうまとまった形にできるんでしょうね。

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Boris - 2014

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Boris - 2017

ATSUO「Borisは絵描きの部分とステージで培ってきた部分が両輪で動いてて。それはツアーする中で作られてきたんだと思うんですよ」

―それは面白いですね、絵描きの部分がステージのATSUOさんを動かし、ステージのATSUOさんが絵描きの部分を刺激して。そうしていろんなことに挑み続けてるわけですね。

与田「バンドが何事も自分たちで決断できる状態をキープしているというのが大事ですね」

ATSUO「特にコロナ禍になって、その状態を続けて来たから動きを止めないでいられるというのはありますね。どこかに所属していたら外部の事情で待たなきゃならないことも出てくる。ほとんどの作品の原盤権についても自分たちで管理してます」

与田「いや、それほんといいですね!僕もインディーの制作をはじめて32年なんですけど、常々思っているのがバンド側がマネージメントやレーベルを選んだり雇ったりするべきなんです。海外は全部そうじゃないですか。日本は構図が逆ですよね。だからこそレーベルもバンドに選んでもらえるように頑張るわけだし、マネージメントも独自の強みを持とうとするし」

ATSUO「そう、日本は芸能界的なシステムなんですよ。”所属する”という」

与田「ヨーロッパもアメリカも逆じゃないですか。マネージャーはバンドが雇うべきですよね。もちろん日本はインディーシーンが小さいからそれ以前の問題かもしれないですけど、気持ちとしてはそういうバンドが増えて欲しいです。だからATSUOさんの話を聞いてると嬉しくなりますね」

―Borisはバンド運営的にもすごくお手本になりますね。ところで、ある時期からトリオバンドという形態に捉われなくなりましたよね。そればかりか各々の担当楽器も変幻自在だったりとか。そこもなかなかできないことだと思うんですよ。

ATSUO 「でも実は「バンド」にはすごくこだわりがあるんです、だからこそ壊したいと思える」

―あぁ、なるほど。こだわってるからこその解体というか。

与田 「でも聴き手にはATSUOさんのそういうこだわりは伝わってるような気がします。なにをやってもBorisということは理解されてるんじゃないですかね」

―そうですね、絶対にATSUOさんのソロには見えないですから。

ATSUO「メンバーのキャラクターや在り方を音の世界観と一緒にブーストして描いたり、そういうことも音の一部ですね。アメリカのインディーバンドってメンバーが等身大な感じありますけど、うちはメンバーのパーソナリティとはかけ離れた虚像をお客さんと一緒に作ってる部分もあります」

―「パーソナリティとはかけ離れた虚像」か……すごい。確かにそうなってます。

ATSUO「そういった意味で「バンド」の可能性を追求している所もあるので、メンバーのエゴやパーソナリティがバンドや音楽の足枷にならないように、とは思ってますね。所謂「バンド」の方法論が音楽の制約になることもあるんで、そういうのはどんどん破壊していきたいです。でも鍛錬やストレスになるようなことはなるべくしたくないですよ。これまで身体的にもずっと無茶をしてきてるので、今はなるべくストレスをなくす方向で(笑)。 スリーピースなので、美しい三角形になるような……そうありたいなあと思いますね」

与田 「そういう意味でもメンバー間のバランスはまさにバンド的なんですね」

―敢えて訊きますが、たとえばBorisでできないことをソロでやったりと考えます?

ATSUO「ソロもたまにやるし、他にも森川さん(Z.O.A、血と雫)達とやったりもあるんですけど、その時々考えることも結局Borisに吸収されることが多いですね」

―ちゃんとフィードバックがあると。これまで解散の危機みたいなことはなかったんですか?

ATSUO「それはありますよ、これだけ長いとメンバー以外の事情も出てくるじゃないですか。もう続けられないのかな、と思うこともありましたよ」

―音楽的な話しではなく、そういうこともあったんですね。

ATSUO「でも、二人は僕の無茶苦茶な要求にずっと応えてくれますね。僕というか、僕がキャッチしたヴィジョンに対してですかね。TAKESHIはどんな抽象的な要求にも音で応えてくれるし、WATAも色々な無茶ぶりに文句言いながら付き合ってくれてる(笑)」

― 文句言うことは言うんですね(笑)。話をヒストリーに戻すと、えっ!?と思ったのが2008年NINE INCH NAILSの全米アリーナツアーのサポートだったんですが、あのぐらいから海外での認知度が格段に上がりましたよね。


ATSUO「『あくまのうた』(2005)がPitchforkで高評価を受けて、その後のリリースが『PINK』(2005)なんですけど、そのタイミングでEARTHが復活したりsunn O)))の作品がでたりと3者のリリースが続いたんです。そこで今で言う“ドローンメタル”のシーンが形成されていったんでしょうね。その次の『SMILE』(2008)の時にジム・ジャームッシュの映画での楽曲使用やNINE INCH NAILSのツアーが決まったんです。だから『PINK』リリース後の種まきが大きかったかな。あの時は年に3回もアメリカに行ってたんで。かなりめちゃくちゃやってました(笑)」

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Boris - 2005

― ジム・ジャームッシュやNINE INCH NAILSにはどうやって届いたんでしょう?


ATSUO「シーンが形成されていく中で『The New York Times』の取材を受けたり、特にニューヨークで話題になっている感じがありましたね。ヘルムート・ラングからも連絡がきてコラボしたり。ジャームッシュはよくライブに来てくれてましたよ」

―では、いきなりブレイクというよりは徐々に盛り上がっていったんですね。

ATSUO「そう、『PINK』から『SMILE』が出る流れでいろんな話が来て、実際自分たちもその時期にバンドで生活するようになったし」

―そのころ日本ではどんな感じでしたか?

ATSUO「『PINK』でようやく下北沢SHELTERが埋まるぐらい?」

―まだ新宿LOFTとか新代田FEVERではないんですね。

ATSUO「そう、だから日本ではそんなに売れてる感じではないです」


― この頃はビルボードにチャート・インのニュースにも驚かされましたよ。

ATSUO「ただ、それはミュージシャンや音楽関係の人にしか伝わらなかったと思います」

―同世代のバンドがほとんど解散してる中すごいなーって思ったんですよ。

ATSUO「実際NINE INCH NAILSとやって以降、アメリカではマスに広がっていった実感があるので、彼らの影響力は感じました。それとショービジネスのトップの現場を裏側から見れたことは大きかった」

―海外でヘッドライナーというか単独ライブが成立するようになったのはいつでしょう。

ATSUO「『PINK』の頃からヘッドライナーはやってましたね。『SMILE』のショーケースの時はニューヨークがニッティング・ファクトリーだったかな。そのあとのツアーは大都市では1000人ぐらいの会場になっていって。2010年ぐらいにはニューヨークの会場はソールドアウトするようになりました」

―おぉ!! すごいですね!

ATSUO「2009年のツアーは年間100本あったけど日本は1本だったんです。その年はだいぶ疲れました(笑)。音楽だけで食えるようにはなったけど、それを続けていくイメージをまったくしてなくて。以降それを続ける方が大変でしたね。アメリカではツアーライフというか、バンドやそのスタッフと生活していくライフスタイルがあってですね。すごく売れてアリーナでやってとかではなく、ある程度の規模でツアーしながら暮らしていくことも可能なんですよ。だからニューヨークで1000人入るくらいの認知度がアメリカであれば食っていけるんじゃないかな。人数の少ないバンドであればね。アメリカの友達のバンドなんかは年間で200本ブッキングしたりしてライヴを延々続けていけてますから。だいぶタフな生活ですけど、そういうライフスタイルの選択肢があることで文化としての根付き方が違う。日本だと東名阪のツアーでも利益出るのは東京だけだったりね、消耗が激しい」

―日本はメジャーなバンドでもそういう感じありますもんね。

ATSUO「そういうこともコロナ禍に入って過去の夢物語みたいになってしまって。今はみんな動員が減ることを食い止めるので精一杯だと思うんですよ。でも、いい時代だっただけでは終わりたくないですね」

―Borisはアメリカでブレイクしても日本はどうでもいい、みたいにはしてないですよね。

ATSUO「してないですよ、日本でももっと聴いて欲しいとずっと思ってます」

―映画『告白』のサントラだったりAvexからのリリースだったり、ちゃんとアンテナはって無視できない国内の音楽好きもいるんですよね。

ATSUO「国内に関してはいつでもその時々のレーベルだったりスタッフを通じて働きかけてはいるんですよ。ただ日本はやればやるだけ消耗するというのはありました。アメリカはツアーしてれば少しづつでも良くなっていくんですけど、日本は難しいですね。海外で稼いできて日本のプロモーションで浪費するという感覚はずっとあります、でも聴いて欲しいじゃないですか、母国でも」

― 僕も今回のプロモーションを手伝って欲しいと言われた時に、最初はもう僕がやれることなんかないぞって思いましたからね。結局、紙媒体はほとんどないしネットも大手は広告費が必要。難しい時代になりました。とはいえ、そんな中で今回キリキリヴィラとBorisが組んだのはとてもおもしろいことになったなと。キリキリから出てるNEHANNも僕は大好きなんで。

ATSUO「実際、NEHANNもツネちゃん(聞き手)のtwitterから知って、アルバム聴いてMV見て。だから結局愛のある草の根運動みたいな方法しか信用出来ない部分もある」

―キリキリはやっぱりLEARNERSのイメージが強いですが、その前にNO NO NOを出したじゃないですか。あのリリースが自分的にはけっこう衝撃で。こういうハードコアも出すレーベルなんだ!と。振り幅がとても痛快で。そういう動きって最近あまりないし。だいたい決まったスタイルからはみ出さない、それも大事なことですけど。毎回、なにか仕掛けてくるBorisとキリキリヴィラが組んだら面白いだろうなと。

与田 「それは嬉しかったですね。日本だとインディーでバンドを続けていくのもしんどいじゃないですか。だからレーベルの運営自体をひとつの表現として考えることも難しくなってると思うんです。でも俺はROUGH TRADEやCREATION、FACTORYに憧れた世代なので、なんとか工夫しながらやりたいんですよ。80年代から2000年ぐらいまでは日本でもユニークなレーベルが沢山あったでしょ? ほんとに面白い音源出してて、そんなに売れなくても音楽好きにとっては衝撃の作品が多かったと思うんです。そういうことを今の時代なりにやりたいです」

―そういう気持ちでやっているのが伝わってきたんです。普通これだけバラバラなラインナップだとディスクユニオンとかメジャー内インディーがやってるレーベルみたいに見えると思うんですけどそうは見えない。なにか全部がつながっているイメージありますね。

ATSUO「まずレーベルの名前がかっこいい(笑)。ロゴもね。そういう直感は大事で、美学が滲み出てたりしますからね。そういうのは言葉じゃない所で伝わってくる。実際話させてもらって、こんなに価値観が共有出来るなんて!と驚いてます」

―素晴らしい! 今回もBorisはまだ日本でも自らの音楽を浸透させたいんだなっていうのが再確認できました。

ATSUO「うん、今回は特にTOKIEさんやsuGarさん(Buffalo Daughter)にも関わっていただいてるので間口を広くしたいというのはあって。関わって頂いた以上ちゃんとプロモーションもしないと恩が返せないという気持ちもあります。でも基本楽しくやりたいですね」

与田 「そうですね。ほんと、好きな音楽の話を通じる人としたいだけですよ(笑)」

ATSUO「それこそ今回の国内リリースの話はツネちゃんとBIRTHDAY PARTYやCRAMPS、あとGALLON DRUNKの話をしてるところから発展したので(笑)」

―GALLON DRUNKカッコイイけどいま誰も聴いてないだろうなって話とか(笑)。

与田「そうですよね、そういう話したいですよね(笑)」

―さっき散々海外でのリアクションを訊いといてなんですが、ここ10年ぐらいは“あのNINE INCH NAILSが!”とか、”イギー・ポップが、ルー・リードが、ジャームッシュが”とか、そういうトピックだけが一人歩きしててBorisというバンドの実態が語られなさすぎてるのではないかと思うんですよ。それは書き手の責任がありますが、そういう見出しだけが一人歩きするんじゃなくもっと聴いて欲しいんですよね。

ATSUO「これまでその伝え方しかやってもらえてなくて今の状況なんですね(笑)。実際ルー・リードに呼んでもらったって話しても「へー」で終わるんですよ。本来プロモーションは自分達の音楽や活動に興味持って欲しいし、聴いたり観たりして欲しいわけで。きっかけがそういう「海外云々」ばっかりだと「へー」で終わってしまう(笑)」

―ハッシュタグが多すぎるんですかね。あと、洋楽コンプレックスを刺激しちゃうとか。

ATSUO「ずっと僕は逆プロモーションだと思ってたんですよ、海外の話題ばっかりというのは」

―そうですね、伝え手の怠慢もありますね。

ATSUO「もっと自分達の音自体を聴いてもらえるキッカケが増えてくれたらと常々思ってます」

与田「音楽好きを増やしたいですよね」

ATSUO「1000人でいいんですよ。ライブやっていても1000人を超すとなんか音が届かない感覚があって。1000人でちょうどいいんですよ、それぐらいだと自分たちでコントロールできてちゃんと音楽を届けられる。それをちゃんと日本でも作りたい」

与田 「わかります。僕らもいつも目標は300から500です。たったそれだけでも難しいですから」

ATSUO「1000を超えるとまた違った煩わしさも生まれますから。あと日本は1000人では食えないから大きくしないといけなくなりますよね。そういう日本の事情、難しさは察します。海外でも国内でも常に新しいことをやろうと思ってきましたから、拡張したいし更新したい。そうなると知らなきゃいけないことも多いし勉強は必要ですね」

与田 「そうですね、ヴィジョンを持って必要なものを客観的に意識するタイプは多くないですね。イメージで進みがちなことが多い」

ATSUO「まず音楽を聴かないとダメですね。先端でなにが起きているか当事者として感じつつ、その先の新しいことにトライしないと。そうでないと続けられないです」

―素晴らしい姿勢だと思います。さて、今回のキリキリヴィラからのリリースですが。

ATSUO「今回は先にアルバムが出来てたんです」

―あ、そうなんですか。シングル『Reincarnation Rose』より?

ATSUO「去年(2020年)の6月には録音が終わっていて」

―ということは去年『NO』のプロモーションしてる時点でもう出来てたわけですね。

ATSUO「そう。ほんとはアルバム『W』もすぐに出したかったんですけどエンジニアが別の仕事で忙しくなって。suGarさんも8月にはポストプロダクションが終わってたんです。でも、こういう進まないことも何らかの必然と思いながら他の制作を進めていました」

―まずsuGarさんにプロデュースをお願いした経緯を教えてもらえますか。

ATSUO「suGarさんとはずっとなにか一緒に作れないかな?って思ってたんです。『W』のラフミックスが出揃った時にこのタイミングだ、と思ってオファーしたら快諾頂けまして、サウンドプロデュースという立場で関わってもらいました。その頃、WATAのFUZZペダル(アメリカのペダルメーカーEarthQuaker Devicesとの共同開発)の話も並行して動いていたんです。アイデアとしてFUZZと一緒に何か作品を出そうと早い段階から考えていました。でも『W』ではほとんどFUZZ使ってなくて(笑)。アルバムのリリースもコロナの影響でどんどん延び延びになっていきました。そこでアルバムの前にこのFUZZをふんだんに使用した曲を作ろうということになり、シングル『Reincarnation Rose』を出すことにしたんです。TOKIEさんとsuGarさんにも今一度参加してもらって」

― 順序が逆だったんですね。suGarさんとやってみてどうでした?

ATSUO「suGarさんのパブリックイメージって熱いじゃないですか? 言うことはっきり言うし。でも一緒に作業してみるととても冷静で、こちらの要望もちゃんと聞いてくれて、ちゃんとジャッジもする。とにかくバランスのいい方。もちろん機材のこともわかってるし、ギターめちゃ上手いし歌も上手い。話のテンポや色々なスピード感もちょうど良くてsuGarさんのバランス感にだいぶん助けてもらいましたね。僕はわりとガシガシ行くほうなんで(笑)」

与田 「まさにプロデューサーですね」

―セルフプロデュースとの違いはなんですか?

ATSUO「いろいろなスタイルの作品を出してると思われてますけど自分達で出来ることはもう高が知れてます。突破していくことがなかなか難しい。あとメンバーがステージ上で演ること以外はあまり録音しない方向になってるんですよ。だからポストプロダクションで録音作品として誰かに新しい味付けをしてもらえると自分たちの気持ちも新鮮でいられますね。プロデューサーによっても色々あると思いますけど、suGarさんはバンドが向かいたい方向へ飛距離を出してくれる方でした。僕はBuffalo Daughterが好きでよく観に行ってたんで、一緒に作業してると「ああ、自分はBuffalo Daughter からこんなに影響受けてたんだ」っていうことに気がついたり(笑)。Buffalo Daughterはこの間の最新作もとてもよかったですね」

―TOKIEさんとはどういう流れで?

ATSUO「EarthQuaker Devicesで関連アーティストを集めて食事をする機会があって、そこで初めてTOKIEさんと話ができて。suGarさんとも同じタイミングですね」

―TOKIEさんのベースが欲しいという感じですか? それとも一緒にやってみたいって方が強かったんでしょうか。

ATSUO「仲良くさせてもらうようになって、TOKIEさんのオーガニックな指向や価値観とか相性が良くて。一緒に音出したら楽しいだろうなと思ってました。メジャーシーンでも活躍していて文字通りロックスターじゃないですか。でも快く引き受けてくれて。コロナ禍に突入して直ぐでしたか、最初に「アルバムの制作中で、一曲参加して欲しいんです」とお願いしました。TOKIEさんもリモートでのセルフレコーディングが出来るようになりたいと考えていた時期だったようでタイミングよかったんですね。それでいきなりとは思いつつ20分のドローンな曲をリクエストして(笑) 」

― いきなり20分(笑)。

与田 「その場合は曲のラフを送って、ベースを入れてもらうんですか?」

ATSUO「そうですね。Borisはクリックも使ってないしリズムもグニャグニャなのに、「じゃあやってみる」って。さすがにお上手ですし、様々な現場を渡り歩いて来てる方なので、初めてのセルフレコーディングでも録れ音バッチリでびっくりです。更に追加で「ロックで弾きまくる」というTOKIEさんの得意なアプローチでシングルもお願いしました。録音した日にインスタに動画あげたらすごい反応で、リリースが楽しみになりましたね」

―その結果、あのアー写、あのMVですしね(笑)。

ATSUO「あれも楽しんでもらえると思います」


―こう来たか!っていうね。Borisは毎回そうなんですけど今回の「こう来たか!」は特別凄いです。

ATSUO「EarthQuaker Devicesというペダルのブランドもこういうノリを面白がってくれるので(笑)。今回は思いつきのアイデがすごい広がりや飛距離を生んでいて、自分達もとてもワクワクしながら制作しています。架空のメンバーでのアー写やMVとか、これまでのバンドのイメージを壊すようなことをどんどんやってみると、逆になにが「Borisらしさ」なのかわかってくるんですよ。譲れないところがなんなのかとか、それは面白いですし、いろいろな発見もありました」

―今回の“個展”はまだまだ驚かされたり、楽しいことがいっぱいありそうですね。

ATSUO「自分たちが楽しくないと、聴いてくれる人たちも楽しんでくれないと思いますから。いろんな人に楽しんで欲しいですね」

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2022年1月21日発売 Boris 30周年記念アルバム『W』予約受付中
https://store.kilikilivilla.com/v2/product/detail/KKV-127

収録曲
01. I want to go to the side where you can touch… (5:24)
02. イセリナの神様は言葉 -Icelina- (5:18)
03. 数に溺れて -Drowning by Numbers- (4:16)
04. Invitation (2:56)
05. 未来石 -The fallen- (4:30)
06. 善悪の彼岸 -Beyond Good and Evil- (3:51)
07. Old Projector (4:38)
08. 知 -You Will Know- "Ohayo" Version (9:20)
09. 乗算 -Jozan- (1:25)
10. ひとりごと -Soliloquy- (6:19) 日本盤ボーナス・トラック

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