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Ryインタビュー

KKV Neighborhood #177 Interview - 2023.07.20
インタビュー、構成 by 田中亮太

Terutaka Aritomiを中心にしているバンド、Ry。彼らがこのたびリリースしたセカンド・アルバム『新しい太陽』を、筆者は本サイトのレヴュー記事で〈アフターレイヴに聴くべき音楽〉と称した。フォークやアメリカーナからの影響を感じさせるオーガニックなアンサンブルはもちろん、それ以上に言葉で描き出される連帯と孤独の感覚に、ダンス・ミュージックやレイヴ・カルチャーに特有の体験を見たからだ。ゆえに、今回のTerutaka Aritomiへのインタビューでは、『新しい太陽』に特有のサイケデリアやユーフォリアが、彼のどんなバックグラウンドや価値観に基づいているのかを掘り下げることに主眼を置いた。ナチュラルな語り口に、Ryというバンドの枠に収まらない理由が垣間見える、そんな話を聞くことができたと思う。

―Aritomiさんは僕と同い年のようなんです。それもあって思春期にどういう音楽を聴いてきたのかが気になっています。

Original Loveとかチャゲアスとかを聴きつつ、中学生のときに布袋からメタルにハマって、ギターをはじめて……みたいな流れでしたね。近所にメタルに詳しいお兄ちゃんがいて、いろいろ教えてもらったんです

―ということは、まずラウドなものから音楽に入ったという感じ?

流行っていましたしね。メタル以外でもブランキ―やミッシェルはひととおり通ったし、以降はダムドとか70年代パンクを聴いていました。高校を出てからもうちょっと広がって、アンビエントやトランスにハマりつつ、ノイズやハードコア・パンクにもクラって

―Ryの音楽にもトランスやアンビエントからの影響を感じられます。僕らが10代後半の頃は日本のレイヴ・カルチャー全盛期でもあったと思うんですけど、とはいえ誰しもがアクセスできるものでもなかったと思うんです。Aritomiさんはどのように出会ったんですか?

高校卒業後にヒッピーみたいな人との出会いがあって、それでレイヴ・カルチャーとかを教えてもらって。それが入り口ですね

―AritomiさんがRy以前にやられていたhawkcrowerはレイヴとも親和性が高そうなトラッド~生音のグルーヴっぽいサウンドでしたよね。

そうですね。僕はアコギを演奏していました。バキバキのトランスのレイヴっていうよりも、トランスの後に出てきた、日本各地の小さなフェスとかパーティーとか、そういった性質のイヴェントに出ることが多かったですね。あとはクラブとか

―Ryが2017年にリリースした『1st EP』の紹介文には、the rabiesというバンドのメンバーも在籍しているというふうに書かれていました。このthe rabiesは?

Ryの初期ドラマーが在籍していたバンドですね。音楽的にはゴリゴリのメタルコアでした。音楽やってる知り合いがそもそも少なくて、もともと繋がっていた彼に声をかけたという感じでしたね。当初はバンドという編成をとりつつ、アコーティスティックな音楽をやりたかったんですよ。当時マイス・パレードとかが好きで、あとフラメンコも好きだったりしたので、そういったギターと、オーガニックなドラムが絡む音楽をやりたいなと。『1st EP』の音楽性はそんな感じでしたね

―2019年にリリースされたファースト・アルバム『Just Passing Through』ではレイヴ~トランスの出自を感じさせるプロダクションとポスト・ロック~ポスト・ハードコア的なアンサンブルが上手く融合されていました。すでにRyの独自性は確立されていた印象だったんですが、当時周囲にシンパシーを感じられる存在はいましたか?

自分は主に海外の音楽を聴いてきたので、日本で活動しているバンドが、その影響をどういうふうにアレンジして日本のマーケットのなかで出しているのかを気にしていたんです。ライヴハウス界隈でやっているバンドとかは、そのシーンのなかでやっている印象で、連帯感とか、シンパシーは特に感じたことがないですね。そもそもライヴハウスとかに繋がりがない状態で始めたので。自分にあまり馴染みがない場所だったし、そこで演奏するのも少し変な感じがしていましたね

―『Just Passing Through』を作っていた頃は、特にどういう音楽に興味を持たれていたんですか?

ジャグジャグウォーとかモーゼス・サムニーとかを好きでしたね。もちろんナショナルとかスフィアン・スティーヴンスとかはずっと聴いてたし。いわゆるインディー・ロックを聴いていました

―いま名前を出されたアーティストの作品はエレクトロニクスの割合も大きいですけど、トランスやアンビエントから続くエレクトロニック・ミュージックへの関心みたいなものはありますか?

10代の頃の原体験が大きいというのがあって。そこから、10年20年経っても、あまり更新されていない感じがします(笑)。ハンモックとかヘリオスとかアンビエントっぽいものは好きですけど。彼らに特有の音の粒子が降ってくるような感じとか。でも、積極的に掘ったりはしてないです

―日本のシーンのなかで特にシンパシーを感じれらる存在はないと言われていましたが、今回のアルバムのリリース元であるKiliKiliVillaとはどういう形で出会ったのでしょう?

レーベルを決める前にレコーディングとかは終わっていたんです。僕とサポートの中原くんの2人でほぼ完成させたんですけど、〈良い作品が出来たからたくさんの人に聴いてもらいたいな〉という気持ちが出てきた。ただ、自分たちだけでは難しいし、誰かにサポートしてほしいとなり、いろいろと調べていたなかで、安孫子さんと与田さんのインタヴューを読んで、シンパシーを感じたんです。それでアルバムの音源を送りました

―どういうところに魅力を感じたんですか?

生活と音楽を分け隔てなく捉えて、その前提をもとにアーティストをサポートしているところとか。レーベルが取り扱っているラインナップもすごく個性的で、おもしろいバンドがたくさんいる。NOT WONKやBORISは普通に聴いていたし、一筋縄では行かないレーベルなんだなっていうのはすごく思ってて。間口も広そうだと感じたし、僕らは全然毛色が違うけれど、それはそれでおもしろいと思ったんです

―中原さんにはいつ頃からRyに関わってもらっているんですか?

2020年の春くらいからですね。ファースト・アルバムを出して、そのレコ発をやったあとに、最初のドラマーが脱退しちゃったんです。中原くんとは僕の同級生を通じた知り合いという関係だったんですけど、もちろんRoth Bart Baronのことは知っていたし、ロットも含めて魅力を感じていた。ちょうど中原くんもロットを抜ける前だったけど、手伝ってもらえないか声をかけてみたんです

―中原さんの加入はRyにとってどういう影響を及ぼしましたか?

サウンド面で、漠然としたイメージを輪郭のある言葉で話せるようになりましたね。中原くんも曖昧なまま話さないタイプなので、やりたいことを解像度高く共有できています。あと中原くんのドラムの良さを、何回かスタジオに入って感じられたので。曲を作るときに、そこが生かせるように意識するようになりました

―中原さんのドラムはどんなところが魅力ですか?

大地のエネルギーを感じるというか、オーディエンスを本能的にのらせるようなドラムを叩くんですよね

―今回のアルバム『新しい太陽』は制作当初、どういう作品をめざしていたんですか?

ポップな作品にしたいと思っていました。聴きやすくて。普通に生活していて、通勤中とかにも聴けるやつ。そういったものにしたかったですね。だから曲も短いものがいいなって

―前のアルバムは15分の曲とかも入っていますもんね。ポップなものにしたいと思ったのには、Aritomiさんのリスナーとしての変化も関係しているんですか?

確かにエクストリームなものは、あんまり聴かなくなりましたね。そうした音楽は、作られた非日常感が大きすぎて、なかなか入り込めないというか。でも、もともと好きなんで、吹き飛ばしたいときとかに、フル・オブ・ヘルを聴いちゃうとか、そういうのはありますけど(笑)。ただ、そういう欲求が出るときが少なくなったからか、自然に聴かなくなっているという感じですね

―日常の中で聴ける音楽を、自身の音楽以外でも求めていたという感じでしょうか。

そうですね。音楽をあまり聴かない人とも、一緒にいる空間を成立させる音楽が好きなんです。そういう意識もあってか、自ずとポップなものを耳にする機会が増えていってましたね。密室的なところで音楽をハードコアに聴きまくって、それを作品にフィードバックするというよりかは、もうちょっと共有できるような視点で音楽に接することが多かったです

―コミュニケーションしている場でかかってても、その空気を崩さないというか、その空気に溶け込んでるものというか。

そうですね。キャンプしながら、ナショナルを流しても、その空間は成立するじゃないですか?

―グラインドコアとか流れていると、肉の焼き方も変わってきそうですもんね(笑)

火力を上げすぎて真っ黒になっちゃった、みたいな

―アルバムからの最初のリード・ソングは“Solar Dance”でしたけど、この曲を聴いたとき、中原鉄也ドラムだなーと思ったんですよ。すごく雄大かつ躍動感がある。“Solar Dance”はどういうコンセプトで作ったんですか?

これは、夏の曲ですね。真夏の風景、色彩を思い浮かべながら作りました。最初は弾き語りで作ったんですけど、中原くんがたくさんパーカッションを足してくれて、アレンジのアイディアもバンバン出してくれて。僕は従う、という感じでした(笑)

―真夏の風景というのは、都会をイメージしていますか? それとも山とか海ですか?

都会ですね。都会の真夏の感じが、自分にとってはリアルだったので

―歌詞に〈沢山の命といて ひとりぼっち〉という言葉がありますけど、これは都会の雑踏のなかにいて感じた孤独のようにも捉えられるし、レイヴやパーティーで多くの人と同じ空間にいても踊っていくなかで個という感覚が研ぎ澄まされていく、という体験にも捉えられるなと感じていました。

そうですね。孤独にもいろいろなレイヤーがあるというのは思っていることです。生まれても死んでも一人だと思うので。それを忘れないようにしようっていうのはあるかもしれません

―でも他者と一緒の空間を過ごすっていうのも、好きというか、大事なわけなんですね。

もちろん。大好きだし、大事です

―“BIG LOVE”という曲は、ネオ・サイケとかニューウェイヴっぽさのあるサウンドで、フレッシュさを感じました。

僕として、クラウド・ナッシングスとかのイメージがあったんですけど、中原くんはウォー・オン・ドラッグスとかを感じたみたいで。そのふたつの間に絶妙に着地した曲だなと思います

―アルバム全体を聴いてみて、僕自身はAritomiさんがダンス・ミュージックやレイヴ・カルチャーで得た経験、そこで生じた感覚とかが言葉にはなっていると感じたんです。Aritomiさんのなかでレイヴやパーティーで育まれた人生観や美意識もあると思いますか?

良い面も悪い面も見てきたという感じはありますね。ただダンス・カルチャーに、何か大きな夢を見たり、とかそういうタイプではなかったです。ダンス・カルチャーを通過して、逆に普通の生活を生きづらさそうになってる方もたくさんいたし、現実につまづいている方もたくさんいた。個人的な体験の枠組みがあるとして、そこで何かしらのポジティブなものとか、これまで感じたことがなかった感覚が出てきた、新しい扉が開いたみたいな体験を
得られる文化なんだと感じていた一方で、常に現実と合わなくなる、普段の生活に支障が出る危険性を持っているものだとも思っていました。だから、自分の感覚としては、Ryのやってる音楽に反映されている自覚はあんまりないんですよ。かつて体験できたものの一つっていう位置付けが近いかなって気がしますね

―確かに、僕らの世代はマイナスな面もたくさん見てきたと思います。

レイヴ・カルチャーに紐づいている考え方とか、当時は好きでした。ヒッピー的な思想や、ネイティヴ・アメリカン的なものの教え、インド哲学とか。そういったものとリンクしてるカルチャーってなかなかなかったんで、刺激になりましたね

―KiliKiliVilla自体はパンクのレーベルという面はいまも強いと思うんですけど、パンクやレイヴも精神性で連動しているとは思うんです。〈パンク〉という言葉にはどういう印象を持たれていますか?

パンク……考えたこともないですね

―わかりました(笑)。Aritomiさんはどういうシチュエーションで曲を作ることが多いですか?

散歩に尽きるっていう感じですね。家の近くに結構大きい公園があって、そこで今回の歌詞はだいたい考えました。公園のなかを歩いたり、座ったり寝そべったりしながら書きました

―走るのではなく、歩くんですね。

歩きます。絶対走らないです。ドーパミン系の快楽はあまり好きなんじゃないでしょうね。それよりも幸せ系というか

―Aritomiさんが居心地の良さを感じるのはどういう場所ですか?

海とか山とかは、言わずもがななんですけど。近くの小さな公園も同じように好き。下町みたいなゴミゴミしているところも好きだし、飲み屋とかも大好きです。飲みに行って、普段の自分では絶対に会わないような人と話すようなシュチュエーションってあるじゃないですか。そういう場所が好きですね

―やはり知らない人と出会ったり、話したりすること自体が好きなんでしょうね。

好きですね


KKV-153

Ry『新しい太陽』
Release Date:2023.07.12
Label:KiliKiliVilla

収録曲
1. New Sun
2. Solar Dance
3. BIG LOVE
4. こどものちから
5. Life Force
6. Hell Bell
7. いきもの
8. GIFT
9. NewEra
10. ひとり
11. ふるさと

Now On Sale

感情を音に乗せ、未来を見据えて。
エモーショナルでスケールの大きなサウンド、混沌とした現実の中で不安と向き合う人へのメッセージを正面から歌に乗せて、Ryの音楽が始まる

Ry(ライ)はTerutaka Aritomi を中心とした3人組のバンドとして2015年に活動開始。2019年に1stアルバム『just passing through』をリリース。2020年からはドラムにROTH BART BARONでの活動を終えた中原鉄也をサポートに迎え、新体制での活動をスタート。2023年夏には、コロナ禍で制作された2ndアルバムがリリースとなる。
そのスタイルはオルタナティブ、インディー・ロック、エモ、ニューエイジ、クラシカルなどの要素をクロスオーバーさせた豊かな音楽性と、エモーショナルであり俯瞰的な歌詞が融合し、繊細かつ力強いサウンドとなっている。
深みのあるメロディーが織り成す美しいサウンドスケープと、今の社会では見失ってしまいそうな視点を正面から捉えた歌詞が特徴である。また、シンセサイザーやストリングス、エレクトロニックな要素を巧みに組み合わせることで、ドラマチックで壮大な音楽空間を表現している。繊細かつ力強い表現力で、聴く人々の心に届くであろう。
彼が歌う歌詞には現代社会で抱える不安や孤独、そして希望が織り込まれている。
今作は、ヴァイオリンにMartin Johnson (OAU, JOHNSONS MOTORCAR)、トランペットにchan kengがゲスト・ミュージシャンとして参加している。


9/2 THREE

KKV presents Ry『新しい太陽』発売記念ライブ決定!
9月2日(土)

下北沢THREE
open 18:30 start 19:00
出演:Ry、Strip Joint、WOOMAN
前売 3,000円+1D 当日 3,500円+1D
※高校生以下 エントランスフリー ※要ドリンク代
※Admission is free for people from overseas (one drink order is required)

アルバム発売記念ライブのゲストはStrip Jointと3年ぶりのライブ活動を新体制で再開するWOOMANの出演が決定!

チケットの予約はこちら
https://www.toos.co.jp/3/ticket/


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