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Masatomo Yoshizawa meets XTAL『Guitar Esquisse Volume One』ユアソンのギタリストとXTALが差し出す、奇妙ながらも愛おしい時間

KKV Neighborhood #101 Disc Review - 2021.9.22
Masatomo Yoshizawa meets XTAL『Guitar Esquisse Volume One』(カクバリズム)
review by 田中亮太

YOUR SONG IS GOODのギタリスト吉澤成友による初ソロ・アルバムは、Traks Boysや(((さらうんど)))などのメンバーであり、KKV Neighborhoodにもたびたび原稿を提供してくれているDJ/トラックメイカーXTALとのコラボレーション。柔らかな打ち込みのビートに、サイケデリックかつ繊細なギター・プレイを重ねたインスト集になっている。

前提として、吉澤が優れたギタリストであることに異論を挟むものはいないだろう。ハードコア・パンクという出自を持ちながらも、ラテン/ブーガルー~ガレージ・ロック~ダンス・ミュージックとタームごとにサウンドの志向性を変えてきたユアソンにおいて、彼ともうひとりのギタリスト、シライシコウジによるギター・アンサンブルは、ときに賑やかに、ときにパンチーに、ときにバレアリックに……とさまざまにバンドの演奏を色づけてきた。このソロ作では、そんな吉澤の流麗なギター・プレイを、彼のルーツであるジャズからの影響が垣間見える形で、存分に堪能できる。

とはいえ〈meets〉とあるように、XTALの貢献も大きく、主役=ギターと交感しながらエレクトロニクスを添えていく。序盤の曲におけるラフな手触りを感じさせるポスト・パンキッシュなビートは、どうしたってドゥルッティ・コラムを思わずにはいられないが、アルバムが進むにつれて、サウンドはさまざまに表情を変えていく。XTALが自身のソロ作『Aburelu』で展開していたようなストレンジでエクスペリメンタル、ダビーな側面も持っているし、同作の参照元のひとつであった後期フィッシュマンズを彷彿とさせる、ひたすらに聴き手を〈個〉へと向かわせるようなメランコリアを醸し出しもする。かと思えば、パーカッシヴなラテンのリズムやローテンポの四つ打ちといったダンス・ミュージック的な展開も効果的だ。

吉澤のインタビューによると、今回の制作は彼がInstagramにあげていたスケッチ的なギター・インストをベースに、XTALが音を乗せたり、エフェクトをかけたりすることで進んでいったという。音楽としての完成をめざすというより、そうしたやりとりから生み出される、〈そのときだけの何か〉に価値を置いているからか、Esquisse=〈素描〉と題された本作は、どこか途中経過に位置する音楽といった趣がある。友だちの家で、彼や彼女がさっと手作りで振る舞ってくれた料理のように、レシピやメソッドがあるわけでもない、そのときだけの味、というか。それゆえに、このアルバムには、繰り返しのできない時間における、なんてことのないコミュニケーションの楽しさ、ひいては豊かさがフワフワと漂っている。



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