【マンガ】入江喜和『みっしょん!!』(1-2巻)感想
『ゆりあ先生の赤い糸』が最高に面白かったので『たそがれたかこ』を読み返し、そのままの勢いで連載中の最新作『みっしょん!!』既刊2巻までを読みました。
1巻
24/9/26(木)
『たそがれたかこ』、『ゆりあ先生の赤い糸』と読んできて、どれも40後半〜50代の中年女性を主人公にした話だったわけだが、今回の新連載もそこは順当に変わらず作者と共に歳を取って、54歳の既婚女性の物語であるようだ。
そんな本作の主人公、庵未知(いおり みち)は親から継いだ町の小さな書店を経営しており、その2, 3階が自分たち夫婦と老いた母、妹ら家族の住まう住宅となっており、そこに他の人物が引っ越してくるところから物語が転がり始める──やはり今作も「長屋モノ」のようだ。
毎日ただただ何とか生活を繋ぐ日常に押しつぶされそうになった主人公が、生きる糧として新たな趣味、「好き」を見つける……という筋書きも『たかこ』とほぼ同型だが、若手バンドマンに惚れるたかこに対して、今作の主人公が挑戦するのはMT自動車に乗るために運転免許を取ること──という、ついぞここまできたか、と呆れてしまうほどに地味なもの。
高齢女性が映画制作を始めるとかBLにハマるとか、巷にはそういう「引き」のある話題作のマンガが溢れているなかで、入江喜和だけが、ひたすら自分の身の回りの生活に根差した、どこまでも地に足のついた物語を練り上げている。この覚悟の決まり方に震えるほかない。
運転免許。そう振り返れば、確かに『たかこ』では徒歩orチャリで移動していた(ライブには電車やバス)し、『ゆりあ先生』はタクシーを使っていた印象が強い(財力……)。これまでの入江作品で、自分の車を当たり前に乗りこなす中年女性主人公はいなかったように思う。『おかめ日和』などの過去作は未読なので分からないが。
「自分の足」という言い回しがされるように、免許を取って車を持つことは、日常の生活範囲を拡大するということだ。妙齢の人間の生々しい生活/人生のスケッチを描いてきた作者が、ここにきて運転免許取得を主題に一本の連載を始める、というのは、案外納得できるものだった。(無論、おそらく作者が実際に免許取得をした経験に基づいているのだろうな……とは思う→「あとがき」が答え合わせ♪)
86歳で手のかかる鬱陶しい母の造形はまんま『たかこ』のサヨちゃんの変奏だ。認知症が進んでる分より大変かつ「鬱陶し」がることに引け目を覚えるという点でも一層未知(娘)の負担が大きい。
不登校経験のある子供(息子)は『たかこ』の一花の延長上、という感じもする。独身で実家に居着いている妹へもうまい具合に要素が分け与えられている。
夜によく家を空ける夫……は『ゆりあ先生』の夫と近しいものを感じてしまう。
未知が車に惚れるきっかけとなった、赤いポルシェに乗って浮世離れした見た目の妙齢女性キャラは、『たかこ』における美馬さん、『ゆりあ先生』におけるヤナイリクのような格好良さで、つくづくこういう感じの人に憧れがあるのだなぁとわかる。
1巻をかけて、ようやく未知が運転免許実習を開始したところから始まる。1話冒頭を除いて、まだ車に乗ってすらいない。とんでもないスロースターターだが、それもまたマニュアル車のクラッチペダルを操作しての難しい発進に掛かっているのだろう(テキトー)。
しかし、MT免許を50代で取るのがいかに難しいかが生々しく描かれるので、未知さんにとってはまさにこの上ないチャレンジングな高峰として聳え立つことがありありと伝わる。「地味」と言ったが、とんでもない。これはこれで、少年が大海原に漕ぎ出すのとまったく変わらない、マンガにする価値のある大冒険なのだ、ということが十分な説得力をもって表現されている時点で、すでにこの作品は傑作と言って良い。
この1巻だけでもう登場人物の人間関係が収集つかなくなっており、キャラ総まとめの家系図がほしい。
未知の妹・千世(50)と、義姉の息子・ともき(38)が何やらいいカンジの雰囲気を漂わせているが、今作は主人公の恋愛要素はないのだろうか。また夫が外で不倫している? 「ポルシェの妖精」のキャラがめちゃくちゃ良いので、そことの関係が今後大きく扱われてほしいが、恋愛まで行くとなると同性愛をやることになり、そこまで背負いきれるのか…?でもやってくれたら最高だな……というアンビバレントな気持ち。
2巻
24/9/26(木)
うお〜いい引き! 続き気になる〜〜‼︎
認知症の母の介護と、自動車教習という要素がまさかの「認知」によって繋がるとはたまげたね。
「似たヤツ見つけるの好き」な未知さん好き
家でお手製のMT教習キット作っちゃうの凄過ぎ。『かいけつゾロリ』の発明品見開きページかと思った。
50歳の妹さんの行く末も応援したくなっちゃう
子供の頃からきょうだいで自分だけ親に疎まれるの可哀想すぎる。
元不登校の息子・祥太郎くんはたぶんそうなんだろうなと察していたが、やはり「女装」することがあるようだ。
パイカル先生ともこれから色々ありそうだし、木津先生はもちろん楽しみだし、こっからどうなっていくのかまったく未知数でワクワクが止まらない!
作者のブログに興味深い文を見つけた。
これがすごい。ふつう出来ることじゃない。
主人公の心に火がつくのを待って「毎日の生活をただただ描く」ことなんて、地味ながらほとんどの人にはできない離れ業だろう。(作家のこうした創作法語りはあんまり鵜吞みにしないほうがいいでしょうけど……)
『みっしょん!!』とっても面白いのでオススメです。物語がどういう方向に向かっていくのかまだ(作者にすら)見えてない感じがワクワクする。
とりあえず母に読ませようと、1, 2巻を無言で実家へ送りつけました。