【少女マンガ】水野美波『恋を知らない僕たちは』感想
少女漫画よみたい期に突入しているため、水野美波さんの『恋を知らない僕たちは』(全11巻)を読んでみました。
別冊マーガレットに2017年から21年にかけて連載していた作品のようです。映画化もされているらしいですが当然未見。著者の別のマンガ(『虹色デイズ』など)もまったく読んだことがないホヤホヤの感想です。
1巻
少女漫画強化期間
三角関係の波動を感じて一巻を読んでみた。
少女漫画なのに男主人公なのか〜 しかも男子同士の絡みがメイン!
中学2年に見えねぇ〜 男子ガタイいいなぁ
とか思ってたら次の話でいきなり飛んで高校生編に突入してひっくり返った。そういうことかぁ〜!
まだどれだけの広がりと深みをもった物語になるのかは分からないけど、最初の2話の引きはものすごい。完全に虜になった。
そもそもヘテロ幼馴染関係に疎外される男子が主人公……かと思いきや、あっさり告白して付き合ってるのも驚いたし、そうしてもう1人の男子が本当に想いを寄せる先をぼかして宙吊りにして、今度はそちらの視点で物語を始め、W男子主人公モノであることを明かす……という完璧な構成。
BLの可能性も考えたが、そうではない……よね?
誰も彼もが、片想い、嫉妬、心変わり、失恋の不安に晒されて、関係が流動的な「モニョモニョした」物語として成立していく……これぞ少女マンガ! こういうのをたくさん読みたいんだよ!!
続きがたいへん楽しみです。
「少年漫画のなかの女主人公の割合」より「少女漫画のなかの男主人公の割合」のほうがやっぱり大きいのだろうか。
告白したもん勝ち、という恋愛の第一条。
2巻
全巻一気に買った。
うおおおお そういうことか!!!
英二はやっぱり泉のことが好きだった。おそらく、直彦が泉と付き合いだしてからようやく、幼馴染への自分の恋心を自覚したのだろう(三角関係は恋心に先立つ)。
英二がめちゃくちゃ拗らせてるんだな…… 藤村に言った「しつこいくらいに一途な男」は自分のこと……(それを、絶対に気づかれないであろう他人にサラッと言うのがまた拗らせている)
藤村と英二が付き合いだしてめちゃくちゃビビったけど、そういうことか。直彦ー泉カップルのための偽装恋愛。泉がこちらに引っ越してきたのだとすると、まーた関係が拗れるぞ〜〜 泉が直彦以外の男子を好きになる展開とかある?
太一と池澤の関係を応援しては自己満足している英二がはたから見てかなり気持ち悪かったけど、それもこれも、泉に対しての自分の拗らせた恋心をなんとか昇華しようとしてのことだったんだな。
今のところキャラとしては池澤さんが好きだなぁ…… かわいい。
とにかく、片想いする男子を描きたいんだな、この作家は。というのが明確に伝わってくる。
転校してきた泉が太一を好きになったら、片想いの長い円環が完成する…… さすがにないだろうけど。
3巻
泉さんが現時点では魔性すぎてちょっと苦手。これから内面が描かれるのだろうけど。
偽装カップルは根比べだな。先に英二が泉への恋心を認めて直彦から略奪愛しようとするところまで持っていけば、直彦狙いの藤村さんの勝ち。藤村さんが直彦への片想いを諦めれば英二の勝ち。英二が負ける気しかしねぇ
これ…… 英二くんをひたすらいじめ続けるための話?
とか悶えてたら直彦にも嫉妬不安チャンス与えてて草
とにかく恋に悩んでる男子が描きたいんだな
一方で女子たちはみんな自分の恋愛に一直線で爽やかさがある。
池澤さんが可愛すぎる
ディケンズ『二都物語』!!
読書好き同士の恋とかいうロマーンのかたまり
英二と藤村の偽装恋愛がまず直彦にバレるのか……? そして、そこから英二が泉を好きなことまでバレる……??
太一くんはずっとピュアすぎる。そんなバンドマン男子高校生いねーよ!と言いたいくらいには。
でも好きな子の恋愛を応援したがるのは英二と同じだ。
この六角関係、ここからどう動く!?
最終的に、池澤×太一、藤村×直彦、泉×英二に……なるのかなぁ。英二×池澤になった時点で、太一が失恋するので…… 藤村か泉から惚れられない限り。
4巻
マジか…… 英二お前そこでキスしちゃうのか…… 少女マンガだなぁ〜〜
にしても、その後の収集の付け方を見るに、やっぱり異性愛をフリにしまくってなんやかんやで最終的には英二と直彦の男同士の絆を描きたいのか……?
直彦が殴らずに頭突きしたのはそういうことだよね。かなりBL的にアツい。
藤村さんは、一生懸命に自分に謝る泉などの姿を見て自分がやっていることが恥ずかしくなって反省するの、いい子だな。もっと欲望のままに権謀術数で恋愛やってもいいと私は思います(ドロドロ恋愛劇オタク並感)
直彦と泉のカップルはマジで強固で不動なのか……?
泉もフツーに直彦のことをちゃんと好きないい子っぽいしな……
5巻
太一がフィクショナルなほどピュアな奴すぎて…… 人気はありそうだけど、自分はしょーじきちょっと苦手かも。池澤が好きになって良かったと思える奴でいてくれ、と英二に頭を下げるなんて。むしろキモさがある。利他を突き詰めた結果、利己的にしかなっていないというか。
あとはほぼ丸ごと、泉視点での回想パート(&直彦との対話、和解)だった。
泉さんは…… こうして内面が描かれてみると、やっぱり典型的な少女マンガの女性主人公って感じだ。それなりに天然で、根はどこまでも優しくていい人で、そして複数のイケメンから想いを寄せられる存在……
タッチの差で友達に想い人をもってかれた幼馴染…… もしも英二が先に告白していても、あんまり勝機は見えないけど…… なにせ、ここまで泉がもともと直彦に惚れていたとは思わなかった。両想いじゃないか。
ここから英二が大逆転することある?
直彦ー泉カップルが盤石すぎて不憫だ。
遊び人の元彼と復縁したっぽい藤村さんも心配ですね。。
6巻
池澤さんスパッと自分の恋心を認めて告白しててすげ〜な。。 人生初の告白なのにめっちゃ堂々としている。
野島くん……w お前もそんなに友達のために頑張るのか…… フィクションの男子だな〜〜別にいいんだけど。
「友達ってこういうもんだよなぁ……」←現実では違うと思う
男同士の絆マンガ
英二と藤村は似ている。だからこそ偽装カップルにもなった。英二が片想い拗らせ歴の長い先輩として藤村にマウント取ってて草
人間関係は錯綜しているけれど、根本的にはピュアで善性が通底していて、人を好きになって恋愛するということは、その人(若者)を成長させてゆくものである……というような価値観でキャラクターが駆動している。この多角関係にしてはそんなにドロドロしていない。
だから、六角関係モノとして当然けっこう好みなんだけど、本質的な人間観・恋愛観から来る物語のトーンがあんまり合わない気はしている。
7巻
英二は直彦に洗いざらい打ち明けられてスッキリしただろうけど…… キスまじか……ほんっとこの作品は男同士の関係をメインで描きたいのだということがわかる。もしこれが男女逆で、同じ男を好きになった女同士の関係だったら素直に好きになれたのかなぁ。それってほぼWA2だよなぁ。(でも好きな異性とはあんま関係なくもともと親友だったのが直彦と英二だから、そこは違うか)
英二視点の回想パートは、正直そんなに新規性や意外性もなく、「歳上好き」の振りをし始めた状況と、いかに英二が直彦を信頼して大切に思っていたかが分かったことだけが収穫だったかな。
元彼とまたすぐに別れた藤村さんは……ね、嫌いではないし、ある意味この人がいちばんしっかり恋愛をやっている気はする。かといって好きにもなれないが。
8巻
英二の泉への幼馴染片想いはこれで昇華され切ってしまったのか…… なんか寂しいな。
藤村と英二が最終的にくっ付くのかなー…… なら、直彦泉カップルはそのままに、太一池澤がめでたく成就して大団円だな!
女子3人たちの話し合い……での、泉と藤村の口論?は終始なにやってんだこいつら感。けっきょくいちばん身勝手な感じの藤村でさえも純真でいい子なんだよなー。泉は言わずもがな。そこが好みじゃない。
これで2人が友達になるの意味わからんな……
この作品で描かれる男子の友情も女子の友情もリアリティを感じられない。空想上のそれ、としか思えない。
杉くんとかいう雑な迷惑モブ男を呼び出しての新展開も意味わからん。高校入試で受験票を拾ってもらった恩から太一には頭が上がらないのとか、テキトー設定すぎる。
学校で常に泉が藤村のボディガードしてなきゃいけないと思うのも理解に苦しむ。太一のいる軽音部に藤村が体験入部するフリをするのも。。
9巻
この巻でよくやく物語の着地点(カップリング組み合わせ)が見えてきた。やっぱりそうなるか。いちおう解釈一致
初めは直彦と英二のW男子主人公モノかと思ったけど、言うほどそうではなく、むしろ女子側の主人公として藤村小春を挙げたほうが適切だった。
色々と片想いしたり迷走したり迷惑かけたり苦悩したりした2人が、ここにきてようやく両想いになる。
初めは完全な偽装カップルだったのが、関係解消後に今度は本当の恋人として付き合うことになるやつ、みんな好きだもんね。
保健室のベッドでキスした時は英二お前ってやつはほんと…… と呆れたが、「どちらからしたのか互いに曖昧で確定しないキス」ってのもみんな好き要素だよね。それで互いに自分からしてしまったのだと謝る展開。
藤村さん、幸せになってほしいとは思うけど、やっぱり自分の恋愛において自分勝手なところをちゃんと「反省」して自己嫌悪出来てしまえる、というのが残念。けっきょく純心で善人。個人的にはもっとエゴイスティックなほうが恋愛多角関係劇は面白くなると思っているので。。
この作品でのキャラクターの塩梅は、より「いい人」寄りだということ。こればっかりは仕方ない。
でもなぁ〜 恋愛において、他人に「遠慮」するという要素がデカすぎるんだよな、この作品は。そりゃもちろん、多角関係モノの重要な一要素であるとは思うけど…… どいつもこいつもそれに頭を悩ませていて、もっと自分の欲望に素直になれよ!!とむしゃくしゃする。いい子ちゃんじゃなくてよぉ!!!
もっとドロドロしてくれたほうがいいんだろうな。同性間での口論やケンカも、実際にはまったくバチバチしておらず、むしろ互いのことを大切にしているからこそ表面上で発生しているだけ。もっと本当に亀裂が走ってほしい。絶縁とか。みんな聖人なのでつまらない。
さて、あとは太一と池澤さんが結ばれれば終わりかぁ。このカップルが一番人気そうだな……
10巻
お〜〜 さすがにキュンキュンしました……
だいぶ前の“一途な男”発言を引いてきての「まぁ俺なんだけど」とか、いいですね。
藤村さん、英二、お幸せに……
にしても、キャラのモノローグが複数ページに渡って場面転換を含んで続くときに、その語り手が最初と最後で替わっているように読めるものがときどきあって、「意識の流れ」みたいなことしてる〜〜!と笑ってしまった。
池澤さんが失恋してようやく泣けたのも良かったです。太一の胸で泣くのはさすがに次の(最後の)恋まっしぐら過ぎてアレだけど。ひとりで泣いてくれてたらなお良かった。
めちゃくちゃどうでもいいんだけど、英二と小春のキャラデザの既視感が、『プロセカ』のビビバスの彰人とこはねだったとようやく気付いた。こはねと小春とか性格は全然違うけど。
11巻
うおおおおお 最終巻になってからいきなりゲロ甘ラブラブ展開になっとるやないかい!! こんなん悶えるわ!!!
最終話で太一のライブ中の告白シーンを描かなかったのは尺の問題か、それとも英二と小春のカップル以外に焦点を当て過ぎないようにするためか。 見たかったな〜池澤さんの返事も含めて。。
感想まとめ
えー…… 一巻の当初(中学生編)は幼馴染三角関係モノだと思っていたけれど、むしろそこで成就した直彦ー泉カップルは盤石過ぎて逆に存在感が薄く、直彦にも泉にも好感をあんまり持てないまま終わってしまった。
最後まで読んでみれば、主人公は英二ひとりなのだろう。そこに、女子側のメインとして藤村小春さんがいて、2番手として池澤さんがいる。
小春英二カップルはなんやかんやすごくしっくりくるし、素直にお幸せに〜と思える。いろいろと紆余曲折して苦悩してきた2人だから……。
太一くんは女性人気ありそうだけど、個人的にはフィクショナル男子すぎてどうもまともに受け取れない。
池澤さんもフィクショナル女子なのかもしれんけど、ダントツでいちばん好きなキャラでした。
基本的に4人が片想い状態の六角関係モノということで、その建て付けはひじょーに自分好みなんだけど、いざ読んでみると、人間観というか、キャラ造形のトーンが微妙に合わないと感じた。もっとドロドロして欲しかった。みんななんやかんやで友達想いで、利他精神や自己犠牲精神に溢れている。聖人君子ばかり。恋愛なんて、特に高校生の恋愛なんて、もっとエゴイスティックでええんやで、と思う。そういう物語が読みたかった。
だから、この作品はそういう意味での「理想」の高校生たちの恋愛模様を描いているんだろうと思う。現実はこんなに純情で他人想いな人間ばかりではないけど、だからこそフィクションではこういう爽やかな青春を描いているんだね。
男友達の友情関係もメイン級に描かれている。セクシズムであることは前提の上で、「女性の理想の男同士の関係」だなぁと感じる。それが悪いわけではないが……
男同士のキスを「呪い」として用いるなど、ヘテロ中心主義のなかの「男同士の絆」だなぁと思う。ただ、それは現実のホモソーシャルともだいぶ違う。少女マンガの中にしかない、それ、だった。
『恋を知らない僕たちは』というけれど、私がこの漫画を読んでいていちばん引っかかったのは、そうした(主に同性間の)友情の描かれ方だったので、自分の中では「(リアルな)友情を知らない僕たちは」だった。
いろいろ文句?言ったけど、多角関係モノなのでやっぱりそれなりには好きだし、続きが気になって一気読みしてしまうくらい面白かった。画も常にキレーですげぇなぁと思う。手抜きというものが一切ない。それが逆に単調さを醸し出している感じもするけど…… とにかく絵を描くのが好きなんだろうな、と思う。
あと、ずっと思ってたけど、例えば直彦が陸上部なのにそういう描写がほとんど無く、高校生活の中でもめちゃくちゃ偏った面しか描いてない話だとは思う。恋愛模様以外に興味が無さすぎるというか、恋愛模様を描くために必要なものしか描いていないというべきか。それ故に、リアルな高校生活っぽさはかなり薄い。つくづく夢想=フィクションの恋物語でした。
少女マンガをまたひとつ読めて良かったです。